(1)2040年問題とは
2040年問題とは、日本社会が2040年に直面するとされる問題の総称です。
総務省は各関係機関の有識者を集め、2040年に訪れる危機的な課題について話し合う「自治体戦略2040構想研究会」を開催し、様々な課題について話し合いをしています。
この研究会で話し合われる「2040年問題」とは、具体的には次の3つのリスクに行政が直面するというものです。
- 首都圏の急速な高齢化と医療・介護の危機
- 深刻な若年労働者の不足
- 空き家急増に伴う都市の空洞化と、インフラの老朽化
また、いわゆる「就労氷河期世代」と呼ばれる層が高齢者層に移行していくにもかかわらず、多くの人々の老後の備えが不十分であるという点が指摘されています。
以下で、2040年問題の全容を詳しく見ていきましょう。
(2)2040年に起きるとされる急激な人口減少
テレビや新聞などで頻繁に伝えられている通り、日本の人口は昭和45年に1億人を突破するなど右肩上がりで増加し続けていました。
しかし、平成20年の1億2千8百万人を境に、少しずつ減少し平成28年には1億2千7百万人弱と8年間で約100万人減少しました。
これには、生涯未婚率の上昇、初婚年齢の上昇などによる「合計特殊出生率」の低下が主な原因となっています。総務省により人口の減少は今後も続くと予想されており、2040年には人口は約1億6百人にまで落ち込むという推計を出しています。
併せて、総人口のうち65歳以上の人口比率を示す高齢化率ですが、昭和では5年間で1%というペースで上昇してきましたが、平成になると5年間で約3%というハイペースで上昇し、平成28年度の高齢化率は27.3%に達しています。これは「団塊の世代」の後期高齢化(85歳以上)と、その子供にあたる「団塊ジュニア」が高齢化(65歳以上)するためです。
総務省では、今後の高齢化率はやや鈍化するものの、2040年の高齢化率は36.8%まで上昇し、2040年問題の根幹でもある人口減少と高齢化がピークに達すると見込んでいます。
(3)就職氷河期世代が一番不利になる?
2040年問題で注目すべき課題のひとつとして、「就職氷河期世代」の問題が挙げられます。
1972年から76年に産まれた世代は、バブル崩壊後の就職氷河期に就職しているため、前後の世代に比べて所得が低い、就職難やリストラの影響で非正規雇用やフリーターが多い状況となっています。
このため生涯で得られる所得も低く、老後に向けた十分な貯蓄がなく老後の生活は厳しいものとなります。
つまり、就職氷河期世代は、2040年問題だけでなく就職活動時から人生の最期まで苦労することになる、というストーリーが存在するのです。
(4)2040年に国が直面すると考えられる問題①
2040年に国が直面すると考えられる問題の1つとして、首都圏の急速な高齢化と医療・介護の危機が挙げられます。
日本の人口は、第1次ベビーブームの時期(昭和22年から昭和24年)に産まれた「団塊の世代」と呼ばれる人口が約806万人と突出しています。地方に住む団塊の世代は、職を求めて地方から首都圏に流入し、東京圏を中心に人口が激増しました。その人口が一斉に高齢化します。
特に医療・介護ニーズの高い85歳以上の人口が増加することで、医療・介護のニーズが高まります。
一方で、少子化の影響により、あらゆる分野の労働者不足が社会問題となっています。現に介護スタッフや医療の専門職も不足が深刻化しており、東京圏は圏外の介護施設への依存度が高くなっています。
この需給ギャップは、2025年時点で37.7万人と推計されており、2040年はさらに拡大するものと考えられています。
加えて、首都圏は、「未婚、離婚、死別などにより高齢単身世帯の増加」「家族や地域の支えが弱い」といった地域特性を持っており、高齢者の医療と介護は2040年問題における大きなリスクの一つになります。
(5)2040年に国が直面すると考えられる問題②
(若年)労働力不足
2040年に迎える危機として、深刻な若年労働力の不足も懸念されています。
日本の人口の減少の一因でもある少子化が続くことで、生産年齢人口と呼ばれる15歳から65歳の人口も、1年間に100万人のペースで減少していきます。さらに労働力の中心も、若年労働力不足により労働者の年齢も高い年齢で推移していくことになります。
労働力不足は、製造業やサービス業を含む多くの業種ですでに問題となっており、生活に密着した職種(介護、看護、保育、建設、運輸)の労働力不足は、深刻な社会問題となっています。
2040年問題において労働者不足は2つの問題を指摘しています。
1つめは、高齢者に必要な介護や医療、その他高齢者の日常生活を支える産業が、十分なサービスを提供できないことです。
