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(1)正しい体位をとることの重要性
寝たきりの方や体を思うように動かせない方は長時間同じ姿勢になってしまい、床ずれを起こしてしまうことがあります。床ずれとは、身体の同じ部分がずれたり、圧迫されたりすることによって皮膚に炎症が起きてしまうことを言います。
血流が悪くなることによって、皮膚や筋肉などに酸素や栄養がいきわたらなくなってしまいます。また、長期間同じ姿勢でいると、身体がこわばって痛みが出たり、むくみや呼吸機能の低下も引き起こします。
そのため、定期的に体位交換をする必要があります。2~3時間おきに体位交換することが望ましいといわれています。
体位変換とは、自分で身体の向きを変えることができない人に代わって、身体の向きや姿勢を変えることを言います。
体位変換の目的は次の3つがあります。
同一体位による弊害の回避
同一体位による弊害には、褥瘡(じょくそう)、関節拘縮(かんせつこうしゅく)、沈下性肺炎(ちんかせいはいえん)、廃用症候群(はいようしょうこうぐん)があげられます。
中でも褥瘡は、寝たきりの状態の人が最も起こしやすい弊害であり、適切な体位変換により予防できるものでもあります。褥瘡は同一体位による圧力で、血流が阻害されることで起こります。体位変換により圧迫を短時間で解除し、血流を再開させることが褥瘡予防では重要となります。
ケアを行うため
寝たきりの人のオムツ交換や身体清拭・着替えなどは、同一体位では難しく、仰臥位(仰向け)と側臥位を利用し全身を拭いたり、袖を通したり、オムツを交換したりします。
適切な体位変換を用いることで、介護者の負担の軽減につながり、要介護者本人の安楽にもなります。
QOLの向上
長時間同一体位でいることは、身体だけでなく精神的苦痛にもつながります。長時間同じ部位が圧迫されていると痛みや蒸れで苦痛を感じることになります。
また、ずっと同じ景色を見ている事も精神衛生上良くありません。適切な体位変換を行うことで、要介護者本人の苦痛の軽減につながります。
さらに、体位変換により視界に変化があることで要介護者本人のQOLの向上につながります。
(2)楽な姿勢をとるためのポイントは?
体位交換の際に重要なことは、介護される方がストレスなく楽な姿勢をとれるかということです。体位の種類はいくつかありますが、楽な姿勢をとるための基本的なポイントを紹介します。
体位をとるときのポイント
体位をとるときのポイントは、いくつかあります。
- 身体がねじれないようにする
- 身体とベッドマットの隙間が無いようにする
- 身体に力が入っていないか、関節は楽になっているかを確認する
特定の箇所が圧迫されることがないように、体位交換を行いましょう。ベッドマットに隙間があると、身体が安定しませんので、体位交換をする前にシーツを伸ばして置いたり、ベッドマットの位置を調節したりすることが大切です。
側臥位・仰臥位それぞれの特徴
代表的な体位に、側臥位と仰臥位があります。
仰臥位
仰臥位とは仰向けになって寝る姿勢のことです。寝たきりの方はこの姿勢でいる時間が一番長いかもしれません。安定した姿勢であり、頭部や胸回りが動かしやすいのが特徴です。一方で、気道確保が難しい、舌根沈下になりやすい姿勢でもあります。
側臥位
側臥位とは、横向きに寝ている状態のことのことを言います
上向きで寝ている状態から左向きに横になった状態(身体の左側が下)を左側臥位、逆に右向きに横になった状態(身体の右側が下)を右側臥位と言います。
介護を行う上で側臥位を取り入れる場合、背部の褥瘡(じょくそう)予防のために行うことが多いです。
しかし、側臥位は不安定な体位でもあるため、背部に枕などを当てて安定させます。側臥位では大転子部や膝などがベッドに圧迫されて褥瘡になるリスクが高いので注意が必要です。
その他にもオムツ交換や身体清拭、食事時にも側臥位を利用します。
(3)側臥位の基本的なやり方
仰臥位から側臥位への体位交換のやり方について解説します。方法は対面法と背面法の2つがあります。
対面法は、介護される方と向き合った状態で、身体を自分の方に引き寄せて体位交換をする方法です。背面法は、介護される側の背中側から体を押して体位交換を行う方法です。
(引用:介護専門日本福祉アカデミー公式チャンネル「体位変換 [仰臥位から側臥位] | 動画で身につく介護技術!!」)
対面法のやり方
