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ノーマライゼーションの意味や考え方 | 取り組みの具体例も解説

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ノーマライゼーションという言葉を知っていても、その意味や考え方について今一つ理解できていない人は多いと思います。日本のノーマライゼーションの現状・具体的な取り組み・課題などについても解説し、より理解が深まる情報を提供します。
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(1)ノーマライゼーションとは

ノーマライゼーションとは、障害者でも一般の人と同じように生活できる社会をつくる、という考え方のことです。

そこには障害者だけではなく、高齢者や女性、子供など、すべての社会的弱者やマイノリティもふくまれます。つまり、あらゆる立場の人々が、みんな同じように日常生活を過ごし、社会活動に参加できることを目的としています。

それを実現するための具体的な取り組みもふくめ、ノーマライゼーションと呼ばれています。

現在では、ノーマライゼーションは国際的な社会福祉の基本理念のひとつとなっています。たとえば、バリアフリーやユニバーサルデザイン、QOL、在宅サービス、自立生活運動、当事者主体といった考え方や取り組みは、すべてこの理念を実践するうえで生み出されたものともいえるのです。

(2)ノーマライゼーションの意味

「ノーマライゼーション(normalization)」は、英語で「標準化」や「正常化」を意味します。そこには、もともと特別に行われていたことを一般的にする、というニュアンスがふくまれています。

かつての社会福祉は、社会的弱者やマイノリティを「保護」するべきだという考え方が取られていました。しかし、それは社会的弱者を特別あつかいして、一般社会から切り離すという考え方にもつながります。実際に、本人や家族の意思にそぐわない形での保護も数多く行われてきました。

それに対して、ノーマライゼーションでは、あくまで誰もが同じ社会に暮らす一員だ、という考え方を取ります。そのためには、社会的弱者が変わるのではなく、社会環境のほうを変えていく必要があるのだ、と。そして、社会的弱者自身も価値を生み出し、役割を担える社会にしていかなければならない、と考えます。

(3)ノーマライゼーションという考え方が生まれた背景

出典:https://www.photo-ac.com/main/detail/2207139

ノーマライゼーションの理念は、1950年代にデンマークの社会省担当官だったニルス・エリク・バンク=ミケルセンによって考案されました。

当時のデンマークでは、知的障害者を家族や社会から完全に切り離し、特別施設に収容するという措置が行われていました。そのあつかいも、人権が守られないようなひどいありさまだったといいます。その改善をもとめて、知的障害者の親の会が運動を起こし、1950年に政府に要望を提出します。

そこで、運動にかかわっていたバンク=ミケルセンが提唱したのがノーマライゼーションだったのです。

それを受け、デンマークでは1959年に知的障害者福祉法が成立。知的障害者にも、一般市民と同じ生活と権利が保障されるようになりました。その条文にも、ノーマライゼーションという言葉が記されています。

この法律は「1959年法」として知られるようになり、1960年代にはスウェーデンやイギリス、そしてアメリカなど世界中にノーマライゼーションの考え方が伝わっていきます。その過程で、対象者も知的障害者だけではなく、すべての障害者や社会的弱者、そしてマイノリティへと広がっていきました。

(4)ノーマライゼーションの理念

バンク=ミケルセンが提唱したノーマライゼーションを、さらに発展して普及させたのが「ノーマライゼーションの育ての父」ベンクト・ニリィエです。

スウェーデン知的障害児者連盟でノーマライゼーション運動の中心人物となっていたニリィエは、1969年にその定義を「社会でノーマルとされる日常生活のルールや形式にできるだけ近い条件を、知的障害者が獲得できるようにすること」だとあらためて提唱します。

そして、その条件を以下の8項目としています。

  • 一日のノーマルなリズム
  • 一週間のノーマルなリズム
  • 一年間のノーマルなリズム
  • ライフサイクルにおけるノーマルな発達的経験
  • ノーマルな個人の尊厳と自己決定権
  • その文化におけるノーマルな経済水準とそれを得る権利
  • その社会におけるノーマルな経済水準とそれを得る権利
  • その地域におけるノーマルな環境形態と水準

