(1)介護タクシーとは
介護タクシーとは、要介護者や身体的に自由が利かない人のためのタクシーです。
介護タクシーは通常のタクシーとは異なり、単なる交通手段だけでなく、利用者の介助までサービスに含まれます。運転手が利用者の介護を行うのが特徴です。介護保険タクシーであれば、運転手は全員が介護職員初任者研修以上の資格を有しているため、介護サービスを利用することもできます。
サービスの流れ
まず、サービス利用の流れに沿って説明していきます。
- TEL等で要請し、介護タクシーが自宅に到着
- 到着後、利用者をタクシーまで介助を行いつつ乗車させますが、この時、着替え、火元の確認、施錠、健康状態の確認まで行ってくれます。
- 目的地到着後、施設まで移動を介助します。病院などの場合は、会計や薬の受け取り等もサポートの範ちゅうです。
- 自宅に帰宅したら、ベットまでの移動を介助します。なお、着替えやおむつ交換も行うことが出来ます。
ただし、介護タクシーは厳密な定義付けが行われていないので、サービス内容は利用する事業者で異なることがあります。
サービス内容
次に、それぞれの段階でどのようなサービスが行われるのか見ていきましょう。
出発時
まず、利用者宅まで迎車します。その後、次のようなサービスを提供してくれます。
- 着替えなどの外出準備介助
- 介護タクシーまでの移動・乗車の介助
そして目的地まで運転をします。
目的地到着時
到着時は次のようなサービスが行われます。
- 降車介助
- 目的地の場所までの移動介助
病院への通院時の際は通常のサービスに加え次のようなこともしてくれます。
- 受付までの移動介助
- 院内スタッフへの声掛け
- 受診後の会計サポート
- 薬の受取サポート
帰宅時
降車介助、室内までの移動介助をします。状況に応じて着替えやおむつの交換などをします。
福祉タクシーとの違い
「介護タクシー」はあくまで通称であり、それらを総称して行政では「福祉タクシー」と呼んでいます。
一方、一般的には「福祉タクシー」や「ケアタクシー」と呼ばれているものは、介護士資格保有しない運転手が行っているもので、介助サービスを行うことは出来ません。
福祉タクシーは利用者の目的地までの車移動をサポートするだけとなっています。介護タクシーの運転手とは異なり、介助等のサポートはサービス内容に含まれないため、運転手には介護関連の資格が必要ありません。そのため、利用の際は、家族などのサポートが必要になる場合もあります。介護保険も適用外になります。
この違いを知らずに、介助を必要としている人が福祉タクシーを利用すると、十分なサービスが受けられない可能性があります。ただ、保険適用外であるため利用目的の制限がないなどのメリットはあります。趣味や旅行を目的とした外出には便利なサービスといえます。
(2)介護タクシーの料金の内訳
介護タクシー料金の内訳は、介護保険の適用・不適用に係わらず以下の様な構成になっています。
- タクシーの運賃(保険適用の有無に係わらず全額自己負担)
- 介助料(保険適用時は自己負担分1割)
- 介護機器レンタル料金(保険適用の有無に係わらず全額自己負担)
これら①+②+③=「介護タクシーの利用料金」となりますが、介護保険が適用されるのは、②介助料のみで、①タクシーの運賃、③介護機器レンタル料金は全額自己負担となります。
ただし、これら料金は利用する介護タクシーによって異なるので、予め利用料金は確かめておく必要があります。以下の項目ではそれぞれの料金の「目安」を記します。
(3)介護タクシーの料金① 運賃
介護タクシーの運賃は、一般的なタクシーと同様に、料金メーターで決まるケースが多いですが、事業者によってはその他の方法で徴収する場合があります。いずれにしても、料金は大別して「時間制運賃」と「距離制運賃」とに分かれています。
種類 | 料金の目安 |
---|---|
時間制運賃 | 30分毎1,000円等の定額制。または30分で500円、以降の時間は30分毎2,000円加算など |
距離制運賃 | 2km750円、以降1km300円加算など |
なお、基本的に介護タクシーの運賃は介護保険の適用外ですが、事業者によっては介護保険の利用で料金が半額程度になる場合もあります。
また、旅行や冠婚葬祭時でも介護タクシーを利用することも可能ですが(保険適用外になる場合が多い)、タクシーの貸切料金(2時間で1万円程度)や待機料金を請求されるケースが多いようです。
