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(1)介護施設でのキャリアアップの方法
介護施設で働くスタッフのなかには、将来のことを考えてキャリアアップを目指しているという人も少なくないと思います。では、具体的にどうすればそれを実現できるのでしょうか。
その方法には、以下のようなものがあります。
【介護士さん向け】介護に関わる資格をとる
専門的な知識や技術がない人は、まずは介護にかかわる資格を取得してみましょう。
最初に役立つのは、以下の2つの研修です。
- 初任者研修…介護に関する基礎知識と技術を学ぶ
- 実務者研修…より実践的な介護の知識や技術、医療ケアを学ぶ
実務者研修を修了すると、介護福祉士の試験を受けることができるようになります。介護福祉士になれば、移動や入浴などの身体介護ができるようになり、仕事の幅も広がって昇給しやすくなるでしょう。
【介護士さん向け】ケアマネージャーなどの別の職種を検討する
すでに介護福祉士の資格を取得している人は、別の職種を検討してみるのもよいでしょう。
たとえば、以下のような職種があげられます。
- ケアマネージャー…利用者や家族の相談に応じ、ケアプランを作成する
- 生活相談員・支援相談員…利用者の入退所やサービス利用に関する相談を受ける
- サービス提供責任者…訪問介護でサービスの計画作成やヘルパーの取りまとめを行う
ケアマネージャーの資格は、介護支援専門員実務研修受講試験に合格することで取得できます。受験のためには、介護福祉士や社会福祉士、看護師、理学療法士、作業療法士、栄養士などの国家資格か、あるいは「相談業務を5年かつ900日以上行った実務経験」が必要となります。
生活相談員や支援相談員には、社会福祉士、精神保健福祉士、社会福祉主事などの国家資格が必要です。ただし、自治体によって条件が異なることもあるので、事前にたしかめておきましょう。
サービス責任提供者は、介護福祉士や看護師、保健師などの資格か、ヘルパー養成研修1級の修了、あるいはヘルパー養成研修2級の修了かつ実務経験が3年以上(実働日数540日)あればつとめられます。
【全スタッフ向け】昇進する
現在の職場で、昇進を目指すのもキャリアアップの方法のひとつです。
たとえば、介護スタッフの上には、リーダーや主任、介護長などが置かれ、指示や指導を行っています。現場を取りまとめていくために、高度な専門知識や技術はもちろん、マネジメント力も問われることになります。
介護長になると施設の運営にもかかわり、施設長や管理者などに昇進することもできます。これらは施設全体の責任者として、スタッフの業務や施設の収支、運営の管理、また人材確保や行政手続きなどもつとめていきます。
【専門スタッフ向け】専門資格を取得する
専門スタッフの場合は、専門資格を取得することで、より仕事の幅を広げることができるようになるでしょう。それにともない、昇給も期待できるようになります。
具体的には、以下のような資格があげられます。
理学療法士
- 認定理学療法士:より専門性の高い理学療法を習得している
- 心臓リハビリテーション指導士:循環器疾患の治療や再発予防などを指導できる
作業療法士
- 認定作業療法士:作業療法士としての各種能力が水準以上ある
- 介護支援専門員:ケアマネジャーをつとめられる
栄養士・調理師
- 介護食アドバイザー:介護食レシピを実践できる技術がある
- 介護食士:介護職として水準以上の調理技術がある
- 介護食コーディネーター:おいしい介護食を作る技術がある
(2)高齢者の「食」の市場は大きくなっている
近年、高齢者向けの食品サービスについて市場で大きな注目が集まっています。
その背景には、一体どのような事情があるのでしょうか。
日本の高齢化は進んでいる
少子高齢化にともない、日本の高齢者人口は増加の一途をたどっています。「団塊の世代」が後期高齢者となる「2025年問題」では、国民の4人に1人が75歳以上となってしまう計算です。
そのようななか、高齢者向け食品に対しての需要は一段と高まっています。特に、介護施設では慢性的な人手不足もあいまって、より効率的なサービスがもとめられるようになっています。