これまで企業が倒産する場合の理由は、売り上げ不振が主なものでしたが、最近では、売り上げが好調でも、慢性的な人手不足や後継者不足を原因とする倒産が増えています。
このままの状態が続くと、2040年には若年労働力不足はさらに深刻化し、事業所の倒産、生産性の低下、経済成長の低下、そして生活を支えるサービスが満足に受けられない事態が発生すると懸念されます。
2つめは、社会保障制度が立ち行かなくなることです。
健康保険や医療保険、生活保護といた社会保障制度は社会保障制度の利用度が低い若年労働者の税金や保険料が貴重な財源として成り立っていますが、若年労働者が減少し税金や保険料の減収となると、収支バランスが瓦解し、社会保障制度は成り立たなくなることが懸念されます。
(6)2040年に国が直面すると考えられる問題③
都市の老朽化とインフラの老朽化
2040年に迎える危機として、さらに、空き家急増に伴う都市の空洞化とインフラの老朽化も懸念されています。
これまで地方から首都圏などの都市部に人口が流入してきたことで、大規模な開発により多くの住宅や高層マンション、大規模団地などが建設され、賑わいのある町が形成されてきました。
しかし、多くの住まいが建設から50年以経過しているので建物の老朽化、エレベータのない高層団地やバリアフリー化されていない家など高齢者には住みづらい環境下になっています。
このようなことから首都圏以外へ転出する、空いた部屋に新たな入居者がいないなど、賃貸物件の空き家が増えてきています。
加えて未婚化や無産化、血縁の希薄化などにより、家主が施設入所、死亡といった後、家が誰にも引き継がれずそのまま放置される「特殊空き家」も急増しています。
都市部は、空き家や空き地が増えることで町の空洞化、スポンジ化がすすむとされています。
また、バブル期までに建設された公共施設(福祉会館や公民館など)やインフラ(道路、橋、下水道管など)が老朽化していきますが、どこの市区町村も人口減少で税収の減収による財政難のなかで、簡単に建て替えなどは不可能な状態です。
それでも水道施設などのライフラインは設備を維持する必要があり、その設備費用は利用者の料金に上乗せされることが想定されています。
公共交通機関では、人口減少の余波をうけ利用者が減少し、バスや鉄道の路線が次々と廃止する恐れもあります。
これらの点において、2040年問題は、「人の高齢化により、町の機能が衰退する」というリスクを指摘しているのです。
(7)今後10~20年で消滅するとされる10の仕事
長崎県にあるテーマパーク、ハウステンボスにあるホテルの受付業務や掃除、荷物運びを、ロボットが行うということで話題になりました。
最近では、スーパーのレジにセルフレジを導入する店舗が増え、バスの自動運転の実験やドローンを使った運搬の実験なども行われています。
さらに、センサー技術などIT技術の発展、様々な分野でIoT化の推進、判断能力などのAI機能を駆使したロボット化が進み、労働力不足の解消を行政と企業が連携して取り組まれています。
このように、様々なテクノロジーにより人々の生活の利便性が向上している一方で、今まで同じ仕事をしていた人間の仕事が消滅する可能性があるのをご存じでしょうか。
英国のオックスフォード大学で人工知能などの研究を行っている、マイケル・A・オズボーン准教授は、「人間が行う仕事の約半分は、機械に奪われる」と衝撃的な論文(「THE FUTURE OF EMPLOYMENT(雇用の未来)」)を発表し、具体的に38の業種を挙げています。そのなかでも機械が仕事を奪う可能性の高い仕事上位10業種をお伝えします。
1位 | 小売店販売員 |
2位 | 会計士 |
3位 | 一般事務員 |
4位 | セールスマン |
5位 | 一般秘書 |
6位 | 飲食カウンター接客業 |
7位 | 商品レジ打ち係や切符販売員 |
8位 | 箱詰めや積み下ろしのための作業員 |
9位 | 帳簿係など金融取引記録保全員 |
10位 | 大型トラックやローリー車の運転手 |
日本ではすでにセルフレジが普及し、自動運転技術が開発されているので、これらの業種で働く人間はいなくなるというのは現実を帯びてきています。
もちろん、実際に例えば介護現場にテクノロジーを導入してみたはいいものの、しっかり機能させるためには人間が解消しなくてはいけない課題なども複数出てきた、というケースも実際にありますので、上記の仕事も完全に人間の手を離れるということは考えづらいでしょう。
しかし、その可能性もあるということを踏まえて、自身のキャリアを考えることは重要だといえるでしょう。
テクノロジーに代替されづらい職業は?