(4)介護タクシーの料金② 介護料
介護タクシーにおける介助料は、基本介助(乗降介助)や室内介助等、利用者にニーズに応じて料金が発生します。介護保険が適用する場合は、1割の自己負担になりますが、適用されない場合は全額自己負担になります。
また、基本介助(乗降介助)等、往復(行きと帰り)でそれぞれ料金が発生するものもあります。主な介助料の目安は以下の通りです。
介助の種類 | 金額の目安 |
---|---|
基本介助(乗降介助) | 500~1,500円程度(車いすやストレッチャー等乗り方によって変わる) |
外出時のスタッフ付き添い | 1,200円程度 |
室内介助(着替えやおむつ交換等) | 1,000円程度 |
病院内介助 |
1,000円程度(会計や薬の受け取りが主。病院内での介助は病院スタッフの対応となる) |
(5)介護タクシーの料金③ 介護機器のレンタル料
利用する要介護者によっては、車椅子やストレッチャー等を要する場合がありますが、これらのレンタルも介護タクシーでは行っています。
ただし、これらは基本的に全額自己負担になっていますが、酸素吸入器等の医療機器をレンタルする場合もあるので、利用するメリットは大きいと言えるでしょう。なお、介護機器のレンタル料金の目安は以下の通りです。
介護機器 | 料金の目安 |
---|---|
車椅子 | 0円~1,500円程度 |
リクライニング機能付き車椅子 | 2,000円程度 |
ストレッチャー | 6,000円程度 |
(6)介護タクシーの料金は介護保険で安くなる
「介護タクシー」は通常のタクシーと異なり、介護資格保有者が介助を行いながらの移動手段となるため、利用時に介護保険の適用が認められています。
なぜなら、介護タクシーで利用できる介助サービスは、ケアプランの一部とみなされるからです。それにより、自己負担分の料金は軽減され、経済的負担が軽減されます。
しかし、保険適用時に利用できる介護タクシーのサービスには制限があるので、やや使いづらさを感じる場合があります。
保険の適用対象者
保険適用の対象者は、自宅又は有料老人ホームやケアハウスなどで生活しており、一人でバスや電車といった公共交通機関に乗ることが困難な、介護の必要性を表す程度「介護度」が要介護1~5の人です。
保険適用となる介護タクシーの利用目的は主に、次のようなものがあります。
- 受診やリハビリなどのための通院
- 補装具/補聴器/眼鏡といった本人でなければならない介護器具の調整
- 買い物預金の引きおろし
そのため、仕事や趣味・嗜好などの目的に利用することはできません。
保険の適用外でも利用できる
保険適用の場合では、外出の目的や利用条件が限定されるため、使いにくさという点でストレスを感じる可能性もあります。
一方、保険適用外の場合はこういった決まりがないので、仕事や趣味・嗜好のための外出、冠婚葬祭や日用品以外の買い物、病院での入退院又は転院のための一時的な利用目的といった幅広いニーズに対応することができます。しかし保険適用外なので全額自己負担になります。対象者は要介護認定を受けた高齢者です。
中には介護関連の資格を持たない運転手もいるため、事前に身体介助が可能かどうか確認しておく必要があります。
(7)介護タクシーの利用方法
介護タクシーを利用する時には、きちんと手順を踏まないと適切なサービスが受けられない場合があります。
事前に確認しておく主なことは、
- ケアマネジャーと相談し、介護保険内のプランを作成してもらう
- 必要に応じて予約をする
- 利用する本人の状態を伝える
- 料金の見積もりをしておく
です。
ケアマネージャーに相談せず利用すること可能ですが、保険適用の有無に関しては、やや複雑なのでケアマネジャーを通した方が良いでしょう。
また、乗車時には、車椅子やストレッチャー等の車両への乗り方、医療機器の必要の有無、病気や本人の体の状態などを予め伝えておく必要があります。
なお、移動手段として介護タクシーを利用するならば、ネットで検索し「福祉タクシー」等の利用をするのも一つの方法と言えます。
(8)介護タクシーを利用する際の注意点
介護タクシーの利用者には制限があり、要介護1~5の人が対象で、要支援の方の利用は出来ません。また、自宅や老人ホーム等利用する場所には制限はありませんが、保険が適用される場合の利用目的には制限が設けられています。
