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(1)2015年からストレスチェックが義務化に
近年、精神障害を原因とする労災認定件数が増加の傾向にあることから、労働者の安全と健康の確保を実現するために2014年6月25日「労働安全衛生法の一部を改正する法律」が交付されました。そして2015年12月1日にストレスチェック制度が施行されました。
この法律では、厚生労働省による通達・指針により、50人以上の労働者を有する職場では「心理的な負担の程度を把握するための検査」いわゆる「ストレスチェック制度」が義務化されました。
これまでもメンタルヘルス対策は政府により呼びかけが行われていましたがそれはあくまで努力目標の域でした。しかしこの法律でストレスチェックが従来の努力目標ではなく、正式に義務化されました。
(2)ストレスチェック制度の仕組み
労働安全衛生法では、義務化の対象となっているのは「50人以上の事業所」となっています。
しかし義務化されていない労働者数50人未満の事業所でも、メンタルヘルス対策の一環としてストレスチェック制度を導入するのは望ましいこととされています。
この理由から、50人未満しか在籍していないため事業所でのストレスチェックが義務化されていない事業所がストレスチェック制度を導入し実施している場合、「ストレスチェック実施促進のための助成金」というものが支払われます。
この制度は2016年4月から実施され、義務化されていない550人未満の事業所ではストレスチェックとその後の面接指導などの産業医活動の提供を受けた場合に事業主が費用の助成を受けることができます。
具体的には一労働者につき500円、一事業所につき産業医1回の活動で21,500円が上限3回として助成されます。
また、この制度は2017年度に「職場環境改善計画助成金」、「心の健康づくり計画助成金」、「小規模事業場産業医活動助成金」が新たに実施されました。
さらに、2018年度には「心の健康づくり計画助成金」は企業本社だけでなく個人事業主も加えられ、「小規模事業場産業医活動助成金」は「産業医コース」「保健師コース」「直接健康相談環境整備コース」の3つのコースに分けられるなど、対象範囲も拡大しています。
(3)ストレスチェック義務には、罰則はあるのか
厚生労働省は2017年7月に施行後初となる「ストレスチェックの実施状況」の調査を行い、これを公表しましたが、ストレスチェックの実施報告書の提出があった事業所の割合は82.9%となっています。
つまり、残りの17.1%の事業所については義務化されていながら実施していないことになります。詳しい傾向をみると、事業所の規模が小さくなるほど実施報告書の提出率が低くなっています。
このような報告を行っていない事業所については労働安全衛生法の罰則により最大50万円の罰金が課されます。
また、企業は労働者に対して安全配慮義務を負っているため、ストレスチェックを実施しないと安全配慮義務義務の不履行となり、労働契約法にも違反する可能性があります。
(4)ストレスチェック義務化の目的
義務化されたストレスチェック制度は、労働者のストレス状況を把握することだけにとどまりません。
ストレスチェック制度が義務化された本来の目的はストレスへの気づきを促し、職場環境を改善することで、メンタルヘルス不調者が出るのを未然に防ぐことにあります。
つまり、義務化によって事業所がメンタルヘルス対策を実施することで労働者のメンタルヘルス不調を未然に防止し、働きやすい職場を実現して生産性向上を図ることが最終的な目的なのです。
このため、事業所は義務化されたことにより労働者の一人ひとりがどのようなストレス状態にあるかを把握することも重要ですが、不調の芽を摘み、不調を起こさない職場環境を整えていくことも大切です。
(5)ストレスチェックの具体的な実施対象
義務化されたストレスチェックの対象者は、厚生労働省により「常時使用する労働者」と定められています。
この、常時使用する労働者とは、契約期間が1年以上で、週の労働時間が、通常の労働者の4分の3以上である労働者が該当します。
つまり、正社員のみならず、パートやアルバイトであっても、この2つの要件を満たしていればストレスチェックの対象者となります。ただし、企業の役員は使用者となるため、対象とはなりません。また、派遣社員に関しても、派遣元にストレスチェックの実施が義務化されています。
