(1)ファーラー位(半座位)の利点と欠点
ファーラー位とは、介護の専門用語であり「ベッドなどの寝具に寝た体制の状態から上半身だけを約45度起こした体位」のことです。このファーラー位には利点だけではなく欠点もあります。両方の視点をしっかりと抑えておきましょう。
ファーラー位の利点
呼吸が楽になる
このファーラー位は、そもそも腹部の手術などを行った後にドレナージ(体内に溜まった消化液、膿、血液や浸出液などを体外に排出すること)を促すことを目的として行われてきた体位です。
腹部の内臓によって肺が圧迫されることを軽減できるために呼吸が楽になるという利点があり、食事を取る際に逆流をしないために取られたのがこのファーラー位でした。
ファーラー位の欠点
誤嚥をしやすくなる
ファーラー位で食事をとると誤嚥をしやすくなるという欠点があります。
特にベッドで寝たきりの介護者であればファーラー位で食事を取るということが多くなりがちですが、誤嚥を引き起こしてしまう可能性が非常に高く、危険な体位であるということが言えます。
床ずれになる可能性がある
床ずれとは、体の一部が持続的な圧迫を受け、皮膚組織に循環障害が起こり、その結果皮膚の一部が壊死してしまう症状のことです。
長い時間ファーラー位のままでいると同じ場所の部位が圧迫されてしまい床ずれになる可能性があります。そのため圧迫される部位を度々変えなければなりません。
さらに、身体麻痺などをしている際には介護者本人が身体を動かすことが難しく、時間経過とともに体がずれてきてしまうので数時間おきに体位を変えるサポートが必要です。
(2)セミファーラー位とは
ファーラー位と似た名前の体位で「セミファーラー位」という姿勢があります。
これは仰向けで寝た状態から、上半身を大体15度〜30度程度だけ起こした状態の姿勢です。それ以上上半身の角度を上げてしまうとファーラー位、座位となります。
このセミファーラー位はそもそも腹部を手術した後に腹部内に残っている血液や消化液などを体の外に出すことを促すために提案された体位です。
このセミファーラー位もファーラー位と同様で、腹部の内臓によって肺が圧迫されることを軽減できるために呼吸が楽になり、食事を取る際に逆流をしないようにするという効果があります。
ただし、腎臓部分に体位の圧力がかかりやすくなったり、体の部位の一部分に体圧がかかってしまうという欠点もあります。そのため定期的に体位を変える必要があります。もし介護者自らが体位を変えられないのであれば体位転換のサポートが必要となります。
(3)食べる時の正しい姿勢
食事介助の際に高齢者がどのような姿勢になればいいか、ご紹介します。食事介護の際に高齢者の姿勢を確認するときは、以下の観点に注目して見てみてください。
食事の際の高齢者の正しい姿勢
- 椅子に座って食事する場合、足がしっかりと床につく高さの椅子に深く腰かけてもらいます。このとき膝が90度に曲がっているか確認します。
- 体とテーブルの間に拳一個分隙間を空け、テーブルに腕を乗せた時に肘が90度に曲がる高さに調節するのが理想です。
- ベッド上で食事する場合、背もたれが60度くらいになるようにします。首が後ろに反るようならば、頭の後ろに枕を置き安定させます。
- 腰はベッドの折り目に合わせ、ずり落ちないように膝を軽く曲げられるようベッドを調節します。足の裏にはクッションを置き、足が不安定にならないようにします。
(4)誤嚥を防ぐ方法
また、誤嚥を防ぐためにはセミファーラー位やファーラー位といったような体位に注意するだけではなく、様々なポイントがあります。
食生活を改善する
高齢になると飲み込む力が衰え、誤嚥を引き起こしやすくなります。食事は毎日することですから、しっかりと誤嚥対策をしなくてはなりません。
食生活の誤嚥対策として、以下の点に気をつけてください。
- 食べ物の柔らかさ
- 水分量
- とろみ
食べ物の柔らかさですが、味噌汁などの液体状のものは口から喉奥に流れる速度が速いために気管に入ってしまいやすいです。そのため水分量などに注意して、とろみ剤などを使用することで気管に入ることを避けることができます。
口内運動を行う
他にも、口や首を中心とする運動も、誤嚥を防ぐことに効果的です。
例えば、舌の運動を行うことで口内に食べ物が残ってしまうことや無意識に食べ物が喉奥に入ることを防ぐことができます。また、首の運動を行うことで喉の筋肉を鍛えることができ、舌の運動と同様の効果を得られます。
また歌を歌うことも嚥下を防ぐためのトレーニングとなります。日常的に歌を歌ったり発声を行うということで誤嚥した際にも飲み込んでしまったものを咳で吐き出すための喉の力を鍛えることができます。
●口内運動について、詳しくはこちら
(5)介護現場で重要な体位
次に介護現場で重要な体位について解説をしていきます。重要な体位は全部で3つあります。
仰臥位(ぎょうがい)
これは簡単に言えば「仰向け」の状態で、上を向いて寝ている状態のことを言います。
