(1)介護現場への導入が進んでいるメイクセラピーとは
「メイクセラピー」と聞いてピンとくる方は少ないのではないでしょうか?
メイクセラピーとは化粧療法とも言い、幅広い領域で様々な手法があります。女性の方は特に、メイクをして自分がきれいになる様子に喜びや幸せを感じることが多いと思います。このような化粧による幸福感は高齢者のQOL(=生活の質)向上につながると言われています。
メイクセラピーとは色彩学や印象分析など心理学的な理論を備えたメイクと心理カウンセリングを掛け合わせた新しいケア手法です。近年、メイクセラピーは美容の分野だけではなく医療・介護現場にも活用されており広範囲の女性を対象にしたケア手法と言えます。
サービスの流れとしてはまず、「クライアントがどうなりたいか」時間をかけてカウンセリングを行います。そしてメンタルサポートメイクが施され、最終的には自分でメイクができるよう、その技術も指導します。
リハビリ効果や認知症予防も期待されるメイクセラピーですが、介護現場では高齢者に「自分らしく生きる」ことを提供するためにも導入が進んでいます。
(2)メイクセラピーが高齢者に与える効果
メイクセラピーがもたらす効果は総じて、高齢者の生活の質の向上・維持につながります。近年注目されている「化粧がもたらす科学的な効果」も含め説明していきたいと思います。
心理的効果
研究により、化粧における心理的効果には自己肯定感と安心感の確保、リラックス効果があることが分かりました。いつもと違う自分を手に入れることで自分に自信がもて自己肯定感が増すと言われています。また、安心感やリラックス効果は、ストレス解消・認知症の改善に役立つとされています。
化粧や会話によって生まれる「うれしい」「たのしい」といったポジティブな感情は高齢者の心を健康に導きます。
社会的効果
メイクセラピストや施設スタッフ、ご家族など周囲と会話をする機会が増え、人との関わりが生まれやすくなることが期待されます。人との関わりは心理的効果をもたらすきっかけになると考えられており前向きな感情を生み出します。
人との関わりは元気に長生きするうえで最も大切なことです。メイクセラピーによってこのような社会的効果が期待されます。
リハビリ的効果
メイク時は容器の開閉やファンデーションを塗るなど手を動かす動作が多くあります。このような動きは握力や腕の筋力向上などリハビリ的効果を生みます。実際、要介護状態の高齢者が食事の際、自立してできる動作が増えたという事例が報告されています。
口腔機能のアップ
手や指を動かす化粧を継続的に行うと唾液分泌の能力が向上すると言われています。唾液は自浄作用があるので分泌力の向上は虫歯・歯周病予防になります。また、唾液分泌量を高めると、嚥下障害・咀嚼障害・発音障害などあらゆる障害の発症を予防・改善することができると言われています。
実際にメイクセラピーを50分間受けた方の嚥下回数にかかわる神経伝達物質が増加し発音機能の向上が見られたという報告が出ています。
認知症の予防・改善
認知症の予防として脳を活性化させることが重要です。メイクセラピーは「きれいな色を見る」「相手の話を聞く」「手で顔を触れる」など五感を刺激する機会が多くあり、脳の働きを活性化させます。
また、化粧をすると自尊心の高まり、日常生活能力や認知機能の改善が見込めると言われています。このような化粧の効果が認知症の改善につながります。
また、これらと同じような精神的に良い効果が見込めるセラピー手法に「アニマルセラピー」があります。自分がきれいになっていく様子に喜びを得るメイクセラピーに対し、アニマルセラピーは動物と触れ合うことで癒しを得たり、精神的な安定を得ます。
アニマルセラピーについて詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。 |
(3)サービス内容
効果が分かったところで実際どのようなサービスを提供しているのか、施術の流れとともに説明していきます。
①メイク道具のセット
ファンデーション、口紅などメイクに必要な道具が一通り用意されます。提供先にもよりますが、アイシャドウや頬紅などは様々な色が用意され利用者が目でも楽しめるようになっています。
②カウンセリング