一方、ストレスチェックの実施対象の範囲は、常時50人以上の労働者を使用する事業所ごとに設置する衛生委員会による調査審議によって、会社ごとのルールをつくることが可能です。
(6)ストレスチェックは、誰が主体となって行えばよいのか
ストレスチェック実施するには、「実施者」と「実施事務従事者」の2人が必要となります。
実施者
ストレスチェックの企画と、結果の評価のほか、結果を集計・分析した上で面接指導が必要な社員を選定します。この実施者は医師や保健師、看護師、精神保健福祉士などが担当することになります。
実施事務従事者
実施事務従事者は実施者の補助を行い、ストレスチェックにおける調査票の配布や回収のほか、個人への結果通知、面接指導対象者へ面接の勧奨、ストレスチェック未受検者への声かけといったことを担当します。
実施事務従事者は通常社内の衛生管理者やメンタルヘルス担当者のほか、産業保健スタッフや人事担当などが担当することが一般的ですが、外部機関に委託することもできます。
ただし、社員の解雇や昇進、異動などに権限を持ち、監督的地位にある場合は、実施者や実施事務従事者になることはできません。
(7)ストレスチェックはいつ実施すればよいのか
ストレスチェックは1年に1回の実施が義務化されていますが、期日を決めて実施しなければならないものではありません。
つまり、いつ行うのかを決めるのではなく、初回のストレスチェックから1年以内ごとに1回のサイクルで実施すればよいことになります。
例えば、一回目のストレスチェックを2019年12月1日に行った場合、2回目は2019年12月1日~2020年11月30日以内に1回実践する必要があるということです。
(8)ストレスチェックを実施する方法
義務化されたストレスチェックを実施する際には調査票を作成し、これを用います。調査票は労働安全衛生規則第52条の9により以下のような項目が定められています。
- 職場における当該労働者の心理的な負担の原因に関する項目
- 当該労働者の心理的な負担による心身の自覚症状に関する項目
- 職場における他の労働者による当該労働者への支援に関する項目
なお、厚生労働省では「職業性ストレス簡易調査票(57項目)」によってストレスチェックを実施することが推奨されています。ただし、必要な項目が含まれていれば、衛生委員会の調査審議などによって事業所の判断で項目を追加することもできます。
(9)高ストレス者を選定する方法
ストレスチェックは一律に点数で高ストレス者を選定するようなものではありません。たとえば職業性ストレス簡易調査票では、「数値基準に基づいて「『ストレス者』を選定する方法」によって選定方法が解説されています。
また、厚生労働省の指針では、以下のいずれかの要件を満たす場合、高ストレス者と選定されます。
- 調査票のうち、「心理的な負担による心身の自覚症状に関する項目」の評価点数の合計が高い者
- 調査票のうち、「心理的な負担による心身の自覚症状に関する項目」の評価点数の合計が一定以上の者、かつ職場における当該労働者の心理的な負担の原因に関する項目」及び「職場における他の労働者による当該労働者への支援に関する項目」の評価点数の合計が著しく高い者
ただし、具体的な選定基準は事業所やさらには部署ごとでも設定することが可能です。これは、職場によって労働環境が異なるためで、
この場合、選定基準の最終決定をするのは実施者ではなく事業所となります。
このため、高ストレス者の選定基準は衛生委員会などで再度調査審議する必要があります。
(10)雇用者側も被雇用者側も、義務化されたストレスチェックの重要性を再認識しよう
ストレスチェックにおいて義務化されているのは、ストレスチェックの「体制構築」、「実施」、「高ストレス者の医師面談」、「労働基準監督署への報告」です。これに加え、努力義務として結果を部署や性別、年代などから集団分析することも求められています。また、相談窓口の設置や、セルフケアによるストレス予防の研修の実施なども推奨されています。
これらが実現すれば、組織における生産性の向上の観点からもストレスチェックはさらに意味深いものとなります。このため、義務化されたストレスチェックの重要性を再認識し、今後も引き続き雇用者側も被雇用者側も積極的に取り組むことが大切です。