(1)救急車の搬送料金は無料
日本の救急システムにおいては、急な病気になったり、ケガをした際に緊急を要する場合、電話一本で、救急訓練された救急隊員がかけつけ、救急車にて迅速に病院へ搬送してもらうことができます。
当然ですが、国の公共サービスでもある救急車は、これまで、数多くの傷病者の命を救ってきました。重症・軽症にかかわらず、病院への距離や、国籍、収入の有無等関係なく、誰もが利用できます。料金に関しても、搬送料金は税金で賄われているため、無料です。(2019年2月現在)
(2)救急車の搬送料金が無料である理由
救急車の搬送料金が無料である理由を以下解説します。
日本では救急車両での搬送が税金によって行われるから
救急車の搬送は、行政サービスの一環であり、その費用は税金で賄われています。救急隊の人件費や救急車のガソリン代、メンテナンス代、救急車内に設置されている医療機器や物品の費用は、すべて各自治体の税金が使わているので、無料で利用できるのです。
また、有料にすることで、緊急性の高くないケースにおいて、「お金を払っているのだからよいだろう」といった具合に救急車の不適切な利用が正当化されることを懸念して有償化をしていない、ということも理由として挙げられます。
(3)救急搬送され、治療を受ける際にかかる費用
救急搬送の後に、発生する料金について以下説明します。
救急費用は無料だが、治療費は有料
意外と知られていない、救急車の料金に関する事実なのですが、救急車による搬送料金自体は無料である一方、病院についてからの医療費は別に請求されます。
さらに、救急車の中には医師が同乗し、救急現場に到着次第、医師による医療行為が可能なドクターカーがありますが、そのドクターカー内での医師による医療行為(※)に対する医療費も、利用者への請求対象です。(※ただし、救急隊による気道確保、胸骨圧迫等の処置は、行政サービスの一環のなので、料金は請求はされません。)
時間によっては、料金が加算される場合も
病院についてからも、診察時間外であれば時間外加算、夜間や早朝であれば深夜加算、休日であれば休日加算、緊急入院が必要で重症な場合であれば救急加算といった具合に、救急車を呼ぶ時間帯や症状の重さにより、追加で料金を徴収されることもあるので注意が必要です。
また病院によっては、緊急の受信の必要がないにも関わらず、自己都合で時間外受診した場合に特別加算等定期受診よりも割り増しで料金請求されることがあります。
(4)救急車の搬送料金の有料化が検討されている理由
近年、日本国内において、救急車の有償化を進める動きが加速しています。実際、2015年5月に、財務省より、年間で2兆円にのぼる消防関連費の抑制を図る目的で、救急車を利用し軽症だった患者に料金負担をもとめる具体策を提案されました。
救急車サービスを利用する人が増加したため、負担が増したから
この背景としては、救急車のサービスへの負担が年々重くなっていることが挙げられます。消防庁によると、救急車の出動件数は平成29年中634万2096件、搬送人員は573万5915人(平成30年3月)にも及ぶそうです。これらの数値は、救急出動件数、搬送人員ともに過去最多を記録しています。
この数値1回1回につき4万5000円がかかるうえ、さらに全国で5秒に1回出動している計算になります。そんな数値が、ここ8年間毎年過去最高値を更新し続けている現状です。
(参考:総務省ホームページhttp://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01shoubo01_02000027.html)
軽傷・軽度の疾患・移動目的での利用を抑制するため
また、救急緊急にて搬送された人の、49.4%(平成29年消防白書より)が入院の必要のない軽症患者です。最近では、軽い症状の場合でも救急車を呼んだり、タクシー代わりに呼んだりすることが問題となっています。そのせいで、救急車が現場へ到着する時間も毎年延長してきています。平成18年には6.6分でしたが、平成28年は8.5分となってきています。相次いで軽症の方が救急車を呼んでしまうと、本当に救急車を必要とする方のもとへの到着時間が長くなり、処置や治療が遅れたり、最悪、間に合わず命を落とされることもあります。
こういった背景があるため、適正に救急車を利用できるよう一部有料化が提案されることとなりました。
(5)救急車の搬送料金の有料化のメリット
救急車を有料化することで、以下のようなメリットが、「病院・消防署側」、「救急車を呼ぶ側」の双方にもたらされることが考えられます。
救急車が向かう速さ・確実性が上がる
安易に救急車を呼ぶ人が減る可能性があります。それによって軽症による救急搬送が減り、本当に救急車が必要な傷病者をだけが利用できるようになると考えられます。
そうすることで、救急車の利用効率があがり、今までより早く、より確実に緊急度の高い患者のもとに迎えるようになるのです。
サービス維持費の負担が減る
救急車の呼び出しが有料化することで、膨大な消防関係費の抑制ができる可能性があります。有料化によって、救急車が出動した分の収入が見込め、また安易に救急車を呼ぶ人が減ると出動回数が減るため、節税できる可能性があります。また、その分を救急車の設備投資に投資できれば、より迅速に、より多くの人命を救助できるようになる可能性もあります。
労働負担の軽減につながる
人員不足の中勤務している救急スタッフや救急隊員の労働負担が軽減できる可能性があります。本当に救急車が必要な傷病者の対応に当たることができます。