メイクを施す前に、基本的に利用者と1対1でじっくり会話をする時間が設けられます。
この時間には、利用者の「こうありたい」「こうなりたい」などの願望や利用者の生活習慣、身体の状況などを話し合います。メイクセラピストはこのような情報をもとに施術とメイク指導の方針を考えます。
このカウンセリングは利用者にとってのきれいを引き出す重要な時間になります。
③メイクアップ
ただ施術するだけではなく、利用者に使うカラーを選んでもらうなど意思決定を引き出すためのサポートが行われます。
自分に合う色は何かなどメイクを通して会話も弾みとても楽しい時間が提供されます。
④メイク指導
ファンデーションの塗り方、眉毛の描き方など日頃も自分でできるようメイクアップ中、要所ごとに本人に化粧をしてもらうよう促します。歌いながらメイク指導をしているところもあり利用者の気持ちを前向きにするような工夫がみられます。
メイク指導により利用者は毎日続けるための術を身につけられます。それにより自分らしく生きる喜びを味わえるようになるでしょう。
(4)メイクセラピーの普及率
冒頭で介護現場で注目されていると説明しましたが、実際、どのくらい普及しているのでしょうか。
本記事の見出し8-2で説明しますが、メイクセラピー検定というメイクセラピストの多くが受けている検定試験があります。ここではメイクセラピー検定の受験者数の推移から普及率を説明していきたいと思います。
データ:一般社団法人メイクセラピストジャパン提供
グラフから分かるように、メイクセラピー検定の受験者数は2016年~2018年にかけて右肩上がりです。この受験者数の増加からメイクセラピーの認知は拡大していることが読み取れます。
また、実際に外見のケアが病気の回復などにつながることの科学的証明がされるなど福祉現場における外見ケアとして注目が集まっています。これは社会が高齢者にとってメイクセラピーが重要であることに気付き始めているということです。
化粧品事業大手の資生堂でも2013年に「化粧の力」で高齢者のQOL向上を目指す「資生堂ライフクオリティービューティーセミナー」が設立され、資生堂化粧セラピスト資格制度も導入されています。
今後、メイクセラピーは外見ケアの一つとして確立し介護現場で普及していくと考えられます。
(5)介護現場への導入事例
メイクセラピーの導入へ踏み込んだ施設の考え、またメイクセラピーが介護現場で本当に効果が出ているのか気になりますよね?導入している施設のスタッフ・利用者の声をそれぞれ見ていきましょう。
導入した施設の人の声
導入している施設スタッフの声には次のような声が寄せられています。
このようにメイクセラピーが利用者にもたらす効果を実感している声が多く寄せられています。
また、「高齢者の方の気持ちが明るくなり、笑顔で”ありがとう”と言われることが増えて仕事にやりがいを感じるようになった」「スタッフと利用者のコミュニケーションが増え職場環境がよくなった」など導入した施設側にもプラスの効果をもたらしています。
利用者の声
高齢者施設に住む80代女性の方からは「化粧をして気分がよくなった」「きれいになるってやっぱり楽しい」と前向きな発言が寄せられています。
またサービス付き高齢者向け住宅に住む、足腰が悪く普段はあまり外出をしない70代女性からは「洋服もおしゃれにして、外に出かけたい」「早く孫に会いたい」と外への意識や顔以外の身だしなみも気にするような声がありQOL(生活の質)向上への効果が出ていることがわかります。
また施術後にスタッフの方や家族から「かわいくなったね!どんなこと教えてもらったの?」「おばあちゃんきれいになった!」などコミュニケーションも生まれています。
しかし、利用者の中には施術前「メイクの前に疲れちゃいそう」「化けるのは嫌だ」など化粧に抵抗がある方もいます。このような場合はメイクセラピストと事前に相談したりなど、受け入れてもらう方法を考えてみましょう。
(6)導入方法
メイクセラピーが高齢者に与える効果や利用者の声から導入メリットを感じ、「自分の施設に取り入れるにはどうすれば・・・」と導入方法について気になる方がいらっしゃるのではないでしょうか。
ここでは外部にサービス提供を求める場合の導入の流れを紹介します。