サービス内容も、これまでは低価格を売りにしたものがほとんどでしたが、現在では手軽に加工しやすい、栄養バランスが取れている、などといったメニューが人気を集めるようになっています。
高齢者の「食」に関する市場データ
2018年の高齢者向け食品市場は、メーカー出荷ベースで約1,630億円を記録しました。そのうち、施設向けの商品が約1,478億円を占めています。
この増加傾向から、2025年にはさらに全体で25.5%増の約2,046億円となることが予測されています。
宅配サービス
在宅高齢者に対しては、弁当を直接届けてくれる宅配サービスのニーズが大きく伸びています。
それにともない、カロリーやたんぱく質を制限した、いわゆる「未病」を意識したメニューも増えています。こうした状況から、2025年には、在宅向け市場が67.1%増の約254億円まで伸びると見られています。
在宅向け以外でも、近年一気に増えたデイサービスなどの小規模施設で、少しずつ需要が高まっています。
流動食・やわらか食・栄養補給食
流動食・やわらか食・栄養補給食なども、今後大きく市場が伸びると見られている商品です。
在宅高齢者向けの流動食が、薬局・薬店だけではなく、量販店であつかわれるケースも増えてきました。
やわらか食は、レトルトパウチを中心に、電子レンジ対応の商品などが販売されるようになりました。施設向けにも、2019年に朝食向けの商品が登場するなど、よりこまやかなサービスが展開されるようになっています。
栄養補給食品については、介護予防の観点から関心が高まっています。施設では、ゼリータイプの商品を導入するところも増えてきました。
(3)高齢者の「食」にかかわる資格
高齢者の「食」にかかわるおもな資格には、以下の3つがあります。
- 介護食アドバイザー
- 介護食士
- 介護食コーディネーター
その内容を、くわしく見ていきましょう。
介護食アドバイザー
介護食アドバイザーは、介護食レシピを実践できる技術があることを証明する資格です。
介護食アドバイザーの講座では、高齢者の食事について、その心理や生理機能、さらに栄養摂取や誤飲防止のポイントなど、専門知識を総合的に学んでいきます。
介護業界や医療関係にかぎらず、飲食業界で働く人にも広くすすめられる資格です。
介護食士
介護食士は、介護にたずさわる人の調理技術の向上を目的とした資格で、1級から3級まであります。
介護食士の講義では、高齢者の身体的機能や栄養素、衛生管理などの基礎知識を学ぶとともに、おいしく、食べやすく、飲み込みやすい「介護食」の技術を習得していきます。
在宅介護にも応用できるので、介護職以外の人も多く受講しています。
介護食コーディネーター
介護食コーディネーターは、高齢者のために安全でおいしい介護食が作れることを証明する資格です。
介護食コーディネーターの講義では、高齢者に必要な栄養素や食事介助、衛生などの基本知識をベースに、介護食ならではの調理法やコツを学びます。
家族に高齢者がいる家庭などでも、役に立つ資格です。
(4)高齢者の「食」に関わる資格① 介護食アドバイザー
介護食アドバイザーの資格は、一般社団法人「日本能力開発推進協会」が認定しています。同協会が指定する認定教育機関の通信講座を修了することで、認定試験を受けられるようになります。
その履修内容は、以下のとおりです。
- 高齢者の心理
- 栄養学の基礎知識
- 介護食の基礎知識
- 高齢期の病気と食生活
受講期間は3ヵ月程度で、講座費用は約4万円です。
カリキュラムをすべて修了すれば、いつでも好きなときに自宅で介護食アドバイザーの認定試験を受けることができます。テキストを見ながら受けられるので、難易度はそれほど高くありません。得点率70%以上で合格となり、約1ヵ月後に結果が送付されます。
受験料は、税込で5,600円となっています。
(5)高齢者の「食」に関わる資格② 介護食士
介護食士は、内閣総理大臣認定の公益社団法人「全国調理職業訓練協会」が認定する資格です。全国各地の調理訓練校や調理師学校などで講習が開かれ、それを修了すると資格取得となります。
受講期間は約6ヵ月間、費用はおよそ7〜9万円となっています。