これらすべてが満たされたとき、はじめて知的障害者は一般社会で人々と同じように生活しているといえる、とニリィエは述べています。

このノーマライゼーションの原理は、あらゆる障害者や社会的弱者などに対象を広げ、現在でも国際的な社会福祉の理念の土台となっています。

(5)バリアフリー、ユニバーサルデザインとの関係性

バリアフリーやユニバーサルデザインは、現代の社会福祉で重要な考え方となっています。いずれもノーマライゼーションと似た考え方ですが、それぞれどのように関係しているのでしょうか。

「バリアフリー」と「ノーマライゼーション」の関係

バリアフリーとは、障害者や高齢者、子供などの社会的弱者にとって障壁となるものを取りのぞいていく、という考え方です。

たとえば、脚が悪い人や車椅子を使用している人は階段をうまく登り降りできません。そこで、階段に手すりやスロープを取り付けたり、エレベーターを設置するのがバリアフリーです。ほかにも、視覚障害者や聴覚障害者が安全に歩行するための誘導ブロックや音響装置付信号機などもバリアフリーです。

もともとは建築用語として使われていた言葉ですが、1974年に「バリアフリーに関する国連障害者生活環境専門家会議」の報告書で提案され、社会福祉でも広く用いられるようになりました。

ノーマライゼーションの理念は、障害がある人もない人も最初から同じように生活できる社会をつくることです。その意味では、通常の社会から障壁を取りのぞくというバリアフリーは、少し考え方が離れているように思えます。

しかし、現在ではバリアフリーは社会制度や人々の意識にある障壁を取りのぞく、という意味でも用いられるようになっています。その意味では、ノーマライゼーションを実現するための手段として、よりバリアフリーの理念に近づいているといえるでしょう。

「ユニバーサルデザイン」と「ノーマライゼーション」の関係

ユニバーサルデザインは、障害や年齢、性別、さらに国籍や身体能力など、あらゆる個人差にかかわらず、誰もが快適に使用できる設計のことをいいます。

たとえば、自動販売機の硬貨投入口が低い位置にあれば、車椅子でも簡単に購入することができます。玄関に段差がなければ、足腰の弱った人も転倒のリスクが低くなります。また、トイレなどのサイン表示をイラストや音声案内にすれば、外国人や子供、視覚障害者などにも区別がつきやすくなります。

ほかにも、シャンプーとリンスを触って区別できる凸凹や、ペットボトルを持ちやすくするくぼみ、左利きでも使用できるハサミなどは、健常者にとっても使いやすいデザインとなっています。

このようなユニバーサルデザインの理念は、自身も障害者であるアメリカの建築家ロナルド・メイスによって考え出されました。障害者や社会的弱者を特別あつかいするのではなく、最初から誰でも使いやすいデザインとする。つまり、バリアフリーの発展形として提唱されたものです。その意味では、よりノーマライゼーションに近く、それを具体化する手段のひとつとなっています。

ユニバーサルデザインの意味や具体例について、より詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください

(6)日本のノーマライゼーションの現状

ノーマライゼーションでは、障害者が自立した生活をおくるために、安定してはたらくことができる社会環境が必要だとしています。それを実現するために日本で制定されているのが、障害者雇用促進法です。

障害者雇用促進法の内容

障害者雇用法は、一定数以上の従業員を雇っている事業主に対して、一定割合以上の障害者を雇用する義務をさだめています。この法定雇用率は5年ごとに見直され、2018年に従業員45.5人以上に対し2.2%となりました。さらに2021年までの3年間で、従業員43.5人以上に対し2.3%まで引き上げることも決められています。

さらに、障害者を一定数以上雇用している事業主には、職業生活相談員や障害者雇用推進者などを選任することももとめています。

一方、企業にかかるコストを軽減するために、法定雇用率を満たした事業主には、超過人数に応じて障害者雇用調整金や報奨金が支給されます。ほかにも、施設の設置や介助者の配置に対して助成金が支給される給付制度があります。一方、雇用率を満たせなかった事業主からは、不足人数に応じた障害者雇用納付金が徴収されます。