- 体位変換をすることを説明して、同意を得る。
- 体位交換を行いやすいようにベッドの高さを調節する。介助者の膝から腰程度で楽な体制で行える高さにする。
- 仰臥位で使用していたクッションなどがある場合は一度外す。
- 腕を前で組んでもらう。
- 枕の位置を右にずらして、介護される方に頭を右に向いてもらう。
- 足を一つずつ丁寧に曲げる。
- 介護者の右手は左膝、左手は左肩にあて、利用者を手前に向ける。移動するときは、上半身と要介護者を離さずにこちら側に引くように移動する。この時に臀部(でんぶ)や背部がベッドでズレないように注意する。
- 頭の位置や体のねじれを確認して、調整する。
背面法のやり方
- 体位変換をすることを説明して、同意を得る。
- 体位交換を行いやすいようにベッドの高さを調節する。介助者の膝から腰程度で楽な体制で行える高さにする。
- 仰臥位で使用していたクッションなどがある場合は一度外す。
- 腕を前で組んでもらう。
- 介護者は患側(介護される側の背面)へ移動する。
- 介護者の左手を左膝、右手を左肩に充て、身体全体を前へ倒す。肩と肘を同時に倒す。
- 頭の位置、身体のねじれを確認し調整する。
要介護者の体重が軽ければ、一人でも体位変換は行えますが、1日に何度も毎日続けていれば介護者にも大きな負担となります。
また、褥瘡予防のためにもできるだけひきずらないように移動することが望ましいので、可能であれば2人以上で行う方が良いでしょう。
(4)クッションや枕を使う場合のポイント
体位を安定させるために、クッションや枕、タオルケットを使用することも有効です。関節の重なりを防いだり、楽な姿勢を保つことができます。
(引用:社会福祉法人横浜市リハビリテーション事業団「クッションのあて方レクチャー」)
側臥位でクッションを挟む箇所は?
側臥位の場合、肘や足の間、背面にクッションやバスタオルを使うことが多いです。浮いているところや隙間になっているところ、身体が重なっているところをなくすことが大切です。
スネーククッションの場合
- 身体に添わせるようにクッションを置きます。
- ピローに頭をしっかりと乗せて、首を安定させます。
- 側臥位の体位になったら、頭から膝までクッションを添わせるように挟みます。
- 膝が重ならないように、足と足の間にクッションを入れます。
(5)側臥位をとる際の注意点
側臥位に体位交換をする際のポイントや、側臥位をとる際の注意点がいくつかあります。介護する側とされる側の安全を確保して行うことが大切です。
ギャッジアップ(ベッドの角度をつける)はしない
側臥位の場合、ベッドの角度をつけるギャッジアップはしないのが基本です。体がベッドから滑り落ちてしまう可能性や体位が安定しないことがあります。
関節が重ならないようにする
側臥位の特徴として、関節が重なってしまうことがあります。特に、膝と肩に負担がかかりやすいです。膝はクッションや枕、バスタオルを間に挟むと良いでしょう。
肩は、下側の肩が詰まったようになりがちなので、肩甲骨の下に手を入れて、一度肘の方向にひくことで重さを軽減できます。
シワは褥瘡のもと
シーツや衣類のシワがあると、皮膚への圧迫が強くなり褥瘡を起こす原因になります。体位変換の際には、身体に当たる部分のシワは十分に伸ばし、シーツをピンと張っておくようにしましょう。
一人ひとりの体の状態を把握する
側臥位に限らず、身体の状態や特徴を把握しておくことはとても大切です。どこの関節が動かしやすいのか、痛みがあるのはどこかなどを確認しておきましょう。身体の状態に合わせて、体位の向きやクッションを挟む場所、高さを変える必要があります。
褥瘡や褥瘡になりかけている発赤がある場合にはその部位が圧迫される体位を避けるなどの工夫が必要です。
(6)それぞれの状態や特徴に合わせた体位をとれるようにしよう
寝たきりの要介護者をイメージするとき、上向きに寝ている画をイメージすることが多いですが、決してそうではありません。ケアをスムーズに行うためや、要介護者の気分転換・苦痛緩和のために側臥位になることは多いです。
誤嚥は肺炎を引き起こしQOLを急激に低下させる厄介なものですが、完全側臥位法による食事摂取では誤嚥の予防に効果的であると言われています。
側臥位を用いることで誤嚥を予防し要介護者の安全・安楽、QOL向上につなげることが可能です。
正しい体位変換の方法を習得し、要介護者と介護者両者の充実した生活へとつなげましょう。