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(1)エンゼルケアとは
エンゼルケアとは
エンゼルケアとは、亡くなったあとに遺体を清拭したり、衣類を着替えたり、顔に化粧をするなど、葬儀に向けて遺体を処置する行為をいいます。
日本では、死後の処置についてマニュアル化されているわけではありません。エンゼルケアは病院で医師や看護師が行う以外にも、介護施設のスタッフや葬儀業者の方、遺族が行うこともあります。
具体的に行うこと
エンゼルケアは、口や鼻などに取り付けられている医療器具を外した後に、
- 身体を清拭する
- 鼻や耳、肛門などに脱脂綿やゼリーを詰める
- 衣類を着替える
- 化粧をするなどを行います。
などがあります。
エンゼルケアと一言で言っても、その内容は幅広いです。
(2)エンゼルケアの目的
エンゼルケアを行う目的
エンゼルケアは、単純に葬儀のために遺体を処置する、というものだけではありません。エンゼルケアには次の3点の目的で行うものです。
故人の尊厳を守る
死亡後に、体がゆるみ体内にある体液などが鼻や耳などから出てきてしまったり、肛門から尿などの排泄物が出てくることもあります。また、病気や服用していた薬の影響で元気だった頃とは別人のような顔つきや髪型になることもあります。遺体に脱脂綿やゼリーを鼻や耳に詰めたり、化粧をするのは、葬儀で故人の尊厳を守るためなのです。
家族へのケア
故人が入院していた期間が長いと、その間、看病や介護をしていた家族は、「もっと看病していれば」という後悔や悲観、大事な家族を失った喪失感、看病が終わることで心が燃え尽きてしまうことがあります。エンゼルケアで故人をきれいにすることは、家族への心のケアにもつながります。
感染症対策
どんな人でも亡くなった時から、からだの腐敗が始まり、時間の経過とともに腐敗も進んでしまいます。このため病院関係者だけでなく、遺体に寄り添う遺族にも感染症に感染するリスクが高くなってしまいます。亡くなって速やかにエンゼルケアを行うのは、感染症対策という重要な要因もあります。
エンゼルケアの注意点
エンゼルケアを介護関係者や家族が行う場合に注意することがあります。
医療行為はNG
遺体に繋がれたカテーテルなどの医療器具を外す行為は医療行為です。医療行為は医療の資格を持った人しかできません。医療器具を外すのは看護師など医療従事者にお願いしましょう。
感染症対策
亡くなって間もなく、腐敗が進行したり、雑菌が増殖してしまいます。故人をしのぶ気持ちも分かりますが、故人の尊厳を守るためにも医療器具が外されたら速やかにエンゼルケアを行いましょう。
遺体のケア
病院に入院していた場合、病院着をきていることが多いと思います。最期のお別れになるので、愛着や思い入れのある洋服や愛着のある服や着物に着替えさせたり、化粧をして故人が元気だった頃の様子に近づけてあげましょう。エンゼルケアを施された遺体で最期を見送ることで、遺族の心の整理やケアにもなります。
(3)エンゼルケアを行うのに資格はいる?
規定された資格はない
医療行為を行うには医師の資格が必要です。また、身体介助を行うにはヘルパー資格が必要です。しかし、エンゼルケアを行うにあたり規定された資格はありません。つまり誰でも行うことができます。
そのため、家族が行うことも可能なのです。
エンゼルケアを行っている人
以前は、病院で亡くなる人が多かったので、もっぱら病院の看護師がエンゼルケアを行っていました。しかし、近年、介護施設や家で亡くなるケースが増えてきています。
このため、介護施設で亡くなった場合は介護士など介護施設のスタッフや、家で亡くなった場合は家族がエンゼルケアを行っているケースもあります。また、葬儀会社が有料サービスの一つとしてエンゼルケアを行ってくれることもあります。
(4)エンゼルケアの流れ
エンゼルケアの流れについて、病院の場合と自宅の場合の2つのパターンについてご説明します。
病院でのエンゼルケアの流れ
①医療器具を外す
遺体からカテーテルなどの医療器具を外します。ペースメーカーなどの医療器具が体内にある場合は、これを取り除き、傷口を縫合します。
②傷や治療痕の処置
遺体の傷や治療痕、体内の水分等を処置します。
③口腔ケア
喉の奥に消毒液を染み込ませた脱脂綿を詰めて、口から逆流する水分や異臭を塞ぎます。
④顔を整える
鼻や耳などに脱脂綿やゼリーを詰めます。
⑤着替え
病院着から洋服に着替えさせます。
ご自宅でのエンゼルケアの流れ
①遺体の肌のケア
遺体にマッサージをしながら保湿用のオイルを塗り乾燥を防ぎます。
②表情を整える
死後、からだは緩んでくるため表情が崩れてきます。故人の生前の状況に近づけるために、目元や口元を整えていきます。また、髭剃りや爪を切るなど身なりを整えます。
③髪型を整える
寝ている状態が続くため髪が下向き(オールバック)の状態になってしまいます。遺族の思い入れ次第で故人の白髪を染めたり、髪型を整えたりします。
④着替え