(6)救急車の搬送料金の有料化のデメリット
救急車の搬送料金有料化によりもたらされる可能性のある弊害を図示すると、以下のようになります。
金銭的に余裕のない人が、救急車のコールを躊躇う可能性がある
金銭的に余裕のない人は、料金がかかる救急車を呼ぶことを躊躇う可能性がでてきます。それによって症状が重症化してから病院にかかるため、身体的な負担や医療費負担が増大することも考えられます。状態が悪化してからでは、治療が間に合わず、命を落とすことも考えられます。
たとえば、「救急車は料金がかかるし、このくらいなら大丈夫だろう」と、軽症と自己判断したため、受診せず重症な傷病者の発見が遅れる可能性があります。症状に関する一般人の判断はあまり正確ではないため、重症かどうか見分けることは困難と考えられます。そのため、治療や処置が遅れてしまう、または間に合わない恐れがあります。
逆に金銭的に余裕がある人にとって、救急車のコールへのハードルがさらに低くなる可能性がある
先述した通り、救急車の利用を有償化することで利用の頻度が下がるか否か、というのは疑問の余地が残っています。たとえば、金銭的に余裕のある人は、軽症でも救急車を呼んでしまう可能性があります。「料金を払うのだから、救急車をいつでも利用できるのは当然」という考えをもつ人が多数現れてしまっては、有料化しても「救急サービスにかかる重い負担」という問題は解決しません。
(7)救急車を呼ぶかどうか相談できる電話番号
急な病気やケガをした時に、救急車を呼ぶべきか、どこの病院に行ったらいいのか、どう対応、処置したらいいのかなど、迷うことがあると思います。その時は、住んでいる都道府県や市町村に救急相談窓口があります。
例えば次のような電話相談窓口があります。
救急安心センター事業
☎#7119 (原則24時間365日体制) |
平成29年4月時点で7地域で実施、全国への普及を推進中です。医師・看護師・相談員が相談に対応し、症状を把握、助言をしてくれます。緊急性があった場合、救急車を出動させる体制を構築されています。
▼#7119ついてはこちらの記事で詳しく解説しています。併せてご覧ください。
こども医療電話相談
☎#8000 |
保護者の方が、休日・夜間のこどもの体調急変に、どのように対応したら良いのかなど判断に迷った時に、小児科医師・看護師に電話で相談できるものです。
全国版救急受診アプリ(愛称「Q助」)
年代や症状を選ぶことで、電話をする前に、患者の緊急度がどれくらい高いかを判定することで、救急車を呼ぶか否かを判断する基準となります。
また、医療機関の検索や受診手段の検索を行うこともできます。スマートフォン版とWebサイトがあります。
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android版『Q助』はこちら (外部サイトへ) |
iPhone版『Q助』はこちら (外部サイトへ) |
(8)救急車の以外の搬送手段
救急車を呼ぶほどではないが病院に行きたい時は、自家用車またはタクシーが身近です。しかし、運転できる人がいない、車がない・車いすがのせられない・車までも移動できないなどのケースにおいては、
- 民間救急
- 介護タクシー・福祉タクシー
などを利用する方法があります。
民間救急とは
民間救急は、緊急性のない場合に搬送を行う民間の患者搬送事業サービスです。車両には、ストレッチャーや酸素等の医療機器も備えています。サイレンや赤色灯は、法律上装備できないので、緊急走行はできません。
介護タクシー・福祉タクシーとは
介護タクシーや福祉タクシーは、車いすのまま乗車できるリフト付き車両があったり、運転手や乗務員が介護資格を保有している場合は、移動や移乗の介助が可能です。
さらに、介護タクシーの場合、介護保険を利用できることもあります。
▼介護タクシーについてはこちらの記事で詳しく解説しています。併せてご覧ください。
(9)アメリカや欧州各国など海外で救急車を呼ぶ際の料金
海外では、日本と異なり、救急車を要請し搬送すると有料の国が多いです。
例えば先進国の例で行くと、
- カナダ
- フランス
- ドイツ
- 中国
- フランス
- オーストラリア
など、地域によって料金の差や条件等はありますが、救急車搬送の料金が請求されます。
例えば、アメリカは州ごとに救急車の料金は違いますが、ニューヨークでは約3~5万円ほど請求されます。移動距離に応じて、料金が加算されていくこともあります。
上記の国とは逆に、
- イタリア
- イギリス
- スウェーデン
は、日本と同様に無料で救急車を呼ぶことができます。
いつでも、だれでも、どんな状況でも救急車が無料で利用できる日本の救急車搬送は、世界的にみてもかなりレアなケースであるといえるでしょう。
(10)料金が無料だからとむやみに呼ぶのではなく、本当に救急車を呼ぶ必要があるのか考えるようにしよう
急な病気やケガに遭遇した時には、誰もが不安になります。しかし、実際に救急車を呼ぶ前にはよく状況を見直す必要があります。それでも迷った時は、救急車を呼ぶべきか否か相談できる窓口もあります。
消防庁のパンフレットにあるように「救急車や救急医療は限られた資源」です。本当に救急車が必要な傷病者を無料で搬送できる救急システムを維持するためには、救急車を呼ぶ側である我々個人1人1人が節度のある利用を心がけることが重要です。
▼救急車を呼ぶか否かの正しい判断を素早くするためのポイントはこちら