(1)外国人技能実習制度とは
外国人技能実習制度は、開発途上国の方たちに、日本で開発され成長させてきた技術を習得してもらい、母国に帰ってからこの技術を活用(技術移転)することで経済発展してもらうことが目的です。1960年頃より行われていた海外にある現地法人の研修制度が原型となり、1993年に制度化されました。
外国人技能実習制度は開発途上国の方には技術が渡り、本国の企業は国際貢献ができるという制度ですが、様々な問題が指摘されてきました。そのため外国人の技能実習の適正な実施と技能実習生の保護に関する法律に基づいて見直しが行われ、新しく2016年11月28日に公布され、2017年11月1日から施行されています。
本記事では、そんな外国人技能実習生制度について、簡単に説明していきます
(2)外国人技能実習制度の概要と対象職種
外国人技能実習制度の制度概要
外国人技能実習制度では、開発途上国から送出された技能実習生を雇用し、1年もしくは3年で技能の習得・習熟を行います。優良な監理団体や技能実習生では、在留期間を2年更新することができるようになる場合があります。
また技能実習生の雇用には、実習実施者の外国にある事業所から日本の事業所に実習生を受け入れる「企業単独型」と、監理団体を通して雇用する「団体監理型」があります。
外国人技能実習制度では、技能実習生を受け入れることができる職種は次のように決まっています。
対象職種
職種カテゴリ | 職種名 |
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農業関係(2職種6作業) |
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漁業関係(2職種9作業) |
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建設関係(22職種33作業) |
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食品製造関係(11職種16作業) |
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繊維・衣服関係(13職種22作業) |
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機械・⾦属関係(15職種29作業) |
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その他(14職種26作業) |
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社内検定型の職種・作業(1職種3作業) |
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(※厚生労働省『技能実習制度 移行対象職種・作業一覧』(令和元年5月28日時点)を元に、編集部が作成)
こちらの表はあくまで職種カテゴリと職種名を記載しているのみですので、詳細については、上記リンク先の厚生労働省の記事をぜひご参照ください。
外国人労働者を受け入れるメリット・デメリットや課題に関する記事がありますので、詳しく知りたい方はこちら
(3)外国人技能実習制度の実態
外国人技能実習制度の本来の目的は、「国際貢献及び協力」です。この実習制度の外国人は、日本の人手不足を補うための労働力として利用してはいけません。しかし、実際は日本人の人手不足を補うためだけの労働力になっている場合が多く、さまざまな問題が起こっています。
2015年に行われた厚生労働省の調査によれば、約5000の実習実施機関の7割以上に、労働基準関係の法律上の違反があったと報告されています。
問題点① 就労環境
問題点として、外国人技能実習生の就労する環境が整っていないという指摘が挙がっています。日本人社員と外国人社員がストレスを感じることなく働けるよう、職場環境を作っている企業もある中、全く外国人実習生に対して配慮がない、また逆に劣悪な環境になっているケースが多くみられます。
具体例では、日本語ができないからと暴力を受ける・セクハラをされる・パスポートなどを取り上げられるなどの人権侵害や、仕事中の事故でケガをしても病院で治療が受けられないなど、悪質といえるものが報告されています。
問題点② 待遇
また外国人技能実習生の待遇は、一番の問題であるといえます。技能実習生は約2か月の講習が終わって労働できるようになれば、日本の労働関係の法律が適用されます。しかし、1日の労働時間である8時間、週に換算すると40時間が守られず、労働時間を超えた時間外労働や休日出勤などが頻繁に行われ、過酷な労働になっていることが多くなっています。
また、低賃金であることも大きな問題です。基本給自体が低賃金であるばかりでなく、タイムカードや勤務記録表などが改ざんされ、労働時間外や休日出勤、深夜出勤などに対し賃金が支払われないといったケースが報告されています。
外国人技能実習制度ではなく、正社員で雇用された外国人では月収22万円以上が6割以上であるのに対し、外国人技能実習制度で雇用された技能実習生では、ほぼすべての方が18万円以下で働いていることが、日本政策金融公庫の調査で判明しています。