ちなみに、上記のランキングとは別に、テクノロジーに代替されづらいとされる職業として、人間の心や精神活動に深く関係する分野の職業をあげています。主なものとして、
- ソーシャルワーカー
- 外科医
- 内科医
- 看護師
- 小学校教員
など11職種です。
(8)2040年問題に関して、外国人受け入れの観点での対策
2040年問題の労働力不足への対策として、さきに挙げたロボットの活用がありますが、もう1つ、外国人労働者の受け入れがあります。
すでに、介護施設やファストフード、コンビニエンスストアでは外国人労働者が活用されております。さらに活用を拡大していくために国では外国人労働者の受け入れを制限している入国管理法を改正し、新たな「在留資格」を作りました。
新たな「在留資格」とは、介護や建設、農業分野など特定の業種において、日本語で日常会話ができ、一定の技能を満たしていれば、最長で5年間、滞在しながら働けるというものです。
これにより2025年までに50万人の外国人労働者の受け入れを見込んでいます。
外国人受け入れの際の注意点
しかし、注意しなければいけない点が3つあります。
1つは、外国人労働者を雇用する側の注意点として、「手軽で、安い労働力」と考えるのではなく、賃金や福利厚生など日本人と格差をつけないことです。
むしろ、日本語や日本の風習などを教える、住まいを提供するなど多くの配慮が必要です。
2つ目は、サービスを提供してもらう側、つまりお客の注意点です。外国人スタッフに日本人スタッフの同じサービスを求めるのではなく、言葉や文化の違いを理解し、寛容な気持ちで接する必要があります。もう「お客様は神様」という時代ではないのです。
3つ目は、外国人労働者の受け入れに際する手続きに注意する必要があるという点です。
例えば、外国人労働者の受け入れに際して、受け入れ先が複雑な手続きを少しでも間違えてしまうと、「不法就労者を雇用している」とみなされてしまう可能性があります。
このように、外国人労働者の受け入れにはこの他にもいくつかのリスクもあるので、それらを踏まえたうえでの検討が必要でしょう。
(9)2040年問題に関して、医療・介護の分野で考えられる対策
2040年にかけて、一都三県を中心に高齢者が増加し、介護や医療のニーズが高まることが予想されます。自治体は介護関係者や医療関係者と力を合わせ、3つの対策を行います。
介護保険法の改正
厚生労働省は、平成26年に介護保険サービスに関する法律(「介護保険法」)を改正し、これまで全国一律だった介護保険サービスを、地域の特性に合わせたサービス内容に変更した「新しい総合事業」を開始しました。
これは、介護する側のスタッフをこれまでの専門職や介護の有資格者だけでなく、地域で活躍している元気な高齢者や、ボランティアや民間企業なども活用し、地域で地域を支えあう仕組みづくりです。
支える医療への転換
医療については、病院の入院ベッド数や医療スタッフの絶対的不足から、在宅で生活を続け最期も自宅で迎えるために在宅医療行う医師や訪問看護師、介護スタッフが連携をし「治す医療「から」支える医療への転換を図ります。
連携の範囲も、一つの自治体だけでなく、隣接する自治体と「エリア」という単位で連携を行い、増加する高齢者の医療ニーズをカバーしていきます。
地域で支える認知症サポーターに関する記事があります。併せてお読みください。
自動化への取り組み
3つ目、介護現場や医療現場は、最新のIT技術やAI機能を駆使したロボット化、自動化の導入が促進されるなどの取り組みも行っています。
2040年問題で浮き彫りになった様々な課題は、地域の互助という原点回帰と、機械化という新しい産業の融合ができるかがキーポイントとなります。
介護×IoTの活用事例や、課題に関して詳しく述べた記事があります。詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。
(10)2040年問題を自分事とし、できることから備えていこう
「2040年問題なんて、まだまだ先の話だから…」と他人事のように考えていると、あっという間に時間が経ってしまいますし、歳をとるとともに新しいことに対する行動が億劫になってしまいます。
今後、2040年問題を受けて、生活環境やサービス形態の進化は現状と比べても大きく変化していくことでしょう。
さらに、2040年問題2050年にも、様々な課題に直面するといわれています。
「2040年問題なんて自分は関係ない」、「20年も先のこと」と考えずに、自分のために今やれることからはじめていきましょう。