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(1)高齢者による交通事故は増えているか?
近年、歳を重ねることで判断能力が衰え、ちょっとしたミスから事故につながるケースが増えています。そのため、高齢者が自動車の運転免許を保持し続けることに反対する意見を持つ人が出てきました。
しかし同時に、高齢者だからこそ自動車が必要だという意見も少なくありません。
では、その議論の前提となっている、「高齢者による交通事故の増加」は、実際に起こっているのでしょうか?
高齢者による運転で発生した死亡事故の件数は大きく変化はありません。しかし、高齢者による事故の割合を見ると、全体的に高齢者による交通事故が増えてきていることがデータからわかります。
全人口に対して高齢者の割合が高いことにより、高齢者の事故件数が増えてしまうのは当然とも考えられますが、こうしたデータから、高齢の家族が車を運転するのを心配している方も多いのではないでしょうか。
(2)高齢者による交通事故の原因
では、高齢者による交通事故はどうして発生してしまうのでしょうか?高齢者による交通事故の原因を見てみましょう。
高齢者の交通事故の原因として考えられるのは、以下のように大きく3つの原因に分けることができます。
運転操作不適
高齢者の交通事故に多いのが、運転操作不適です。これは、いわゆるアクセルとブレーキを踏み間違えるなどの運転操作のミスによる交通事故です。ハンドル操作を誤って車線を逸脱して衝突する事故などがあります。高齢になることで若い年齢の人よりも認知機能が低下していくため、高齢者の運転事故に多い原因になります。
漫然運転
高齢者に限ったことではありませんが、「~しないだろう」「きっと~しても大丈夫だろう」という過信してしまうことで発生します。自動車や歩行者を発見したのに、気にせずに漫然と運転することで発生する交通事故も少なくありません。
安全不確認
自分の運転を過信してしまうあまり、信号や歩行者の存在をしっかりと確認せずに運転することで発生します。高齢者には、このような「今まで運転してきた自信」があり、それが事故を引き起こすことも多いのです。
(3)認知症のおそれと免許の更新
特に運転に関しては、高齢者が自分自身に言い聞かせてしまいがちな「自分はまだ大丈夫」という考えが、過信にすぎないこともあります。
実際に、日本では高齢者ドライバーによる死亡事故が増えています。中には、まだ幼い子どもが高齢者の運転の被害者となるケースもあります。
高齢者自身だけではなく、周りの人もその運転技術の衰えに気づくことは難しいです。免許の更新には、判断力・記憶力の検査が義務づけられています。
しかし、そこで問題ないという結論に至ったドライバーが事故を起こしてしまうケースもありました。免許の際の判断力・記憶力の検査をクリアすれば、自分はまだ大丈夫だと思ってしまうかもしれませんが、検査の結果だけがすべてではありません。
2017年に死亡事故を起こした高齢者ドライバーの数は、385人でした。その中の40%が「認知機能低下のおそれ」があるとされていました。
高齢者の認知機能のレベルには、「認知機能低下のおそれ」とは別に「認知症のおそれ」というレベルもあります。
運転免許の更新の際、「認知症のおそれ」がある場合は医師による診断が必要になります。また、「認知症」と診断された場合は免許更新はできず免許取り消しになります。
しかし、「認知機能低下のおそれ」の場合は、運転免許の更新の際に医師による診断が必要ありません。前述の判断力・記憶力の検査をクリアすれば、認知機能低下のおそれがあっても運転ができるのです。高齢者ドライバーのほとんどが「認知機能低下のおそれ」があると言われています。
(4)脳の機能には個人差がある
高齢者も若い年齢の人も脳の機能には個人差があります。
運転中の交通事故の原因と考えられているのは年齢ではなく、脳の個人差なのです。脳の個人差によって自動車の運転にも差があります。
安全運転に必要とされるのは、「認知・判断・予測・操作・行動」の5つで、これらを連続して行うことができて、注意機能が正常であれば事故に至ることはないと考えられています。これらの機能を低下させる原因が「白質病変」です。
「白質病変(矢頭)」とは、中高年者から加齢とともに増大していきます。白質病変(矢頭)は脳をレントゲンで撮影すると白く映ります。白質内の微細血管の髄質動脈が消失することで生じる細胞外間隙が白く映るためです。
白質病変の進行は、加齢以外にも生活習慣病やメタボ・喫煙といった不摂生によって進行します。つまり、若い人でも生活習慣によっては発生する可能性があります。
交通事故は、年齢ではなく脳の状態によって発生することが近年ではわかってきているため、年齢だけで判断ができないのです。
(5)増加する自主返納
2017年の1年間で、運転免許の自主返納が過去最多になりました。75歳以上の高齢者による自主返納は、約42万2033件あり、7万6720件の2016年と比較してもかなりの人数が免許証を自主返納しています。
運転免許証の自主返納は、高齢者による判断の場合や、家族に勧められて…という方も少なくないようです。先ほどもあったように、脳の個人差が大きく関係しているため、年齢によって交通事故を起こすというわけではありません。
運転免許証は、本人確認証明が可能な書類でした。その目的で手放すことができない高齢者に向けて、警察では運転経歴証明書の交付を2002年から行っています。運転免許証同様に、身分証明書として利用できるだけではなく交通機関利用料割引サービスを受けることが可能です。
このようなサービスを提供することで、高齢者の運転免許証返納を促しています。
(6)高齢者が免許を自主返納できない・したがらない理由
増える自主返納ですが、自主返納することができない高齢者も少なくありません。高齢者側の理由には、どのようなものがあるのでしょうか?
