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(1)日本版CCRCとは
超高齢化が進むなか、首都圏においては高齢者が増えることで介護を必要とする人と介護をする人の人数が大きく乖離してしまう「2025年問題」が迫ってきています。一方で地方都市は人口減少が始まっており地方自治が成り行かなくなると言われています。
その解決策のひとつとして提唱されている「日本版CCRC」があります。
“CCRC”とは「継続的なケアが付属している高齢者たちの共同体」の英語表記の頭文字で、アメリカが発祥のシニアライフを楽しく送るための施設のことです。
日本版CCRCの定義は、「東京圏をはじめとする高齢者が、自らの希望に応じて地方に移り住み、地域社会において健康でアクティブな生活を送るとともに、医療・介護が必要な時には継続的なケアを受けることができるような地域づくりを目指すもの」と提唱されています。
簡単に言えば、東京圏に住む高齢者が元気なうちに自分に合った先に移住し、移住先で地域の居住者と交流を図りながら第2の人生を健康的に過ごすためのコミュニティ(街)をつくることです。
アメリカのCCRCとの違い
現在、CCRCには約60万人が生活をおくっていますが、なかなか浸透していません。ここでアメリカ版CCRCと日本版CCRCの異なる点3つをご紹介します。
- アメリカ版のCCRCは施設(敷地)を指し周辺とは隔離しているのに対し、日本版は居住地だけでなく地域での交流(地域包括ケアシステム)を行う。
- アメリカは「自分のことは自分で行う」という自己責任の考え方が強いため、日本の介護保険制度のような社会制度がない。
- アメリカ版は入居時の初期投資が高いが、日本版は費用が安く、移住促進のための補助制度や支援制度がある。
日本版CCRCの目的とは
日本版CCRCの目的は、高齢者の第2の人生の居住の場の提供を行うだけでなく、次の3つの目的があります。
高齢者の希望の実現
高齢期を第2の人生として過ごしやすい場所で健康に生活したいという考えを持った人が少なくありません。意向調査によれば東京都に住む50代で地方への移住を考えているのは、男性で50.8%、女性で34.2%となっています。こういった高齢者の希望を実現し、高齢者のQOLを高めます。
東京圏を中心とした首都圏の高齢化問題の解消
首都圏の高齢者を地方に移住させることで、首都圏の高齢者数を抑制し、「ケアされる人=ケアする人」のバランスを保ちます。
地方の活性化
人口減少が著しい地方都市に元気な高齢者を移住させることで街の再活性化を図ります。
この3つの目的を実現するために、日本版CCRCには「地域包括ケアシステム」で謳われている次の7つのコンセプトがあります。
- 移住支援の充実
- 健康でアクティブな生活の実現
- 地域での多世代交流や協働
- 継続的なケア(人生の最期まで住み続ける)
- ITを活用した効率的なサービスの提供
- 居住者自らが参画し、情報公開等による透明性のある事業運営
- 実現に向けた支援策の充実
(出典:内閣府 日本版CRC構想有識者会議「日本版CCRC構想」)
(2)高齢者の地方移住に対応する制度がある!?
高齢者の移住におすすめ!CCRCという制度を利用しよう
高齢者にとっていろいろなメリットが感じられるCCRCですが、高齢期の移住となると経済的な面や移住先での生活の面など不安があるかと思います。日本版CCRCは国が推し進めている制度なので、公的支援制度があります。
例えば、
- 経済的な支援:移住支援金
- 結婚や子育ての支援:結婚お祝い金や子育てのための支援金
- 住居支援:市町村独自の家賃補助やマイホーム建築補助金
- 移住体験:移住体験のための説明会、宿泊費補助など
- 就労支援:移住先での就労あっせんや市町村が指定する産業への支援金、必要な資格取得の支援
などがあります。この他にも市町村独自の補助制度、支援制度があります。
(3)CCRCでの具体的な生活スタイルとは
CCRCにより地方へ移住した場合、移住先での生活スタイルがどのように変化するのでしょうか。
まずは移住先の社会資源(山や海、畑などの「自然環境」、産業、文化、伝統などの「社会環境」、生涯学習施設などの「文教施設」)を活用し、次の2つの事項を取り入れた生活スタイルになります。