講習は1〜3級に分かれ、それぞれ以下のような内容となっています。
介護食士3級
受講資格:なし
- 学科(25時間):介護食士概論・医学的基礎知識・高齢者の心理・栄養学・食品学・食品衛生学
- 実習(47時間):調理理論・調理実習Ⅰ・調理理論・調理実習Ⅱ
介護食士2級
受講資格:介護食士3級
- 学科(16時間):医学的基礎知識・高齢者の心理・栄養学・食品学・食品衛生学
- 実習(56時間):調理理論・調理実習
介護食士1級
受講資格:介護食士2級取得後、2年以上の介護食調理の実務に従事/25歳以上
- 学科(32時間):医学的基礎知識・高齢者にかかわる制度・栄養学・食品学・食品衛生学
- 実習(40時間):調理理論・調理実習
(6)高齢者の「食」に関わる資格③ 介護食コーディネーター
介護食コーディネーターは、通信講座のユーキャンが認定する資格です。
講座では、おもに以下のメインテキストで学びます。
- 知識編:基礎知識を学ぶ
- 実践編:実践スキルを身につける
ほかに副教材として、レシピ集、DVD、旬の食材ポスター、ガイドブックなども送付されます。
受講期間内にすべての課題を提出し、試験に合格すれば資格取得となります。介護食コーディネーターの試験は自宅で好きなタイミングで、受講期間中であれば何度でも繰り返し受けることができます。
学習期間は約3ヵ月で、費用は2万9,000円(一括/10回払い)となっています。
(7)介護食アドバイザー、介護食士、介護食コーディネーターの違いについて
高齢者の「食」にかかわる3つの資格を、一覧表にしてみました。
介護食アドバイザー |
介護食士(1級) |
介護食コーディネーター | |
難易度 | 中ぐらい | 高い | 低い |
受講期間 | 約3ヵ月 | 約6ヵ月 | 約3ヵ月 |
受験資格 | 講習修了 | 2年以上の実務(25歳以上) | 全課題提出 |
費用 | 約4万5,000円 | 7〜9万円程度 | 2万9,000円 |
こうして比較してみると、3つの資格のなかでも、特に介護食士の難易度が高いことが分かります。
介護アドバイザーと介護コーディネーターはそれぞれ通信講座で、試験に合格する必要がありますが、いずれも自宅でテキストを参考にしながら受けられるので、ハードルはかなり低くなっています。
一方、介護食士は試験こそありませんが、実際の学校に通い、実習などもこなさなければいけません。1級の受講資格には実務経験も必要となり、よりプロ向けの資格となっていることが分かります。
このように難易度の高い介護食士ですが、その分だけ資格としての有効性も、介護食アドバイザーや介護食コーディネーターとくらべてかなり広くなっています。より深い知識を学ぶこともできるので、介護食に関するキャリアアップを目指すうえでは、もっともおすすめの資格といえるでしょう。
(8)一般の「食」にかかわる資格もある
介護食アドバイザー・介護食士・介護食コーディネーター以外にも、一般の「食」にかかわる資格にはさまざまなものがあります。
いずれも、介護食などに活かすことができる内容となっているので、キャリアアップを目指す人は取得を考えてみるとよいでしょう。なかでも、栄養士や管理栄養士は介護職にとって重要な資格となっています。
食生活アドバイザーとは
食生活アドバイザーは、一般社団法人「FLAネットワーク協会」が認定する資格です。
食についての健康や衛生から、文化、マーケットまで、トータルな知識を学び、健康な生活を送るための提案を行うことを目的としています。
検定試験は全国各地の会場で行われ、誰でも受けることができます。
試験問題については、同協会公認の通信講座や、試験の3週間前から開講される試験対策に的をしぼった合格講座などで勉強することができます。
フードコーディネーターとは
フードコーディネーターは、特定非営利活動法人「日本フードコーディネーター協会」が認定する資格です。
新しい食のブランドやトレンドを創るクリエーターとして、「食の開発」「食の演出」「食の運営」など幅広い分野にかかわっています。
資格認定試験は、1〜3級の試験をそれぞれ年1回ずつ行います。