買い物に行くために車を運転している方や、病院に通うためには車が必須な方など、その理由はさまざまです。しかし、共通しているのは、高齢者の生活必需品となっている点です。
皆さんが、街から離れた田舎に住んでいて、病院まで徒歩では1時間かかるとしたら…どうでしょうか?バスに乗ればいいですが、バスが1時間に1本しか来ない場所も珍しくありません。東京であれば、電車やバスでどこにでも行けますが、地方はそうはいかないのです。そのような場合に、やはり車があるのとないのとでは、まったく違います。
また、活動範囲が狭くなってしまうことによってもQOLが低下することも心配されています。QOL(Quality Of Life)とは、生活の質を現す言葉です。生活の質が低下することは、寿命や健康にもあまり良い影響を与えません。
しかし、免許証が無くても生活に大きな問題が出ない高齢者にとっては、免許証返納することでさらに、健康寿命を延ばすこともできます。
(7)高齢者が健康寿命を延ばすために必要な「歩く」トレーニング
高齢者の健康の大敵「認知症」「骨粗しょう症」を予防するためには歩くことが効果的と言われています。
もちろん、体力の限界まで歩けばいいというわけではありません。自分の体力を考えて、毎日適度に気持ちいい汗をかきましょう。骨粗しょう症は、年齢で発症するわけではありません。しかし、高齢者の骨粗しょう症は骨自体が弱くなってしまうことで、骨折や寝たきりになってしまう可能性もあります。
日本骨粗鬆症学会によると、骨粗しょう症の対策としてビタミンDやカルシウムといった骨を強くするための栄養素をバランスよく摂取して、適度な運動をすることがおすすめです。
(8)高齢者が健康寿命を延ばすためには「人と話す」ことも重要
人と話すことは、脳に適度な刺激を与え、認知症予防の効果があると言われています。認知症は、脳を使わないと進行してしまうため、クイズやパズルなど、脳を使うことで予防しましょう。
認知症予防に手軽にできて高い効果が期待できるのが「人と話すこと」です。人と話すことで、楽しいという気持ちや、話題について考えることで脳も働きます。
そのような適度な働きをすることで脳にいい刺激を与えて認知症を予防しましょう。
(9)家族による危険判断も大事
高齢者が、自分で運転免許証の返納をするのが、もっともベストですがそううまくはいきません。そこで、高齢者の家族によって判断してあげましょう。
高齢者に、そろそろ免許証の返納をしたらいいのではないか、と説得してあげましょう。それによって気分を害されてしまう高齢者もいますが、その場合には「テレビのニュースで見た事故の話をする」、「高齢者による運転が危ない理由を話す」などと運転することによる危険度を強調して伝えるのが気分を害さず返納を促す効果的な方法でしょう。
また、免許証を返納した後の交通手段のことも提案すると、納得しやすくなります。例えば、免許を返納してからは、家族で送迎することや、公共交通機関の利用を提案してあげましょう。何よりも、高齢者本人に長生きしてもらうことが理由であることを伝えてあげてください。
(10)高齢者による交通事故を減らそう
交通事故の危険性があることをを自覚させることが高齢者による交通事故を減らす第一歩となります。また、高齢者による交通事故を減らすためには家族による危機管理も重要です。
高齢者の交通事故の割合が増加しているので、これを機に自分の親や祖父母と免許返済のタイミングを話し合ってみましょう。