地域のコミュニティー活動に参加することが重要
自治会活動や就労、ボランティアなど地域のコミュニティーに社会参加し、地域での活躍の場が作れます。地域での多世代交流などの協働を行い、生きがい、やりがいの場が作れます。
大学で学んだり、健康増進プログラムに参加したりもできる
大学と連携して生涯学習プログラムを実施している自治体があったり、市の体育館などでの健康増進プログラムを実施している自治体があったりします。高齢者のQOLを向上させ、健康増進がはかれるような取り組みが数多く行われているのが特徴です。
(4)CCRCを実施している自治体
ここまで日本版CCRCの概要について説明してきましたが、この章ではCCRCを実施している自治体の取り組みをご紹介します。
CCRCを実施している代表的な自治体
自治体名 | 特徴 |
---|---|
東京都多摩市 | 介護医療機能の充実、介護医療における地域との連携 |
東京都日野市 | 多世代居住(高齢者、学生、ファミリー)と交流、団地再生 |
千葉県千葉市 | 空き商業施設を活用したコミュニティー拠点、高齢者の運動やクラブ活動の展開 |
岩手県金ケ崎町 | 空き家を活用したネットワーク型の立地 |
栃木県那須町 | 過疎地やリゾート地への立地、東京圏からの移住者向けの住まいづくり |
石川県金沢町 |
多様な要素のある1万坪の大規模開発、入居高齢者の暮らし(入居学生、障害児との交流、しごと、ボランティアなど) |
岐阜県岐阜市 | 周辺高齢者も含めたコミュニティ活動支援、県外からの移住も多いため、周辺地域・居住者との連携を工夫 |
石川県輪島市 | タウン型CCRCをめざした取り組み、移住者による課題解決支援 |
千葉県柏市 | 高齢者によるプチ就労の仕組み |
千葉県我孫子市 | 高齢者を中心とした団体によるまちの活性化 |
岐阜県大垣市他 | 高齢者による高齢者支援の仕組み |
東京都豊島区 | 高齢者の学び直しによる地域貢献 |
愛知県春日井市 | ニュータウンでの高齢者と学生の交流、高齢者の学び直しによる地域貢献 |
先進的な取り組み事例
その中でも先進的なとり組みをしている自治体について2つほど紹介します。
石川県金沢市での取り組み
物件名 | シェア金沢 |
---|---|
開設年次 | 2013年 |
施設種別 | サービス付き高齢者向け住宅 |
併設施設 | 障がい者施設、児童養護施設 |
料金 | 初期費用:17~19万円、月額:15.9~16.9万円 |
特色 | 居住する高齢者・学生のよる住民組織が形成されていて、交流を生むための仕掛けを設けている。PCM手法を用い、周辺住民参加のうえ、課題や目的・手段を選定し、継続的なコミュニティ運営に繋げている。 |
石川県輪島市の取り組み
物件名 | 輪島KABULET |
---|---|
開設年次 | 2015年 |
特色 |
括的社会の創造の考えのもと人と人とをつなぐ地域づくりに取り組む 図書カフェや学童保育、子供向けスクールやづくり事業を行う 農業分野において、市民農園を含めた農園事業の企画運営等 |
(5)CCRCに住むための方法や入居条件
CCRCに入居するためにはいくつか条件があります。施設ごとに条件が異なるので検討されている方は必ずチェックしましょう。
入居時点で元気で自立した方が対象
CCRCの入所条件、1つ目のポイントは元気で自立した生活をおくれていることです。これは移住先で地域のコミュニティーを図り、アクティブに暮らすためです。
2つ目の入居条件は、契約時に連帯保証人と身元引受人が必要になります。これは手術など生命にかかわる医療行為を受ける際の承諾や認知症が進行して共同生活を続けていくのが困難になり退去を余儀なくされるような場合、最期を迎えた後の遺体の引き取りなどの際に対応していただく人が必要になるからです。
3つ目は年齢です。多くのCCRCは60歳以上のところが多くなっていますが、自治体によっては年齢条件に違いがあるので確認が必要です。
なお、CCRCの待機者は特別養護老人ホームのように数百人待ちのような状況ではないので、条件さえクリアすれば早めに入所できるケースもあります。
(6)CCRCの費用の費用はどのくらい?