それ以外にも、雇用や待遇で障害者を不利にあつかわない「差別の禁止」や、説明や指示を分かりやすくする「合理的配慮」などの義務も事業主には課せられます。

また、障害者雇用促進法では、ハローワークなどの就労支援関係機関に対し、障害者が雇用されやすくするための職業リハビリテーションを行うようにもさだめています。

障害者雇用の現状

障害者の雇用者数は、2017年6月1日時点で49.6万人(うち、身体障害者33.3万人、知的障害者11.2万人、精神障害者5.0万人)となっています。数字こそ14年連続で過去最高を記録していますが、残念ながら実雇用率は1.97%と法定雇用率を下回っているのが現状です。

また、法定雇用率を満たしている企業もちょうど半数で、3割近い企業は障害者を1人も雇っていません。ほかにも、雇用者数のうち精神障害者の割合が低いことなども今後の課題のひとつとなっています。

雇用率がまだまだ低い障害者雇用について、現状や雇用者・障害者別のメリット等詳しく知りたい方はこちらの記事を参照してください

(7)日本におけるノーマライゼーションの取り組みの具体例

1981年の「国際障害者年」でノーマライゼーションが知られるようになって以降、日本でも各方面で様々な取り組みが行われてきました。

行政の取り組み

政府では、障害者対策推進本部が1995年に「ノーマライゼーション7か年戦略」を発表。介護サービスの充実やバリアフリー化の促進など、具体的な数値目標をかかげました。最終年度の2002年には、それを引き継いだ10年間の「新障害者基本計画」と、前半5年間の数値目標をかかげた「新障害者プラン」も発表しています。

また、厚生労働省は障害者がみずからの意志でサービスを受けられるように、2003年に「支援費制度」を制定。支援費制度は財政面などの問題もあり、2006年に「障害者自立支援法」、2013年に「障害者総合支援法」と形を変えていきますが、ノーマライゼーションの理念にのっとりサービス対象者の範囲も年々広がっています。

障害のある方を支援するための障害者総合支援法について、サービスの内容や取り組みの具体例など詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

さらに、2016年には「障害者差別解消法」が成立。公共機関や企業に障害者の「不当な差別的取扱いの禁止」や、障壁を取りのぞく「合理的配慮の提供」をもとめ、個性を尊重した共生社会の実現を目ざしています。

障害があっても住みやすい社会を作るための障害者差別解消法について、課題など詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください

民間の取り組み

民間でも、7か年戦略がかかげられた1990年代ごろから、ノーマライゼーションに対する取り組みが広がっています。

その代表的な例が、グループホームです。これまでのように大型施設で一律的なサービスを行うのではなく、少人数の障害者や高齢者で共同生活を送るのが特徴です。住み慣れた地域を離れることなく、職場にも通ったり、地域の見回りやゴミ拾いをしたりと、社会活動にも参加する形を取ります。

それ以外でも、障害者や高齢者のはたらく場所を提供する民間企業やNPO法人などが、年々増えていっています。

教育の取り組み

「国際障害者年」以降、教育の現場でもすべての子供が同じ教室で学べるようにするという、インテグレーション教育が進められました。これにより、特別教室で授業を受けていた子供たちも、通常の授業を受けられるようになりました。しかし、その後のケアが不十分だったため、学習の遅れやいじめなど、さまざまなトラブルも起こるようになりました。

それを受け、1994年の「特別なニーズ教育に関する世界会議」ではあらためて、障害の有無にかかわらず一人ひとりが適切なケア受けながら学ぶことができる、というインクルーシブ教育という考え方が提唱されています。2010年には、日本でも文部科学省がこの理念を推し進めていくことを発表しています。

(8)日本におけるノーマライゼーションの課題

日本では、すでに1990年代からノーマライゼーションに対する取り組みが行われています。しかし、その理念はいまだに定着しているとは言いがたい現状があります。その課題は、どこにあるのでしょうか。

