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(1)介護記録の役割
介護記録とは
介護記録とは、介護施設職員が毎日記入している介護の記録簿です。介護記録は、施設の職員間で利用者の状況を共有でき、よりよいケアに結びつけることができます。
なお、介護記録をつけることは、介護保険法(9条、37条)で定められており、日常業務として欠かすことのできない作業のひとつです。
介護記録の役割
介護記録は介護スタッフや利用者の日記ではありません。介護スタッフにとっても、利用者にとっても重要な役割が4つあります。
①施設職員間の情報共有
介護施設では、日常のケアをする介護スタッフに加え、リハビリ担当や看護師、栄養士、ケアマネジャーなどいろいろな職種のスタッフが働いています。
また、介護スタッフも24時間365日体制なので、複数のスタッフが交替でケアを担当します。
このため、利用者の健康状態や身体の状況、精神状態など詳細な情報共有が必要となります。利用者の詳細情報を残す介護記録はチームケアにとって重要な情報源です。事業所内での事例検討においても、議論を深めることつながります。
②ケアプランの作成
ケアマネジャーがケアプランを継続するのか、または一部修正するのかなどの判断をする際に介護記録を確認します。
介護記録を見ることで、普段の様子や身体機能の回復状況などの変化が把握できます。ケアマネジャーにとって介護記録はケアプラン作成の重要な情報源です。
③利用者家族とのコミュニケーション
利用者の家族が施設に面会に来た際に、「担当者がいないからわからない」、「たぶん○○です」、「○○だったと思います」など利用者の状況を正確に報告できないと、家族は施設に対して不安を感じます。
しかし、介護記録があることで、正確な状況や具体的な経過を報告できるので、家族は施設での利用者の様子を確認できます。また、施設や介護スタッフへの信頼感に繋がります。
④事故の証明
施設内で転倒や誤飲など事故が起きた場合、施設の責任者は事故の状況を行政機関に報告する義務があります。
その際に、介護記録に、事故の状況だけでなく、事故前の経過も記録しておくことで事故が発生してしまった原因を究明することができます。事故前後での利用者さんの変化にもいち早く気づくことができます。
また、利用者の家族への説明にも役立ちます。事故で家族側とトラブルになった場合には、法的根拠にもなるので、普段からしっかり記録しておく必要があります。
介護士として働いていた方から聞きました!介護記録が実際に役立つ場面
実際に介護記録はどのような場面で役立つのでしょうか。
現場で介護士として働いていた経験があり、公認心理師・社会福祉士・精神保健福祉士・介護福祉士・保育士の資格を取得、現在は福祉事業所を経営されている小山けんいちさんから意見を聞きました。
利用者さんが怪我をされた場合、介護記録をもとに日々のケアを振り返り・今後の防止につなげる
日々の記録があるとどのようなケアをしていたのかが分かるので、ケアの見直しや事故防止にとても重要。また、人によってケアの差がなかったかなども確認できます。
また、事故前の利用者さんの様子も分かるようにしておくことで、事故後の変化も明確になるため利用者の異変に気づくことができます。
ご家族からのクレームに記録をもとに回答ができる
利用者家族とのコミュニケーションを取る際に介護記録はもちろん重要ですが、ご家族からのクレームに回答する際にも介護記録は役立ちます。介護記録をきちんと残すことで、どのようなケアを施設側がしていたのかを根拠をもとに説明することができます。
事業所内事例検討において記録を参考に議論ができる
介護スタッフ間で重要な事例検討も介護記録をもとに行うことがあります。記録が詳細に書かれていれば、より具体的に精度の高い議論ができるので、日々のケア向上につながります。
記録をつける習慣があると他者に説明するときにも要点を伝えやすい
介護記録をつける習慣は、要点を押さえて物事を伝える力をつけることにつながります。そのため、他者に説明する時にどんな事をどのように伝えればよいのかを見極める能力が身につきます。これは普段のケアや仕事においても役立つ能力です。
(2)介護記録の書き方
介護記録は多くのスタッフで共有され、また、事故等の際に法的根拠になる大切な記録簿です。この章では、介護記録の書き方についてご紹介します。
