(1)療育手帳とは
療育手帳とは、都道府県が知的障害児や知的障害者を対象に交付している障害者手帳です。療育手帳を取得することにより、様々なサービスや支援を受けることができます。
知的障害は、18歳未満に生じるものとされています。
知的障害の定義は、
- 知能機能に制約がある
- 適応行動に制約がある
- 発達機能に障害がある
の3つになります。
一般的には、他人とのコミュニケーションが取りにくい場合がある、頭脳を使ったり読み書きや計算をしたりすることが苦手で、日常生活や社会生活に困難が生じることがあるといわれています。
(2)療育手帳の判定区分
療育手帳は、各自治体の独自の制度のため、具体的な判定基準や判定区分は都道府県によって違いがあります。判定区分は、重度Aとそれ以外Bにわける自治体が多いですが、国の厚生労働省の指導は、重度がA、それ以外はBと国は2つの区分にだけ分けています。
多くの自治体は4つの区分に分けている事が多いですが、3つや5つ、6つのランクで分けている自治体もあります。以下が自治体による区分の一例です。
障害の程度 | 一般的な等級 | 東京都の基準 | その他の例 |
---|---|---|---|
最重度 | A | 1度 | A1、A〇 |
重度 | A | 2度 | A2、A |
中度 | B | 3度 | B1、B |
軽度 | B | 4度 | B2、C |
また、地域によって
- 愛の手帳(東京都、横浜市など)
- 愛護手帳(青森県、名古屋市など)
- みどりの手帳(さいたま市、所沢市など)
というように、療育手帳の名称も変わります。申請をする際に地域での基準について一度調べてみてください。
(3)療育手帳を持つメリット
療育手帳は、必ず取得するものではないのではないのですが、取得しているとたくさんのメリットがあります。
税制上の優遇
所得税や相続税、自動車税、自動車取得税の減免が受けられます。
交通面での優遇や金銭面サービス
公共交通機関の電車、バス、タクシー、新幹線、飛行機などの割引、公共料金の割引や医療費の助成があります。
障害年金がもらえる
障害によって障害年金を受けることができます。等級によって、下記のような支援を受けることができます。
等級 | 金額 |
---|---|
国民障害年金1級 | 975,125円 |
国民障害年金2級 | 780,100円 |
自治体のサービスが受けられる
自治体によって受けられるサービスは違いますが、等級によって、ヘルパーの掃除や料理、買い物などの援助を受けることができます。
保育園に優先的に入園できる
保育園の入園の優先的順位が高くなるので、入園しやすくなります。
就労に向けての支援
雇用の面で障害者採用が受けられるので、なかなか受かりにくい企業も採用される可能性があります。体調にも配慮してもらえるので、仕事をするのに大きなメリットがあります。
※障害者採用については、国として促進していますが、採用枠を取り入れていない会社もあるため、必ずしもメリットになりうるとは言えません。
(4)療育手帳を持つデメリット
療育手帳の一番のデメリットは、知的障害者本人の気持ちや家族の気持ちといえるかもしれません。療育手帳を取得することは、知的障害者本人も親も「嫌だな」と思う場合が多く、傷つく事もあります。
まだまだ障害者への差別や偏見は多く、障害者総合研究所の2017年の調査では、障害者の59%は日々の日常生活に差別や偏見を受けていると答えています。療育手帳で障害があると認めると、周りに白い目で見られないか不安があると言います。
また、療育手帳の手帳が小学校の判定の判断の材料になることもあり、自分が希望する就学先に通えない事もあります。
(出典:障害者総合研究所)
(5)療育手帳の交付対象者
療育手帳の交付対象者は、児童相談所または、知的障害者厚生相談所で知的障害であると判断された者です。そのため、事故などで、後天的に障害を負った場合などは知的障害とは診断されないため、療育手帳も対象外となります。
知的障害と判断する程度と判断基準は、重度Aとそれ以外Bに区分されます。
重度Aの基準
- 知的指数がおおむね3.5以下で次のどちらかに当てはまる者
- 食事、着脱衣、排便などの日常生活が不自由で介助が必要となる者
- 異食、興奮するなどの問題行動がある者
- 知能指数が5.0以下で、盲、ろうあ、肢体不自由がある者
それ以外のBの基準
重度のAのもの以外になります。
(6)障害の判定基準
多くの自治体が知能障害の判定基準に知能指数IQを使います。IQの数値が低ければ低いほど障害が重いと規定しています。
