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(1)日本の介護業界が抱える課題とは
日本の介護業界が抱える課題は、少子高齢化、人材不足、介護施設不足、介護難民、老老介護、認知症高齢者増加、1人暮らし高齢者などたくさんあります。
その中でも今回は主な3つの課題を挙げ、解説していきます。
①介護業界の人材不足
介護業界の人材不足は深刻です。公益財団法人介護労働安定センターによる介護労働実態調査によると、介護サービスに従事している回答者21,250人の内、66.6%の方が人材不足だと感じるという回答しています。
(参照URL:「平成29年度 「介護労働実態調査」の結果 | 公益財団法人 介護労働安定センター」)
また、経済産業省の試算によると2025年には要介護者247万人、介護者215万人となっており、介護職員が32万人ほど不足する見込みとなっています。
(参照URL:「将来の介護需給に対する 高齢者ケアシステムに関する研究会 報告書 | 経済産業省 経済産業政策局 産業構造課」)
②高齢化社会
2019年日本の総人口の1億2617万人のうち3588万人(28.4%)が65歳以上の高齢者となっています。これからも高齢者人口は増え続ける予想であり、第一次ベビーブーム(1947年~1949年)に生まれた世代「団塊の世代」が75歳を迎える2025年では、高齢者人口の割合は30.0%になる見込みとなっています。
(参照URL:統計トピックスNo.121 統計からみた我が国の高齢者-「敬老の日」にちなんで-/1.高齢者の人口 | 総務省統計局」)
③2025年問題
2025年問題とは、第一次ベビーブーム(1947年~1949年)に生まれた世代「団塊の世代」が後期高齢者である75歳を迎える2025年に、超高齢化社会になることです。
主な問題としては、施設不足、介護人材不足、要介護者の増加、社会保障費急増などがあります。
高齢化社会・超高齢化社会へと変化していく中で生じた課題に対処するためにどのようなことを行っていくか、具体的な取り組みや方向性について決めたものをゴールドプランといいます。
ゴールドプランの内容は、時代とともに変化しており、古いものからゴールドプラン、新ゴールドプラン、最新のゴールドプラン21となっています。
まずはゴールドプラン・新ゴールドプランの成り立ちや主な取り組みについて解説していきたいと思います。
(2)ゴールドプラン・新ゴールドプランとは
①ゴールドプランの成り立ち
ゴールドプランとは、高齢化社会に備えて1989年に組まれた計画のことを指します。このゴールドプランは、「高齢者保健福祉推進10ヵ年戦略」とも呼ばれ、増加の一方である高齢者の生活を守るために計画されました。
まずはゴールドプランが作られた背景や具体的な内容を見ていきましょう。
②ゴールドプラン策定の背景
ゴールドプランが作られた背景には、1986年に閣議決定された「長寿社会対策大綱」と、1988年に策定された「長寿・福祉社会を実現するための施策の基本的考え」があります。
日本人の平均寿命は年々徐々に伸びていますが、従来の制度は平均寿命が短い時代に制定されています。そのままでは超高齢者社会が訪れた際に対応しきれないという問題が浮上しました。
そこで、平均寿命が延びた人生80年時代にふさわしい経済社会システムに転換するという趣旨でゴールドプランが策定されました。
③ゴールドプランの内容
ゴールドプランの目的は高齢化社会の中で健康で生きがいを持ちながら安心して暮らせるようにすることでした。
そのため主に市町村における在宅福祉対策の緊急実施・施設の緊急整備や、特別養護老人ホーム・デイサービス・ショートステイなどの施設の緊急整備、ホームヘルパーの養成などによる在宅福祉の推進などの施策計画を立て実施しました。
これにより高齢者社会が訪れた時の受け皿(施設の充実、スタッフの補充)を増やしています。
④ゴールドプランの具体的な取り組み
ゴールドプランの具体的な取り組み内容は以下の通りです。
市町村における在宅福祉対策の緊急整備(在宅福祉推進十か年事業)
- ホームヘルパー10万人
- ショートステイ5万床
- デイ・サービスセンター1万か所
- 在宅介護支援センター1万か所
上記の用意および、これらの施設の全国的な普及、在宅福祉事業の実施主体(財団法人たる公社等)の普及、「住みよい福祉のまちづくり事業」を推進(人口五万人未満の市町村をも対象)が目指されました。
「ねたきり老人ゼロ作戦」の展開
- 地域において機能訓練を受けやすくすること
- 全国民を対象とする脳卒中情報システムの整備