CCRCの魅力が伝わったところで次に気になるのが、経済的な負担となる費用の面だと思います。この章ではCCRCの費用について具体的にご説明します。
入居金と月額利用料がかかる
CCRCは、はじめに入居金とその後の月額利用料がかかります。費用は分譲タイプから賃貸タイプによって初期費用が変わります。また、分譲でも賃貸でも立地条件や設備によって金額が変わってきます。
この章では、2つのケースをご紹介します。
賃貸タイプ
- 場所:石川県金沢市
- 入居時の費用:170,000円~ *家賃2ケ月分
- 月々の費用:家賃85,000円、共益費20,000円、生活相談サービス費等15,000円
分譲タイプ
- 場所:千葉県千葉市
- 入居時の費用:1300万円~7090万円+入会金・施設利用費190万円
- 月々の費用:コミュニティサービス費42,858円、食費(朝・夕)41,905円
- 管理費・修繕衝立金12,970円~31,920円
*入居時の費用は、部屋の階数やタイプによって変動します。
他の介護施設との費用の比較
次に老人ホームやサービス付き高齢者住宅といった介護施設や老人ホームとの比較をしてみます。
老人ホーム
場所 | 東京都練馬区 |
---|---|
入居時の費用 | 50万円 |
月々の費用 | 24.2万円 |
サービス付き高齢者住宅
場所 | 東京都立川市 |
---|---|
入居時の費用 | 15.2万円~22万円 |
月々の費用 | 13万円から18.3万円 |
老人ホーム、サービス付き高齢者住宅ともに、食費や介護サービス等利用に応じて費用料が発生します。また、介護サービスなどは要介護度や所得による本人負担割合によって変動します。
(7)介護施設や老人ホームとの違い
基本的には自立して生活できる人が対象
CCRCが介護施設や老人ホームと大きく異なる点は以下の3点です。
CCRCは介護サービスを受けるためではなく、その地域で自分らしく健康に生活できるかが目的になっています。加えて高齢者の健康増進を目的にしているため、基本的には介護サービスの利用なく生活できる人が対象です。入居できる年齢や特徴については、各施設で異なるので確認することが必要です。
(8)日本版CCRCの問題点・リスクとは

出典:https://www.photo-ac.com/
ここまでCCRCの概要や魅力、費用、介護施設との違いをお伝えしてきましたが、この章ではCCRCのメリットとデメリットをそれぞれお伝えします。
CCRCのメリット
- CCRCの大きな特徴でもある地域内でのコミュニティーの構築や多世代間交流ができます。
- 同じ敷地内または狭いエリア内に必要な施設が整備されているので移動が少なくて済みます。
- 地方都市の場合、東京圏に比べて居住費など生活にかかる費用が抑えられるます。
- 多くの自治体で独自支援策を行っているので有効利用できれば就労や資格取得、生活にかかる自己負担が抑制できる
CCRCのデメリット
- 住み慣れた地域を離れ、新しい街で暮らすので当初は不慣れな生活を強いられることがある。
- 地域のよっては昔からの風土や習慣、気候の違いがある。
- 東京圏での生活に比べると、地方都市は商業施設や医療施設が大幅に少なくため物足りなさを感じることがある。
- これまで築き上げた友人関係と疎遠になることがある。
- 地方都市は良くも悪くも狭くて深い関係になるので、東京圏のようなプライバシー保護が確立されていない地域もある。
(9)日本版CCRCの問題点・リスクとは
2025年問題の切り札にもなりうるCCRCですが、日本においてもアメリカ同様に浸透しているとは言えない状態です。その理由は、住み慣れた地域を出て、不慣れな地域に移住することにまだまだ消極的な現状です。
その原因のひとつに「移住に関する情報が十分でなさそうなこと」(50代女性29.3%)、「何から考えてよいのか分からないこと」(60代女性38.2%、50代女性34.1%)となっています。日本におけるCCRCの歴史が浅いこともあり、なかなかイメージが作れない状況があるようです。
その他にもCCRCを活用するにあたりリスクもあります。
- 転居に伴う費用が決して安くはない
- 新しい人間関係が築けるのか
- CCRCの運営母体がしっかりしているか
- CCRCが所在する自治体の安定性(財政指数や高齢事業計画など)
等の不安要素があります。
また、地方都市においても東京圏同様に介護従事者が不足しているという課題があります。自治体によっては介護従事者の移住を促進するための手厚い支援を行って介護従事者の確保を図っているところもありますが、介護従事者不足の解消には至っていないのが現状です。
(10)高齢化・地方創生の切り札となるCCRCに注目しよう
日本版CCRCの歴史はまだ浅いものの、首都圏の高齢化対策、移住促進により地方創生の切り札として国が力を入れている事業のひとつです。そのため国からの支援策だけでなく自治体独自の補助制度や支援策があります。
今後広がっていくいろいろな取り組みに注目です。