問題点③ 失踪
技能実習生側に問題がある場合もあります。技能実習生による犯罪や失踪などです。これは、賃金が低いことや劣悪な労働環境のため、生活ができなくなったという背景が大きく関係しているといえます。
また、「日本への送り出しをサポートする」という名目で多額の手数料を支払わせる、送り出し国内の悪質ブローカーを通じ、多額の借金をして来日したことから、技能実習生がその借金返済をすべく低賃金・劣悪な施設からの転職を試みるケースがあります。
その際、多くの場合施設側の人事は人手不足などの関係で転職を認めません。
そうなると、入居者や同僚などから仮にハラスメントや暴力などの権利侵害行為があった場合でも、その施設から離れることができません。転職したいのにできない、という理由から、失踪をしてしまう技能実習生もいる、というのが現状としてあります。
問題点④ 犯罪行為
失踪をした技能実習生による犯罪行為も付随する問題として挙げられます。技能実習生側の検挙数として多いのは、窃盗です。また2017年の技能実習生の失踪者数は、7,089人となっています。失踪の理由は、低賃金が多く67%となっており、その他17%に指導が厳しすぎる・雇用主からの暴力などが挙げられています。
(4)外国人技能実習制度改正における見直し内容
先ほど説明したように、外国人技能実習制度改正前は、技能実習生に対する劣悪な対応などが問題となっていました。そこで、本来の技術移転による国際貢献及び協力という制度の目的を徹底し、管理監督体制の強化や技能実習生の保護が行えるよう、外国人技能実習制度が見直されました。
見直し前 | 見直し後 |
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不明確であった監理団体や実習実施者の義務や責任 | 監理団体は許可制、実習実施者は届出制、技能実習計画は認定制とした |
法的権限がない民間機関である国際研修協力機関が巡回指導を行っていた | 監理団体に報告させる・実地に検査するなどの業務を実施する、外国人技能実習機構を創設した |
不十分であった技能実習生の保護体制 | 通報や申告ができる窓口、人権侵害行為に対する罰則を整備し、実習先の変更支援を充実できるようにした |
不十分であった業所管省庁等の指導及び監督、連携体制 | 業所管省庁や都道府県等に対して協力要請などを実施し、指導及び監督、連携体制が構築できるよう地域協議会を設置した |
保証金の徴収などを行う不適切な送出機関の存在 | 技能実習生の送出を希望する国と政府間で取り決めを行い、できる限り不適切な送出機関が排除できるようにした |
また、優良な監理団体に対して拡充策が行われています。
- 実習期間を3年から5年に延長
- 受け入れ枠の拡大として常勤従業員数に応じた人数枠を、最大5%から10%に倍増
- 地域限定の職種や独自の職種など対象職種の拡大と、複数職種の実施の措置
(5)雇用の窓口となる監理団体とは
外国人技能実習制度で技能実習生の雇用の窓口になっているのは、非営利である監理団体で、2018年時点で全国に2380団体あります。
外国人技能実習制度の監理団体の役目とは次のようなものです。
- 技能実習生が雇用後、適切な業務について技能実習が行えているかチェックし指導する
- 外国人技能実習制度について正しく企業や送出機関に周知させる
- 技能実習生を雇用した企業に対し、3か月に1度の監査を行い入国管理官に報告する
介護職種受け入れ可能な監理団体への問い合わせはこちら
グローバルキャリア職業訓練法人
HP | https://gca.ac.jp/contact/ |
メール | all-gca@gca.ac.jp |
電話番号 | 044-382-4800 |
(6)外国人技能実習制度の介護固有要件とは
介護は、外国人技能実習制度で受け入れ可能な職種に加えられましたが、技能実習生の受け入れに関して他の分野とは違う扱いとなっています。受け入れ側の介護事業所では、訪問介護以外の施設であること・事業所の設立から3年以上経っていること・看護師か職務経験が5年以上ある介護福祉士を指導員として5人の実習生に対し1人つけることができるなどの条件が挙げられています。
また受け入れる人材にも要件があり、すべての職種について満たす必要があるものと、介護職種として満たす必要があるものがあります。
すべての職種で満たす必要がある要件
- 18歳以上である
- 帰国後習得した技能を生かす業務に従事する予定である
- 団体監理型での技能実習生の場合
従事する業務に本国以外で従事したことがある
技能実習を行う特別な事情がある
公的機関から推薦を受けている - 企業単独型での技能実習生の場合
申請者の外国にある事業所や申請者と密接な関係にある機関の事業所の常勤職員である - 過去に同じ技能実習を行ったことがない
介護職種として、従事する業務に本国以外で従事したことがあるとは、次のような方になります。
- 外国で看護師資格を有する者
- 外国で看護師過程を終了した者
- 外国で介護士認定を受けた者
- 外国で高齢者や障害者の日常の世話や機能訓練などに従事したことがある者