- 介護を支える要員の確保
- ホームヘルパーの増員
- 在宅介護支援センターにおける保健婦・看護婦の増員
- 在宅介護指導員(保健婦.看護婦等)2 万人
- 在宅介護相談協力員(地域のボランティア)8万人の設置
- 脳卒中,骨折等の予防のための健康教育等の充実
上記のような項目について、対応を目指しています。
在宅福祉等充実のための「長寿社会福祉基金」の設置
「在宅福祉・在宅医療事業の支援」「高齢者の生きがい.健康対策の推進」の目的で700億円の基金が設置されました。
施設の緊急整備(施設対策推進十か年事業)
特別養護老人ホーム24万床、老人保健施設28万床、過疎高齢者生活福祉センター400か所などの設置が目指されました。
高齢者の生きがい対策の推進
「明るい長寿社会づくり推進機構」の全都道府県の設置や「高齢者の生きがいと健康づくり推進モデル事業」の推進が目指されました。
長寿科学研究推進十か年事業
- 研究基盤充実のための国立長寿科学研究センターの設置
- 長寿科学研究を支援する財団を設立すること
- 基礎分野から予防法・治療法の開発
- 看護・ 介護分野、さらに社会科学分野までの総合的な長寿科学に関するプロジェクト研究を実施すること
- 将来の高齢化社会を担う児童が健やかに生まれ、育つための施策を推進すること
上記のような形が目指されました。
特に、生涯の健康の基礎となる母子保健医療対策の一層の充実のための検討が進められました。
高齢者のための総合的な福祉施設の整備
民間事業による老後の保健及び福祉のための 総合的施設の整備の促進(「ふるさと21健康長寿のまちづくり事業」)、公的事業主体による高齢者の生活・介護・健康づくり・生きがい活動を目的とした総合的施設の整備の検討、国立病院・療養所の再編成に伴う跡地等の活用についての検討が進められました。
この他にも地方公共団体独自の高齢者保健福祉施策が進められました。
(参照URL:「高齢者保健福祉推進十か年戦略 | 厚生労働省」)
⑤新ゴールドプランの成り立ち
急速な高齢化に合わせ、新ゴ-ルドプランが策定される
ゴールドプランの政策を進める一方で、高齢化が当初の予想を超えて急速に進んだため旧プランでは対応し切れなくなりました。そのためゴールドプランを見直し、1994年に全面的に改定された新ゴールドプラン(高齢者保健福祉5ヵ年計画)が策定されました。
この新ゴールドプランでは、94年に後半5年分を拡充、介護サービス提供環境の整備目標を引き上げるなどの見直しを行い、2000年4月の介護保険制度の導入で生じる新たな需要に対応するため、在宅介護の充実に重点を置き、ヘルパー17万人確保、訪問看護ステーション5,000箇所設置などを目標としました。
(3)新しく策定されたゴールドプラン21とは
新ゴールドプランに続き、2000年には世界最高水準の高齢化率となる中、高齢者保健福祉施策の充実を図るため、2004年度までの5ヵ年にわたる「ゴールドプラン21」を策定しました。
このゴールドプラン21は、「いかに活力ある社会を作っていくか」を目標としています。
主な施策としては「いつでもどこでも介護サービス」、「高齢者が尊厳を保ちながら暮らせる社会づくり」、「ヤング・オールド(若々しい高齢者)作戦」の推進、「支えあうあたたかな地域づくり」、「保健福祉を支える基盤づくり」のように、介護サービスの基盤整備と生活支援対策などを施策として掲げています。
また、新ゴールドプランには盛り込まれていなかったグループホームの整備も具体的な施策として掲げています。
(参照URL:「ゴールドプラン/新ゴールドプラン/ゴールドプラン21 | 柏市男女共同参画センター」)
①ゴールドプラン21の方向性
ゴールドプラン21の方向性としては以下のようなものがあります。
活力ある高齢者像の構築
超高齢者社会である21世紀を明るく活力ある社会とするため、可能な限り多くの高齢者が健康で生きがいをもって社会参加できるよう、「活力ある高齢者像」を構築する。
高齢者の尊厳の確保と自立支援
要援護の高齢者が自立した生活を尊厳をもって送ることができ、介護家族への支援が図られるよう、在宅福祉を基本として、介護サービス基盤の質・量両面にわたる整備を進める。
支え合う地域社会の形成
地域において、介護にとどまらず生活全般にわたる支援体制が整備されるよう、住民相互に支え合うことのできる地域社会づくりや高齢者の居住環境等の整備に向けて積極的に取り組む。
利用者から信頼される介護サービスの確立
措置から契約への変更が利用者本位の仕組みとして定着するよう、利用者保護の環境整備や介護サービス事業の健全な発展を図り、介護サービスの信頼性を確立する。