導入の流れ
事業所に直接、依頼する場合
まずはメイクセラピーなどの介護美容事業を行っているところを探す必要があります。
ネットや勉強会・イベント、知人からの紹介などで気になる事業所をみつけたらさっそく問い合わせをします。イベント情報は8-2で後ほど紹介します。
サービス内容、費用など条件があったら契約を結び、日程などサービス提供に向けた予定を立てていきます。施設では開催の告知をするなどサービスの受け入れ体制を整えておきましょう。
施設によって導入の流れは異なってくるので事前に確認しておきましょう。
紹介サービスを提供する会社に依頼する場合
はじめにメイクセラピストを紹介してくれる会社を見つけなければなりません。しかし現在、こういったサービスを提供している会社は少ない状況です。
ここでは、メイクセラピストの紹介サービス(※)を行っている株式会社ミライプロジェクトを利用する場合の導入の流れを説明していきます。※ミライプロジェクトが紹介するメイクセラピストは自社スクールの卒業生が主です。
ここで紹介する流れはあくまで一例なので参考にしていただければと思います。
まずはミライプロジェクトに問い合わせをします。問い合わせ先の情報は下記で紹介します。
問い合わせをし、事業所に直接依頼する場合と同様に条件などを伝えるとミライプロジェクトが自社で育成したメイクセラピストを紹介してくれます。
あとの予約や問い合わせ内容の通知などの導入サポートもしてくれるので自分で事業所を探して導入するより楽かもしれません。
株式会社ミライプロジェクトは「介護×美容」の専門教育機関として人材育成事業を展開しているのでメイクセラピストだけではなく訪問美容師などあらゆる介護美容者を紹介しています。近々、WEB・アプリから介護美容を簡単に予約できるサービスが提供されるようなのでぜひチェックしてみてください。
問い合わせ会社情報 |
株式会社 ミライプロジェクト Tel:03-6300-6415 Mail:info@mirapro.net |
(7)メイクセラピーの利用料金
ここでは個人ではなく施設とメイクセラピストが契約する場合の料金を説明していきます。
導入にかかる費用は主に、仲介会社や事業所との契約料になります。この契約料にはメイクセラピーに必要な道具などのサービスに必要な費用がすべて含まれているため導入にかかる費用は契約料のみになります。実際いくらかかるのか、導入方法別に説明していきます。
仲介会社を通して依頼する場合の導入にかかる費用は仲介会社や提携しているメイクセラピストによって異なってくるため一概には言えません。
一方、自分で事業所を探して契約する場合は個人の事業所だと1回15,000円だったり、2時間で30,000円だったりと、その事務所ごとに契約料が異なってきます。
どちらの場合も正確な費用を知りたい場合は実際に問い合わせてみると良いでしょう。
(8)メイクセラピーについてさらに詳しく知りたい方へ
自分でメイクセラピーの資格を取ることもできる
一般社団法人メイクセラピストジャパンではメイクセラピー検定というその知識と技術を問う検定試験があります。メイクセラピー事務局が認定する検定で、受験レベルは3級、2級、1級、特級と4段階に分かれており、2級までは誰でも受けることができます。
(1)でも述べたようにメイクセラピーの活動領域は美容・医療・福祉などと広範囲にわたります。この検定はどの分野に行くにしてもメイクセラピストとして必要な基礎を学べる機会でありまた、基礎の習得を証明するものにもなります。
そのため、対高齢者に特化したメイクセラピー手法の検定ではありません。あくまでも女性全体を対象としたメイクセラピーの知識・技法を認定する検定となります。
ちなみに福祉業界で検定を取得した方はセカンドライセンスとして活用しているそうです。今後のキャリアを考えてメイクセラピー検定を受けてみてもいいかもしれません。
また、この検定試験ではメイクアップ技術だけでなく化粧心理学など心理的面の知識・技術も問われます。メイクセラピーについて深く知る初めの一歩として検定を受けてみるのもいいかもしれません。
メイクセラピー検定に興味がある方はHPをチェック |