介護職種として満たす必要がある要件
- 技能実習生の入国時→日本語能力試験のN4に合格している者であること
- 技能実習生2年目に進む際→日本語能力試験のN3に合格している者であること
※2019年2月よりN3に合格できていなくても、継続し介護事業所の元で実習に必要な日本語を学ぶこと・また学ぶ意思を示していることで在留が可能となっています
(参考:厚生労働省 社会・援護局『技能実習「介護」における固有要件について』)
EPAに基づく外国人介護福祉士に関する記事があります。EPAの説明や、背景や現状など、詳しく知りたいかやはこちら
(7)【介護施設の方向け】介護技能実習生受け入れの手順は、非常に煩雑
ここまで、外国人技能実習生制度について、政府の公式な資料を基に説明してきました。
多くの課題が指摘されてはいるものの、発展途上国への技術移転という国際貢献ができたり、国外とのコネクションができたりと、メリットも大きい外国人技能実習生の受け入れですが、実際に受け入れるとなると、それに伴う手続きはかなり煩雑と言えます。
特に、人材不足が叫ばれて久しい介護職については、技能実習制度の対象職種に近年追加されたものの、介護職という職種の特殊性・難しさなどを背景として様々な固有条件・手続きが定められているなど、さらにその手続きは煩雑となっています。
外国人介護士を雇うメリット・デメリットや、雇用の成功例・失敗例に関する記事があります。詳しく知りたい方はこちら
まずは、受け入れまでに必要な手続きの流れを簡単に説明します。
技能実習生第1号(入国1年目)の受け入れの手続き
- 監理団体への許可申請
- 許可証が交付されるのを待つ
- 技能実習計画の作成および認定申請
- 技能実習計画の審査・認定
- 認定通知書の交付
- 在留資格認定証明書の交付申請
- 在留資格認定証明書の交付
このように、受け入れる前だけでこのように必要な書類や手続きがあることがわかります。
また、厚生労働省により作成された、手続きの流れを説明した以下の図を参照していただくとわかる通り、書類の提出先や各種許可の申請先など、関係団体も様々です。
(参照・引用:法務省・厚生労働省『技能実習制度 運用要領』)
またさらに、この手続きはあくまで第1号技能実習生の受け入れに関するものであるため、継続して技能実習生を受け入れるためには、決められた技能検定試験を技能実習生が合格したり、追加の書類提出が必要となったりするなど、さらに手続きが増えることとなります。
第1号技能実習生 |
入国1年目 |
---|---|
第2号技能実習生 |
入国2・3年目 |
第3号技能実習生 |
入国4・5年目 |
これらの手続きをサポートするサービスも存在する
介護施設においては、通常業務をオペレーションしている傍ら、これだけ複雑な手続きを行うことに不安・負担を感じる場合も少なくありません。書類作成や関係団体との連携、実習生とのコミュニケーション・フォローアップなどには、特に比較的負担がかかり、かつ知識が求められます。
そこで、民間サービスの中には、これらの技能実習生の受け入れをサポートするというものが存在します。
具体的には、
- 必要な手続き・書類作成・書類申請をサポート
- 技能実習生の、来日前後の生活・スキルアップのサポート
- 悪質ブローカーの排除
- 技能実習生の母国語での相談窓口開設
など、介護施設が本制度の活用をする上で負担に感じられやすい様々な点でのサービスが存在します。
本サイトの運営会社でも、同様のサービスを運営しております。 介護職での技能実習生制度についてのより詳しい情報や、「技能実習生の受け入れにはどの程度のコストがかかるのか」といった漠然とした疑問などについて知りたい、という介護施設関係者の方は、お気軽にお問い合わせください。 |
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URL |
株式会社ウィルオブ・ワーク『技能実習トータルサポートサービス』 |
お問い合わせ先 | Mail:ms-global_support@willof.co.jp TEL:03-6859-2070 |
(8)外国人技能実習制度を活用しよう
本記事ではここまで、技能実習生制度に関する課題や受け入れの煩雑さなどの観点から、技能実習生を受け入れることのネガティブともとれる点を複数指摘してきました。
しかし、外国人技能実習制度を利用し技能実習生を受け入れ、技術移転による国際貢献をすることで得られるメリットは、少子高齢化などの国内トレンドから海外進出を目指す企業にとって大きなものになると考えられます。また意欲的に実習を行う若い人材が入ることは、日本人社員にも良い影響を与えると考えられます。
その他にも技術実習生に対し計画に基づいた実習を行っていくことで、技術実習生が帰国したあとも、計画的な業務配分などが継続的に行えるようになり、業務が安定することに繋がります。手続きに時間と労力はかかりますが、企業にいくつもメリットをもたらす外国人技能実習制度を活用してみてはいかがでしょうか。
外国人労働者の方とこれから働く、またはすでに働いている方に向けに気を付けるポイントをまとめた記事があります。ぜひご覧ください。