3級については、協会認定校の大学・短期大学・専門学校などで所定の課目を履修することでも取得できます。それ以外の人は、中学校卒業が受験の資格となります。
2級以降の試験では、企画書の作成やプレゼンテーションなど、より実践的な能力が問われるようになります。
管理栄養士とは
管理栄養士は、厚生労働大臣が認定する国家資格です。
介護施設や病院、小中学、企業、行政機関などさまざまな施設で、健康な人から病気の人、高齢者まで、それぞれに合わせた栄養管理や指導、給食の運営などを行います。
管理栄養士国家試験を受験するには、まず全国に143校ある管理栄養士養成施設(大学・短期大学・専門学校など)で門課程を習得し、卒業しておく必要があります。学習する内容がとても多く、実習もこなしていかなければならないため、夜間の学校や通信教育などはありません。
ほかにも、栄養士として1〜3年の実務経験を積んだのち、試験を受けることもできます。
栄養士とは
栄養士は、都道府県知事が認定する資格です。
医療機関や介護施設、小・中学校、行政機関、企業などさまざまな施設で、おもに健康な人を対象にして栄養指導や給食の運営を行います。
全国に137校ある栄養士養成施設(大学・短期大学・専門学校など)か、管理栄養士養成施設で専門課程を習得し、卒業することで資格習得となります。夜間の学校や通信教育などでは対応していません。
(9)介護食アドバイザー、介護食士、介護食コーディネーターの月収は?
厚生労働省の「平成30年度介護従事者処遇状況等調査結果」によると、介護施設で働く栄養士の平均月収は30万9,280円、平均年収は371万1,360円となっています。
なお、求人情報で見てみると、最初は23〜28万円程度というのが一般的のようです。
介護食アドバイザー・介護食士・介護食コーディネーターの資格を習得することで、これらを上回る収入を目指すことができるでしょう。
ただし、これらはあくまで付加資格であることを忘れないでください。栄養士や管理栄養士のように、取得するだけでいきなり待遇がよくなるというものではありません。介護食アドバイザー・介護食士・介護食コーディネーターとして学んだ知識を活かし、就職や転職、さらには昇進にも役立てていきましょう。
(10)介護食アドバイザー、介護食士、介護食コーディネーターの仕事の流れ
介護食アドバイザー・介護食士・介護食コーディネーターの資格を持つ人は、実際にどのような働き方をしているのでしょうか?
栄養士と調理師の、それぞれの一日の仕事の流れの例を見てみましょう。
ここから、自分が介護食アドバイザー・介護食士・介護食コーディネーターとなった場合に、どのように働いていくのかをイメージしてみてください。
栄養士(昼食12時・おやつ15時・夕食18時の施設)
9:00 出社
9:30 食材の在庫・発注確認
11:00 配膳のチェック(病気や体調に合っているか)
11:30 昼休み
12:30 おやつの準備
13:30 食材の在庫・発注確認
14:00 おやつのチェック
15:30 夕食の下準備・栄養補助食の作成・盛り付け
16:30 売上・仕入れの確認
17:00 配膳の確認
18:00 掃除・片付け・退勤
調理師(朝シフトの場合)
6:00 出勤
6:30 朝食の調理・盛り付け
8:30 朝食の提供
9:00 片付け
10:00 昼食の調理・盛り付け
12:00 昼食の提供・お昼休み
13:00 片付け・洗浄
13:30 明日の準備・事務の仕事
15:00 退勤
(11)自分にあった資格をとってキャリアアップをしよう
介護施設で働きながらキャリアアップを目指すには、さまざまな方法があります。
なかでも資格取得は、目に見えて分かりやすい成果となり、自分自身にとってもやる気や自信につながるのでおすすめです。
特に、介護食の分野については、今後の市場でも大きな成長が見込まれています。職業としてもより需要が高まっていくはずなので、介護食アドバイザーや介護食士、介護食コーディネーターなどの資格もかならず役に立つはずです。
介護食アドバイザー・介護食士・介護食コーディネーターのほかにも、食についてはさまざまな資格があるので、まずは自分に合ったものからはじめてみるとよいでしょう。