基準額をオーバーすると自己負担になってしまう
こういった制限が設けられているのは、介護タクシーがあくまでケアプランの一部とみなされているからで、介護保険の利用範囲内でないと保険が利かないからです。
また、介護タクシーにおける介助サービスは、介護報酬によって料金が決まっており、介護保険を利用したとしても、「支給限度基準額」をオーバーすると全額自己負担になります。
これらは、介護保険被保険者証に明記されていますが、介護タクシーを利用する時には、基本的にケアマネジャーがプランを作成を行い、それらを超過しないようにしています。なお、保険適用になる場合とそうでない場合を以下に示しておきます。
保険適用になるケース
- 通院(リハビリも含む)
- 預金引き出し
- 公共機関への届け出や申請(選挙も含む)
- 本人でないと行えない買い物等(メガネや補聴器等)
いずれにしても、「日常生活上または社会生活上必要な行為に伴う外出」と決められているので、分からない場合はケアマネジャーに相談すると良いでしょう。
保険適用外のケース
- 旅行や観光、趣味の外出
- 理美容院や日用品等の買い物
- 冠婚葬祭
また、介護タクシーを利用する場合、家族の同乗が認められていなかったり、病院内の付き添いが出来なかったりなどの制限があります。介助に20~30分以上の時間を要するなど、介護タクシーから身体介護や生活援助等にサービスが切り替わる場合もあるので、予め確認しておく必要があります。
(9)【事業者向け】介護タクシーを開業するには
これから高齢化が進むにつれて、介護タクシーの需要は高まってくるでしょう。介護タクシーを開業するにはいくつかの条件があります。
介護タクシーの仕事は、正式には一般乗用旅客自動車運送事業(福祉輸送事業限定)というものです。
大まかな開業に必要な設備の条件としては
- 人的要件
- 設備要件
- 資金要件
のすべてを満たす必要があります。
人的要件
人的要件として、必要な資格や条件がいくつかあります。
- 二種免許
- 介護職員初任者(ホームヘルパー2級)以上
- 運行管理者がいること
- 設備管理者がいること
福祉車両以外のセダン型の一般車両を使用する場合には、従業員を含んだ申請者が介護系の資格を取得している必要もあります。また、運行管理者と設備管理者は運転者と兼任が可能です。
設備条件
営業所の条件や車両の条件は以下のようになっています。
- 土地と建物の使用権限が3年以上ある営業所であること。営業所に事務所および、休憩・仮眠室があること。
- 自動車の車庫が原則として営業所に併設されていること。
- 車庫の広さは車両の長さ、幅+1m以上のスペースがあるであること。
- 車両の点検、整備及び水道等の清掃施設があること。その使用権限が3年以上あること。
- 1両以上の車両を有すること。
- リフト、スロープ、寝台等がある車両であること。
- 運賃をメーター制にする場合は、タクシーメーターを設置していること。
資金要件
資金についても要件があり、所要資金の合計額の50%以上、かつ、事業開始当初に要する資金の100%以上の自己資金を申請日以降、常に確保していることという決まりがあります。
(10)【事業者向け】介護タクシー開業までの流れ
介護タクシーは設備がそろったからと言って開業できるわけではありません。申請をして許可を得ることが必要になります。
介護タクシー開業までの流れを大まかに示します。
- 設備条件を満たす(上記参照)
- 運行管理者の選出
- 許可、運賃認可申請書の作成及び提出
- 法令試験を受ける(申請の翌月)
- 許可、認可書の受領
- 運輸開始届の提出(許可後6か月以内)
上記以外にも車両の審査や登録も必要です。
(11)料金やサービス内容について知っておこう
病院などを利用する要介護者には、介護タクシーは非常に便利なものと言えます。自分とマッチする事業者に出逢えば、本人のみならず家族も安心して利用することができ、長い付き合いも出来ます。
この様に、介護タクシーをより良く利用するためにも、予め料金やサービス内容は確認しておくことが重要になります。また、それらに関しては、やや複雑な側面も持ち合わせています。
介護タクシーを利用する場合は、ケアマネジャーとしっかりと相談する事が欠かせません。そうすれば、要介護者やその家族にとってより良い介護が行える状況を作り出すことが可能になるでしょう。