故人を死装束に着替えさせます。遺族の意向によっては、お気に入りの洋服やスーツ、着物などに着替えさせることもあります。
⑤死化粧
最後に死化粧を行い、できるだけ生前の状況に近づけます。
(5)具体的なエンゼルケアの手順
エンゼルケアの具体的な手順についてご説明いたします。
①ご遺体とのお別れ
医師から死亡の診断を受けた後、家族と故人とのお別れの時間を設けます。
②医療器具を外す
遺体に装着されているカテーテルなどを体から外します。この行為は医療行為なので、必ず医療関係者が行います。
③傷や治療痕の処置
遺体にある傷や治療の際にできてしまった痣などの治療痕を処置し、きれいな状態にします。
④口腔ケア
口の中は雑菌が溜まりやすく、臭いの原因にもなるので、マウスウォッシュや、やさしく歯ブラシをしたり、ガーゼで口腔内を拭くなど、口の中を清潔にします。
綿を詰める場合は、下を巻き込まないように指で押さえながら行います。口角の内側に綿を入れると、頬に膨らみが出ますので、ご遺体が痩せすぎている場合などは調節してみましょう。
⑤身体のケア
身体のケアとして、顔や体をきれいにします。まず、体をお湯で濡らしたタオルを使ってやさしく拭きます。このときあまり強い力で拭くと皮膚を傷つけてしまうので注意が必要です。
清拭後に保湿ローションを塗布します。同時に髪や足を洗います。体がきれいになったら汚物で衣類を汚さないためにオムツを使用します。
⑥着替え
遺体が着ている病院着などから死装束に着替えます。“死装束(しにしょうぞく)“とは、亡くなった人が浄土へ旅立つ巡礼の装いとして着る白い着物のことです。
死装束の着せ方は、“左前身頃”、“縦結び”で、通常とは逆の着せ方になります。また、故人や遺族の意向によっては白い着物に拘らず、思い入れのある洋服や着物に着替えることもあります。
⑦死化粧
最期に化粧をします。まず、化粧の前に顔のマッサージをします。これはマッサージによって強張った表情をやさしい表情にするためと、皮膚を柔らかくすることで化粧ノリをよくするためです。化粧の順序は、次のとおりです。
- ファンデーションやフェイスパウダーを使って乾燥を抑え、肌の変色を補正します。
- チークカラーやアイブロウ、アイライン、マスカラで血色を補正します。
- リップで、乾燥を防止し、唇の変色を補います。
男性の場合でも顔色を良くするためや乾燥を防ぐために死化粧を行います。リップを使う場合は、茶系やベージュ系を使うと自然な感じの補正ができます。その他に、髭剃りや爪を切るなど身なりを整えます。
なお、この手順は基本的な手順です。実際に行う前に故人が生前に残したエンディングノートに書かれた意向や信仰におけるならわし、家族の思い、地域にある古くからの風習などを考慮するようにしましょう。
(6)エンゼルケアの料金はどのくらい?
エンゼルケアの料金は、介護報酬のように統一した料金設定はなく、病院や葬儀会社によってバラバラです。参考までに価格帯をご紹介します。
医療機関の場合
医療機関でのエンゼルケアの料金相場は、2千円から2万円ほどになっています。葬儀会社に依頼するよりも安い料金設定となっています。
葬儀会社の場合
葬儀会社でのエンゼルケアの料金設定は、リーズブルなものでも3万円からで、高いものは10万円というものもあります。サービスの内容によって料金が変わりますので、事前に調べてからたのむとよいでしょう。
料金に差がある理由とは?
エンゼルケアは、医療行為や介護サービスではないので、価格は病院や業者が決めることができます。このため、エンゼルケアの内容も簡易なものもあれば、遺族の意見を取り入れてくれるものまで様々です。病院でのエンゼルケアは簡単な処置程度の場合や病院のやり方で行うことがあります。
葬儀会社の場合は、遺族とケアの内容を話し合い、遺族の意見を反映してくれるので費用も高くなります。このため病院によっても、また葬儀会社によっても料金に差があります。
(7)エンゼルケアの注意点
エンゼルケアを行うにあたり遺族が注意することが3点あります。
エンゼルケアは保険適用外
エンゼルケアは病院で行っても医療保険が適用できません。同じく介護保険の施設で行っても介護保険のサービスではありません。このためエンゼルケアにかかる費用は全額自己負担(遺族の負担)になります。
遺族が参加できない場合も
病院でエンゼルケアを行う場合、遺族が参加できない場合があります。理由は、遺体が腐敗する前に速やかに処置し、院内での感染症リスクを抑えるためです。特に今年は新型コロナウイルス感染症の影響で医療従事者以外の人をできるだけ院内に立ち入らせないためでもあります。
(8)遺族と故人にとって大切なエンゼルケア
エンゼルケアとは、逝去後に遺体を清拭や衣類の着替え、顔に化粧をするなど故人を綺麗な状態にし、遺体を処置することをいいます。これは葬儀に向けて故人の腐敗防止のためだけでなく元気だった頃の姿に近づけることで、故人の尊厳を守り、故人と遺族のお別れをよりよくするために重要です。
なにより家族を失った遺族の心のケアにもなる大切なケアといえます。エンゼルケアで故人を旅立たせてあげましょう。