主語、述語を明確に書く
自分以外のスタッフなどが読んでも利用者の状況を把握しやすいように残すには次の6W2Hを明確に書きます。
どこで(where) | 具体的な場所 |
いつ(when) | 日付や曜日、時間 |
誰が(who) | 利用者や施設職員の名前 |
だれに(whom) | 相手の名前、組織、関係性 |
何を(what) | 出来事 |
なぜ(why) | 原因、要因 |
どうやって(how) | 方法 |
どの程度(how much) | 具体的な量、程度 |
客観的な表現で書く
介護記録は誰が読んでも同じ認識を持つために、「だいたい」、「ちょっと大きめ」といったあいまいな表現は使わず、「何センチ」、「何mℓ」と具体的に書きます。
また、「いい感じ」・「普通」といった、個人によって程度が違う表現も使わないようにしましょう。
専門用語や軽蔑する言葉は使わない
介護記録は利用者の家族なども見ることがあるので、専門用語や業界用語、略語などを使うのは厳禁です。正式名称やわかりやすい言葉に書き換えましょう。
また、「ボケてる」、「汚い」、「わがまま」といった表現は、利用者や利用者家族が不快に感じます。介護記録に差別用語や軽蔑する言葉を使わないよう十分注意しましょう。
(3)介護記録の注意点
取り扱いには注意を
介護記録は、メモや日誌ではありません。事故やトラブルなどが発生した場合に、施設のスタッフが適正なケアや管理をしていたかを証明する法的な根拠になります。
表現方法や書き方に注意するのはもちろん、個人情報でもあるので、現在使用している介護記録だけでなく、過去の介護記録も含めて保管方法にも注意が必要です。
改ざん防止
施設内で事故やトラブルになったときに、重要な証拠書類になります。後から別の人が介護記録を改ざんできないようにする必要があります。改ざんを防止する方法は、以下の3つです。
- 摩擦熱で消えるボールペンや鉛筆は使用せず、ボールペンで記入する。
- 訂正する箇所は二重線で見え消しをし、訂正者の押印を付す。
- 文末に「〆」や「//」、「記入日」を記載する。
改ざんを防止するこれらの方法を普段から徹底しましょう。
(4)介護記録の文例①食事
介護記録が重要なものと分かると、「どうやって書けばいいのか分からない」と不安になったり、介護のスタッフになってからまだ日が浅いと、「何を書けばいいのか分からない」ということがあると思います。そこで、この章では、具体的な介護記録の文例についてご紹介します。
食事介助の書き方
食事介助の介護記録の書き方です。食事の時の様子や食べ残した場合は、食べ残した食材、残量などを具体的に記録します。
特に食事は栄養を摂取する大事な時間です。食事を残したり、元気がないのは病気などの前兆かもしれません。しっかり記録に残しましょう。
具体例
「食べ残した」、「あまり食べない」などの、あいまいな表現は避け、具体的な数字を記録しましょう。
「食欲がなさそう」「なんとなく元気がない様子」というあいまいな表現は避けましょう。
適切な文は、
「食欲がないと言われ、ごはんを3分の1、お魚を4分の3残された。
表情が硬く、言葉も少なく、笑顔も見られない。」です。
(5)介護記録の文例②レクリエーション
レクリエーション参加の書き方
レクリエーションに参加している時の表情や発言を具体的に記録します。レクリエーションは施設の仲間と会話を楽しむ大切な時間です。
レクリエーションに参加しなかったり、参加しても元気がないのは、なにか悩み事や心配事があるからかもしれません。参加者の様子をしっかりチェックして記録しましょう。
具体例
「ふつうの状態」、「いつものように」等、記録者の主観や、「音楽会を実施」、「体操を実施」といった業務経過だけのものは避けましょう。
適切な文は、
「懐メロのレクリエーションの参加し、**さんは、伴奏に合わせて手をたたき、大きな声で歌っていた。
隣の席の**さんとも笑いながら話していた。」です。
(6)介護記録の文例③入浴
入浴介助の書き方
入浴に関する一連の行程(準備、入浴中、入浴後)の様子や表情などについて具体的に記録します。
入浴は普段とは異なり、からだの動きや皮膚の赤み、かぶれや褥瘡の有無、リラックスした表情などが確認できるので、スタッフは介助をしながら、しっかりチェックし、記録を残しましょう。
