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(1)農業者年金とは
農業者年金をご存じでしょうか。農業従事者以外の方には、あまり耳馴染みのない制度かも知れません。
農業従事者は基本的に自営業者なので、会社員が加入している厚生年金には加入できません。年金制度で1階部分と言われている国民年金だけでは、決して将来の年金額は大きくなりません。
それを補う制度として、2階部分を構成する農業者年金が存在しています。
特定の産業従事者に対する年金であり、他の年金には見られない珍しい制度も設けられています。
保険料の国庫補助を受けられる人がいる場合、後継者への経営継承に基づいて特例付加年金が支給されます。農業者年金は農業経営を次世代に継承し、農業従事者でなくなったときに支給されるものになります。
(2)農業者年金の支給タイミングおよび支給額
農業者年金の支給開始タイミング
農業者年金は、いつから支給開始となるのでしょうか。
このタイミングについては、消滅した旧制度と、平成14年(2002年)に発足した新制度とがありますので少々複雑です。さらに、この農業者年金に関する給付には、以下の
- 農業者老齢年金
- 特例付加年金
という2種類の年金給付があります。
農業者老齢年金について
まず、農業者老齢年金はすべての加入者が対象になります。かつての旧制度のように、年齢以外の要件はありません。65歳になれば受給できますので、老齢年金をもらいながら引き続き農業に従事しても構いません。
年金裁定請求書の窓口は、JAです。2階建て部分といっても、厚生年金のように国民年金と一体で運営されているわけではないので、国民年金の受給申請手続(年金事務所または市区町村)とは別個におこないます。
国民年金の2階建て部分として、農業者年金の保険料を支払っていた人に対して農業者老齢年金が支給されます。65歳を待たずに繰上げ受給もできますが、年金支給額は低くなります。
また、65歳前に農業の経営を継承すると特例付加年金と農業者老齢年金とそれぞれの繰上げ請求が可能となっています。ただし特例付加年金と常にワンセットではなく、65歳以上で農業の経営を継承する場合は、先に65歳から、農業者老齢年金の支給が始まります。
特例付加年金について
次に特例付加年金です。農業者年金の特色である、保険料の国庫補助を受けた人が対象です。国庫による保険料補助と運用収入分について支給される年金です。
こちらについては、原則65歳に達していて、農業経営を継承したこと、という二つの要件を満たす必要があります。65歳到達の前に経営継承した際には、老齢年金と合わせて繰上げ受給が可能です。こちらの年金の窓口は農業委員会となっています。
農業者年金の支給額
次に、年金額をどのくらいもらえるかですが、これは確定していません。農業者年金基金が運用をおこなっているからです。ですが積立方式なので、保険料に運用益(3~3.5%)を加算したものが、年金として還元されることになります。ただし運用が失敗しても、元本(払い込んだ年金保険料)分は保証されていますので安心です。
この点、運用によって年金が支払われる確定拠出年金よりも有利となっています。年金はどちらの種類も、終身で受けられます。
農業者年金の支給月
農業者年金の支給月は国民年金と異なっていて、
- 2月
- 5月
- 8月
- 11月
の年4回です。年額12万円未満の場合は、年1月です。
(3)農業者年金の特徴
農業者年金には、以下のように年金として税制面で優遇があることが特徴として挙げられます。
非課税の死亡一時金が支払われる
農業者年金は、80歳到達までの年金が保証されています。80歳到達前に亡くなったとしても、遺族に対し80歳までの年金相当額の死亡一時金が支払われます。しかも死亡一時金は非課税です。
保険料が全額社会保険料控除の対象
税制面の優遇は他にもあります。保険料は全額、社会保険料控除の対象です。保険料の支払の分所得が下がりますので、所得税も減るわけです。
運用益が非課税
また、農業者年金は運用益を上げて年金を確保するわけですが、運用益も非課税です。