離職率が高い

障害者雇用では、就職が長く続かないという問題があります。特に、一般求人の場合は最初の3ヶ月で定着率が50%前後と、半数近くが退職してしまっています。これを理由に、障害者雇用を敬遠する企業も少なくありません。

一方、障害者求人の場合は1年後でも定着率が70%前後と高く出ています。このことから、そもそも募集の段階で障害者と企業側との間で意識のずれがあることが分かります。

社内理解度が低い

障害者雇用では、入社後の環境をととのえることも大切です。特に人間関係がうまく築けないと、業務もスムーズに行うことはできません。しかし、社員や経営陣に理解が行き届いておらず、障害者が職場になじめず退職するケースも多くなっています。そもそも、障害者の迎え入れ方について企業側に知識がないことも、原因のひとつとなっているようです。

理念が一般に知られていない

ノーマライゼーションの考え方は、福祉の現場ではすでに十分に浸透しています。その一方で、一般的にはまだその言葉さえ知らない人も数多くいます。そもそも、ノーマライゼーションはすべての人が同じ社会で生活できるようにすることが目的です。そのためには、まず前提として、その理念自体も世間一般に広く知られるようにする必要があります。

(9)ノーマライゼーションにおける課題解決のポイント

出典:https://www.photo-ac.com/main/detail/2207139

このような課題をふまえたうえで、今後私たちはどのようにノーマライゼーションに取り組んでいけばよいのでしょうか。おもに障害者雇用の面から、そのポイントをおさえておきましょう。

相談窓口の設置

障害者雇用はまだ過渡期にあり、どうしてもさまざまなトラブルが生じやすくなります。重要なのは、それにいかに早く対処できるかということです。

専門の相談窓口が社内にあれば、あらかじめトラブルが大きく発展することをふせげるようになるでしょう。そのためには、社会福祉に通じた専門の社員を置くのもひとつの方法です。あるいは、外部の障害者雇用専門に関するソリューションサービスを利用するのもよいでしょう。

障がいのある人々をサポートするための相談事業を行っている相談窓口である「基幹相談支援センター」というものがあります。この取り組みについて調べてみるのも課題解決へのポイントの一つです。

基幹相談支援センターについて詳しく知りたい方はこちらの記事を参照して下さい

業務を見える化しルールを設ける

障害者雇用のなかでも、特に雇用率や定着率が低いのが精神障害者です。その理由のひとつとして、精神障害者は分からないことがあるとパニックを起こしやすいという傾向があります。

それをふせぐには、業務の流れを図や写真などで「見える化」したり、誰もが分かりやすいルールをもうけたりすることが大切です。このような見える化は、一般社員の業務にも大きなメリットがあり、障害者に対してのサポートも行いやすくなります。

障害者についての知識を広げる

障害者についての知識を、社員や経営陣にあらかじめ教育や研修で広げておくことも重要です。障害者に対して、どのようなコミュニケーションを取ればよいのか分かっていれば、そもそもトラブルが起こることをふせぎやすくなります。

また、障害者といってもその種類によって性質もさまざまです。企業側がそのことをよく知っていれば、募集や人事のさいにも適した人材を配置しやすくなります。

障害者に関する知識を広げるために、障害者差別の実態を把握することも大切です詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください

(10)障害者を理解することがノーマライゼーションの認知拡大につながる

出典:https://www.photo-ac.com/main/detail/7521

障害者でも同じように社会活動に参加できるようにすることが、ノーマライゼーションの目的です。それを実現するには、一般社会がそれを受け入れる体勢をととのえる必要があります。

そのために大切なことは、何より障害者に対する理解を深めることです。障害者のことを理解すれば、それ自体が心のバリアフリー化となり、ノーマライゼーションが広まっていくことにもつながるでしょう。

ノーマライゼーションは、けっして障害者のためだけのものではありません。あらゆる人々が暮らしやすい社会をつくるために、みんなで協力していきましょう。

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