このような4つの目的に向けさまざまな取り組みが行われました。
②ゴールドプラン21に示されている具体的な取り組み
ゴールドプラン21の具体的な取り組みを見ていきましょう。
介護サービス基盤の整備
~「いつでもどこでも介護サービス」~
いつでもどこでも介護サービスを受けることができるように、人材確保と研修強化・介護関連施設の整備・施設処遇の質的改善を行いました。
痴呆性高齢者支援対策の推進
~「高齢者が尊厳を保ちながら暮らせる社会づくり」~
高齢化とともに増える認知症の方の受け皿を作るために、認知症老人グループホームの整備・認知症の介護の知識・質的向上・権利擁護体制の充実を行いました。
元気高齢者づくり対策の推進
~「ヤング・オールド作戦」の推進~
高齢者でも病気知らずな元気なお年寄りを増やすために、総合的な疾病管理の推進・地域リハビリテーション体制の整備・生きがい、介護予防、社会参加の推進を行いました。
地域生活支援体制の整備
~「支え合うあたたかな地域づくり」~
住み慣れた地域での生活を行うために、あたたかな地域社会づくりの支援・生活支援サービスの充実・居住環境等の整備を行いました。
利用者保護と信頼できる介護サービスの育成
~「安心して選べるサービスづくり」~
どのような利用者も安心して介護サービスを利用できるように、多様な事業者の参入促進・福祉用具の開発・普及を行いました。
高齢者の保健福祉を支える社会的基礎の確立
~「保健福祉を支える基礎づくり」~
高齢者の知識を増やすために、長寿科学の推進・福祉教育の推進・国際交流の推進を行いました。
(参照URL:「今後5か年間の高齢者保健福祉施策の方向~ゴールドプラン21~ | 厚生労働省」)
これらがゴールドプラン21に示されている具体的な取り組みとなります。次に、地方自治体も独自のゴールドプラン21を行っています。
(4)各地でのゴールドプラン21への取り組み
ゴールドプラン21は全国の地方公共団体でも、多種多様な取り組みが見られます。
今回は3つのゴールドプラン21の施策を紹介します。
例1.佐賀県
第8回さがゴールドプラン21では主に医療・介護人材の確保に重点を置いています。その他にも、高齢者の社会参加推進、認知症の方への取り組みなどの主要施策が挙がっています。
(参照URL:「医療・介護人材確保を最優先 「第8期さがゴールドプラン」骨子案 県高齢者保健福祉推進委員会|行政・社会|佐賀新聞ニュース|佐賀新聞LiVE」)
例2.栃木県足利市
栃木県足利市では、以前から行っていた地域包括ケアシステムの推進を引き続き行いつつ、新たに認知症の早期診断・早期対応への取り組み、地域ネットワークの形成や生活支援体制設備、在宅医療・介護連携の推進などにも取り組んでいます。
(参照URL:「ゴールドプラン21(第7期計画)について - 足利市公式ホームページ」)
例3.滋賀県長浜市
ゴールドプランながはま21(第7期)では、「みんなで支え合い 生き生きと暮らせる あたたかな長寿福祉のまち」を基本理念としています。主な施策としては、地域推進・社会参加推進・認知症施策の推進・介護福祉人材の確保や育成など8つの施策を定め、取り組んでいます。
(参照URL:「第7期ゴールドプランながはま21(高齢者保健福祉計画・介護保険事業計画) | 長浜市」)
(5)ゴールドプランは高齢者福祉にどう影響しているか
このようにゴールドプラン・新ゴールドプラン・ゴールドプラン21と制定を進める中で、高齢者福祉はかつての経済的困窮者への支援から介護を必要とする者への支援へと変化しました。家族の義務として考えられていた介護は、社会的な支援へと変化しています。高齢者の支援の範囲の拡大が進み、高齢者の住みやすい社会へと少しずつ変わりつつあります。
また、冒頭で説明した日本の介護業界が抱える課題、高齢化社会に対してもゴールドプラン21の施設充実や介護サービスの質向上などの施策で対応していき、今後のめざすべき高齢社会の実現へと着々と進んでいます。
(6)ゴールドプラン21と共に未来の介護へ
本記事では、いかにゴールドプランが新ゴールドプラン・ゴールドプラン21と形を変え、その時その時の社会の状況に合わせて高齢者を支えるべく策定されているかを伝えてきました。
昨今、日本の介護業界は変革期を迎えています。
その中でも遅れをとらないよう、ゴールドプラン21にも書かれている方向性や目標が重要になってくるのではないでしょうか。
医療従事者だけでなく国民一人一人が意識を変え、情報感度を高めることが出来れば、課題解決の一歩へとなるかもしれません。