幼児は知能指数の代わりに発達指数DQを判定材料にしながら、日常生活の能力とあわせて、総合的な知能障害の判定をします。
しかし、知能障害に対する法的な定義はなく、判定基準や判定方法には、重度かどうかを区分するために知能指数がおおむね3.5以下と記述されているだけです。都道府県の検査基準も用いる検査もバラバラなので、自治体によっては療育手帳の対象外になり、手帳がもらえないこともあります。
(7)知的検査に用いられるIQとは
知的障害があるかどうかの知的検査で用いられるものに、知能指数があります。知能指数という客観的な情報から得られた結果の知能指数IQで知的障害があるかどうかの判断になります。
知能指数IQで知的障害の程度が区分され、WHOが定める知的障害の程度・判定基準としての利用と厚生省が定める知的障害の程度。判断基準としての利用があります。
WHOは、知的障害の程度の区分を下記のように定めています。
知能指数 | 障害区分 |
---|---|
IQ35~49 | 中度知的障害 |
IQ50~69 | 軽度知的障害 |
IQ20~34 | 重度知的障害 |
IQ20以下 | 最重度知的障害 |
・厚生省の知的障害の程度の区分は下記のように定めています。
知能指数 | 障害区分 |
---|---|
IQ51~70 | 軽度知能障害 |
IQ36~50 | 中度知的障害 |
IQ21~35 | 重度知的障害 |
IQ20以下 | 最重度知的障害 |
としています。
(8)発達障害に用いられるDQとは
発達検査とは、0歳から使用できます。主に乳幼児や小学生の知的能力や身体運動能力などの発達状態を調べる心理検査で、直接子供を検査したり観察したりして、評価をします。
日常生活や対人関係などの子供の基準を数値化したものを発達指数DQといい、ひとりひとりの子供の状態を知るために使われます。算出式は「発達年齢÷生活年齢×100」です。平均値は100、標準偏差は15または16です。
(9)療育手帳の申請の流れ
療育手帳は、知的障害を持つ人の家族の経済的、物理的負担を軽くし、サポートをしてくれる手帳です。手帳を取得しておくと、社会生活における困難を軽減できます。
療育手帳を取得するには、現住所の市町村の障害福祉窓口(福祉事務所や福祉担当課)や児童相談所に相談します。申請に必要な書類は、
- 療育手帳交付申請書
- 顔写真
- 印鑑
です。
療育手帳の申請の流れは、
- 市町村の障害福祉担当窓口か児童相談所で申請をし、障害の程度の判定の申し込みをします。
- 心理判定員、小児科によって面接をし、聞き取り調査をします。 (母子手帳や幼稚園、学校などの記録があれは、あらかじめ準備をしておきましょう。)
- 心理判定員や小児科による判定に基づき、精神保健福祉センターで審査を行い、知的障害の程度の区分が決まります。
面談後、障害福祉窓口から連絡があり、結果が郵送で通知されます。その後、認定を受けたら障害者窓口で手帳を受け取ります。
療育手帳の更新手続きについて
療育手帳それ自体に有効期限といったものは特に定められていませんが、自治体によっては
- 所定の年齢に達した時
- 障害程度が変化した時
などのタイミングで更新手続きが必要になる時があります。
例えば、東京都では
- 「障害程度が変化した時」
- 「更に年齢が満3歳・6歳・12歳・18歳になった時」
に判定を申請するよう、定められています(2019年9月現在)。
(参照:東京都台東区「愛の手帳」(外部リンク))
お住まいの自治体で療育手帳の更新手続きが必要かどうか、必要であればどのタイミングで、どのような申請方法で更新手続きを行えばよいか、「療育手帳、更新、○○(お住まいの自治体)」といったようにネット検索をすることで確認がで来ますので、ぜひ一度確認してみましょう。
(10)メリットの多い療育手帳を活用しよう
療育手帳は必ず取得するものではないので、取得するかどうか悩んでいる方は多いと思います。知的障害を持っていると、毎日の日常の社会生活にも困難な事が多くあり、特に教育面や金銭面では大きな負担になります。
療育手帳を取得するとたくさんのメリットがあり、在宅サービスや社会参加、就労などの様々なサービスを受けることができます。
特に知的障害をもっていると就労が難しく、軽度の知的障害でも一般雇用として民間の企業に就職するのにとても難しくなります。このような就職活動のときに、療育手帳をもっていると、障害者雇用の採用にも応募できるので選択肢も広がり、就職活動も進めやすくなります。
療育手帳をもっていると、一貫した指導や相談・援助を受けやすくなります。療育手帳をうまく活用して障害を持っていても自立して暮らしていけるように、療育手帳を取得しておくとよいでしょう。