具体例
一連の流れの詳細は書かず、スタッフの作業を「→」で省略しないで丁寧に記録しましょう。利用者が拒否した理由や中止に至った経緯などを、詳しく記録しましょう。
適切な文は、
「14:20 入浴の声掛けをすると「今日は入りたくない」と言う。理由を尋ねると「眠いから」とのこと。
15:00、再度、入浴の声掛けをすると「今日はだるい」と言うので、体温を測ると37.3度と微熱を確認。
15:30サービス責任者に確認し、今日の入浴は中止とした。」です。
(7)介護記録を書くために
メモをとる
介護記録を業務終了間際や「時間があるときに書こう」と後回しにしてしまうと、時間や様子、表情、発言内容など細かいことが書き漏れてしまうことがあります。
しかし、頻繁に事務所に戻って介護記録を書くのは不効率で、ケアがおろそかになってしまっては本末転倒です。
そこで、その場その場でメモを取っておけば、後で介護記録を書くときに記録漏れがなくしっかりした内容で書くことができます。
テンプレートを使う
「介護記録をどうかいたらいいかわからない」という場合は、予め文章のテンプレートを作成しておいて、そこにあてはめて書いていくと記録漏れがなく書くことができます。テンプレートの項目が分からないという人には、こちらを参考にしてみてください。
また、介護記録の書き方について、本を参考にする方法もあります。ここでは、お勧めの本を3冊をご紹介します。
よくわかる介護記録の書き方
- 出版:メヂカルフレンド社
- 著作:富川 雅美
- 発行:2017年10月
- 価格:2,420円
早引き 介護記録の書き方&文例ハンドブック 第2版
- 出版:ナツメ社
- 著作:伊藤 亜記文
- 発行:2014年12月
- 価格:1,980円
図解いちばんわかる介護記録の書き方
- 出版:ナツメ社
- 著作:下地 清文
- 発行:2013年8月
- 価格:1,045円~1,650円
(8)介護記録アプリの紹介
アプリを使う
介護記録はノートに手書きというスタイルから、パソコンへの入力に移行し、最近では、端末やスマホのアプリケーションを使って入力する方法に変わってきています。
アプリに従って入力すればいので、記録漏れがなく、また、書き損じもありません。介護記録を電子化することで、業務の効率化、現場スタッフの負担軽減につながります。
なにより、介護記録をいつでも、どこででも見ることができるので情報共有がスムーズに行えます。ここで、お勧めのアプリ3つと、それぞれの利点をご紹介します。
介護サプリ
- タッチペンや指で入力できる
- よく使い言葉を事前に登録できる
- 画像が残せる
- バイタルや体重などの記録がグラフ化できる
- メール機能付き
- QRコードによるセキュリティ管理
参考:介護サプリ
ケアコラボ
- スマホで入力
- チームタイムライン機能でチーム内の共有が可
- 申し送り機能で引継ぎが簡単
- チーム内の既読、未読が一目瞭然
- 画像、動画の記録が可
- 一括登録も可
- バイタルや体重などの記録がグラフ化できる
- 公開制限機能付き
参考:ケアコラボ
ケアビュアー
- さまざまな行政や大学、企業と連携して開発
- ケアプランをいつでも見られる
- 介護記録をいつでも入力できる
- 関係者間でかんたんに情報共有が可能
- 利用者の家族とオンライン面会が可能
参考:ケアビュアー
(9)介護記録でよりよいケアを
介護記録は、法的に作成が定められた記録簿で、スタッフ間の情報共有やケアプランへの反映、家族との良好なコミュニケーションの構築、事故等の証明になる重要な記録簿です。
介護記録を詳しく記入して、家族や職員間のコミュニケーションを円滑にし、高齢者のQOLを高められるケアを目指しましょう。
協力 小山けんいち| 福祉事業所Withket 「誰にもできないことをやる!」をモットーに、Withketにて、居宅介護・重訪・相談支援・放デイ事業を展開。公認心理師・社会福祉士・精神保健福祉士・介護福祉士・保育士の5つの資格を持つ。 【福祉事務所Withket】 千葉県柏市にある福祉事務所。令和1年に設立。 居宅介助・移動支援 「ここら」 Withketの名前は、「一緒」という英単語の「With」に、「ビスケット」と「ブランケット」の語感をプラスしたオリジナルのもの。 |