側臥位(そくがい)
これは横向きになって寝ている状態のことで、誤嚥がしにくい体位だと言われています。
端座位(たんざい)
これはベッドなどの寝具の端に座って両足を床に向かって垂らしている状態のことです。端坐位をとれなくなってしまうと全身の筋力、バランス力が低下してしまい寝たきりになる可能性が高くなってしまいます。
●端坐位に関して、詳しくはこちら
(6)体位変換の重要性
次に体位変換の重要性について解説をしていきます。
体位変換は「褥瘡(じょくそう)」を避けるために必要
体位変換は「褥瘡(じょくそう)」を避けるために行われるものです。
「褥瘡」というのは、身体の一部に外から圧力が加わることで骨と皮膚の間にある軟部組織の血流が悪くなったり止まったりしてしまい、その状態が長時間継続することにより軟部組織が阻血性障害に陥ってしまうという状態です。
例えば寝たきりの介護者がファーラー位などの体勢でしばらくいた際には腰や尻の部分に体圧がかかってしまいます。それによって腰部分や尻部分の軟部組織の血流が悪くなると組織障害が起こってしまいます。
そのため体位変換は頻繁に行わなければならず、もし介護者が自ら体位変換を行えない場合には体位変換のサポートが必要となります。
●褥瘡や床ずれについて、詳しくはこちら
(7)体位変換の頻度
体位を交換する最適な頻度について以下解説していきます。
適度な頻度は「2時間ごと」
褥瘡を防ぐために体位変換をどの程度の頻度で行わないといけないかというと、その頻度は「2時間ごと」だと言われています。
これは介護についてのガイドラインの中で推奨度Bとされていることです。
ただし、その詳しい解説としてはこのようにあります。
- 「基本的に体位変換を2時間の間隔で行うことが勧められる」
- 「ただし適切に体圧を分散した用具を使用している場合には3時間ごとの体位変換でも良い」
つまり適切に介護者の体圧を分散できている状態であれば、3時間の間隔であっても構わないということです。
しかし適切かどうかについては専門家としっかり相談した上で検討すること、介護者の負担にならなければ体位変換は2時間以内の間隔が良いということです。
(8)体位変換の手順
次に正しい体位変換の手順を解説していきます。
体位変換の手順
- 介護者の顔を、体位変換させる方向に向ける
- 介護者の両腕を胸の上で組ませる
- 介護者の膝を両方立て、かかとをお尻に近づける
- 腰と膝に右手を置き、左手を肩につける
- 膝と腰を体位変換させたい方向に倒して、肩を起こすようにする。
(9)体位変換の際の注意点
体位変換を行う際には、以下の三点に気をつけるようにしましょう。
- 声掛けを行う
- ベッドの高さや力加減を調節する
- 本人に協力してもらう
1.声掛けを行う
高齢者の体に触れる際には、必ず体に増える前に声掛けをおこなってください。寝ているときに急に体に触れられると、誰でも驚くはずです。特に認知症が進んでいる高齢者に対して急に体に触れると、家族といえども大きな不信感を与えることになってしまいます。
相手の意思を確認した後でも、高齢者に対して行っている行為を知らせながら、体に触れてあげてください。
2.ベッドの高さやシーツを調整する
体位変換を行う際には、高齢者がいる環境も大きく影響してきます。
ベッドの高さを調整しましょう。具体的な高さは、介護をする人が力を入れやすい・体に負担のかかりにくい位置に調整することをおすすめします。
また、シーツをしわがないように張ることも行ったほうがよいです。ベッドにいる時間が長いほど、汗や垢などでシーツや枕カバーは汚れます。
定期的に交換することをお勧めしますが、シーツはしわを作らず、ピンと張った状態で交換するようにしてください。高齢者は皮膚が老化しているため、小さなしわでも体重が圧迫され、床ずれの原因につながります。
3.本人に協力してもらう
体位変換を行う際には、介護をする人一人の力だけでは難しいです。気持ちよく思ってもらうために、自分が頑張ることも必要ですが、本人に協力をしてもらうことも必要です。
介護をする人一人の力で体を動かすよりも、少しでも高齢者本人に力を入れてもらえれば、体位変換がスムーズに行えます。
無理はさせず、できる範囲での協力をお願いしてみましょう。
(10)ファーラー位に注意しよう
高齢者の食事の際には誤嚥を引き起こしやすいファーラー位には気をつけるようにしましょう。
若い人など誤嚥の可能性が低い場合は、ファーラー位での食事介助が行われることがあります。どのような姿勢で食事をとるかは、医師や専門家の指示に従いましょう。
また、体位変換についても行わなければ褥瘡になる可能性があるため、適度に行う必要があります。
体位には様々な種類があります。その時々に適した体位、タイミングに合った体位など、生活しやすい体位をとりましょう。
相手の表情や体の状態などを確認し、相手にとって最適な体位を提供してあげることが大切です。