(4)農業者年金の加入条件
農業者年金に加入できる人は、以下4つの条件を満たす人です。
- 年間60日以上農業に従事すること
- 国民年金基金等の、他の年金制度に加入していないこと(※)
- 国民年金の第1号被保険者であること
- 20歳以上60歳未満であること
(※国民年金の第1号被保険者の要件は、自営業者であればおおむね該当するはずです。兼業農家でも入れますが、厚生年金に加入していると1号被保険者に該当しませんので対象外です。加えて、国民年金の保険料納付免除者(経済的困窮者など)は対象外です。)
(5)保険料が税金によって補助される
農業者年金の最大の特長がといえるのが、保険料の補助があることです。最低2万円の保険料の支払いが困難な際に、最大半額の国庫補助が受けられるのです。特例保険料といいます。
補助を受けるためにはいくつか条件があり、補助の割合も計4種類あります。
農業経営の計画書を、市区町村に提出して認定を受けている認定農業者ですとこの条件をほぼ一つは満たします。さらに青色申告者であるなら、確実に国庫補助が受けられます。
このケースでは、35歳未満の場合は補助額1万円、35歳以上の場合は補助額6,000円です。他の要件は、39歳までに加入することと、農業所得が900万以下であることなどです。
(6)農業者年金の保険料
農業者年金は、同じ2階部分に該当する厚生年金のように、保険料が自動で決まる制度ではありません。国民年金基金などと同じく、自分で保険料を決めます。
保険料が高ければ、当然受給できる年金額も高くなります。最低額は2万円で、千円刻みで増やせます。最大額は67,000円です。
千円単位で決められるという、大変自由度の高い保険料設定となっています。そして、いつでも見直しできます。さらに、保険料が割引となる一括納付制度もあるなど、納付方法からみてもその柔軟性がうかがえます。
ちなみに、保険料の引落しはJA貯金を経由して行われます。
(7)旧制度との違い
付加方式から積み立て方式へ
農業者年金の旧制度は、農業従事者の減少により破綻してしまいました。これは、賦課方式を採用していたためです。
賦課方式とは世代間扶養の仕組みなので、若い層の保険料のプールが尽きると、高齢者層への年金が支払えなくなる仕組みでした。旧制度の下での年金支給は、全額国庫から捻出され、続いています。
現在の農業者年金は、積立方式ですので、自分自身の保険料が年金のベースとなります。この点において、破綻の心配はありません。
(8)農業者年金加入までの流れ
農業者年金に加入するにあたっての流れを見ていきましょう。まず、パンフレットを農業者年金基金に請求します。公式サイトから請求できます。
加入を決めた場合、まずはJAか農業委員会に申込書を提出する必要があります。
保険料の振替口座番号(JA貯金)と基礎年金番号が必要です。国民年金のほうについても手続きをします。付加保険料の納付手続です。この後、被保険者証と、被保険者のしおりが郵送されてきて完了です。
(9)農業者年金加入のメリット・デメリット
農業従事者の、2階建て部分の年金は農業者年金だけではありません。他に、農業従事者のための国民年金基金もあります。これと比較してみましょう。
国民年金基金のメリットであり、デメリットにもなるのは、給付額が確定していることです。農業者年金の場合は、運用によって年金給付額が増えることがあります。
ただし、元本だけのリターンとなる場合もあります。これをどう考えるかです。ごく一般的にいうなら、低金利が続くのであれば、運用益の可能性がある農業者年金のほうが得をする可能性は高いのではないでしょうか。
(10)農業に従事している人は農業者年金の加入を考えてみよう
将来については誰でも不安を持つものですが、安全で確実に年金の受けられる農業者年金の概要を見てきました。様々なメリットのあるこの農業者年金は、保険料の国庫補助の制度もあるなど、国として農業という分野に注力していることがうかがえる制度の一つであるともいえます。
農業従事者であればぜひ、農業者年金への加入を検討してみましょう。