資格情報だけでなく合格者やセラピストとして活躍している人の声なども載っているので生の情報を手に入れることができます! |
講演会、イベント情報
ここでは介護現場でのメイクセラピーについて知る機会をいくつか紹介します。
(株)ミライプロジェクトでは介護×美容のトークイベントやセミナーなど不定期で開催しています。
また東京大学医学部付属病院が行う「外見ケア」のイベントではボランティアとしてメイクセラピストが参加しているので直接話を聞くことができます。この外見ケアのイベントは毎年、9月~3月にかけて不定期で開催されます。
「介護現場でどのようにメイクセラピーが役に立つのかもっと知りたい!」「メイクセラピーを実際に受けてみたい!」などと思った方はぜひ参加してみてください。
実際の声・体験からしか分からないことがたくさん得られると思います。
メイクセラピーにの研究に関する本
メイクセラピーには心と身体の両方に効果があり、科学的な研究も行われています。
化粧業界大手の資生堂には資生堂ビューティーソリューション開発センターという化粧に関する研究機関があり、介護現場におけるメイクセラピーの効果についても研究されています。
その資生堂ビューティーソリューション開発センターが著した「化粧セラピー」という本では、介護現場のおけるメイクセラピーの効果を事例や科学的根拠をもとに分かりやすく説明されています。また、認知症、抑うつなど症状別にどのような効果がもたらされるのかなど詳しい情報も載っているので、よりメイクセラピーについて理解を深められると思います。
メイクセラピーの効果について詳しく学びたい方はぜひこの本を読んでみてください。
(9)メイクセラピー以外の介護×美容サービス
メイクセラピー以外にも介護と美容を組み合わせたサービスが展開されています。これらのサービスも現在介護現場で注目を浴びており導入する施設が増えつつあります。
訪問理美容
店舗に行くことが困難な方のところへ介護のスキルを身に着けた美容師が訪問し利用者の希望に沿った総合理美容サービスを提供しています。ヘアカットだけでなく、利用者のご希望に応えられるようシャンプー、ヘアカラー、顔そり、パーマなど多くのサービスが用意されています。
メイクセラピーと同様、事前にカウンセリングを行ったり、施術中もコミュニケーションを多くとったりするため、ただ身だしなみが整うだけでなく高齢者の心のケアやサポートも期待できます。訪問美容のサービス内容・費用について知りたい方はこちらの記事をお読みください!
ケアエステ
ケアエステでは利用者が豊かな気持ちで過ごせるようなサービスを提供しています。顔や手足へのマッサージで疲労を取り除くほかに洗顔方法や化粧水の塗り方を教えるなど身だしなみのケアも行っています。
高齢者の身体だけでなく心も健康にしてくれる美容サービスになります。
ケアネイル
現在、ケアネイルの需要が高齢者施設で高まっています。ケアネイルには脳の活性化また、家族とのコミュニケーションが広がる効果も期待され導入を進める施設が増加しているそうです。
ネイルによって爪が美しくなることはメイク同様、心や行動が前向きになりQOL(生活の質)の向上につながります。
アロマセラピー
フランスで発症した医療療法で、主に植物の香りを嗅いで心をリラックスさせ、心身の問題を解消することを目的としています。最近では施設のレクリエーションとしても取り扱われています。
アロマセラピーの効果には健康に関する効果と精神面での効果があります。より詳しい効果についてはこちらの記事をお読みください
(10)メイクセラピーは高齢者にイキイキとした暮らしを提供する
メイクセラピーは介護現場だけでなく医療の現場でも取り入れられており、化粧がもたらすあらゆる効果を利用して高齢者や患者のQOL(生活の質)の向上を目指す新しいケア手法として需要が高まっています。
新聞やテレビで取り上げられるなどメイクセラピーの認知も拡大しており、超高齢化社会に向かっている日本では今後、その重要性に気づき導入する施設は増々、増えていくと思います。
メイクセラピーを介護現場に導入するメリットは高齢者だけではなく施設で働く人にももたらされます。働く人のやりがいにもつながるメイクセラピーを活用して高齢者の方と一緒に笑顔な毎日を過ごしていきましょう。