(1)後期高齢者の高額療養費とは
75歳以上の高齢者の医療費を抑えることができる制度
医療費に関する制度の一つとして、75歳以上のいわゆる後期高齢者が加入する後期高齢者医療制度というものがあります。
後期高齢者医療制度の窓口での自己負担割合は、原則として1割です(現役並みの所得がある場合は3割)。
しかしながら、病院などで頻繁に医療を受けた場合や、大きな手術をした場合は、自己負担割合が1割とはいえ、かかる医療費が高額になり、生活に支障をきたすことがあります。
そこで利用したいのが、高額療養費制度です。
後期高齢者医療制度に加入している被保険者の医療費が高額になったとき、自己負担限度額を超えた分が被保険者に払い戻される仕組みです。この高額療養費制度を使って、自己負担を減らす工夫をしましょう。
限度額適用認定証について
また、この高額療養費制度によってお金は払い戻されるものの、一時的に減るお金も減らしたいという場合には、一定の条件を満たすことで限度額適用認定証を利用することができます。
(2)自己負担の限度額
後期高齢者医療制度の運営者は、各市町村が加入する都道府県後期高齢者医療広域連合です。
東京都後期高齢者医療広域連合のホームページによると、高額療養費に関する自己負担の限度額は次のように示されています。
所得区分 | 外来+入院(世帯ごと) |
---|---|
【現役並み所得Ⅲ】 課税所得690万円以上 |
252,600円+(10割分の医療費-842,000円)×1% 〈多数回140,100円〉 |
【現役並み所得Ⅱ】 課税所得380万円以上 |
167,400円+(10割分の医療費-558,000円)×1% 〈多数回93,000円〉 |
【現役並み所得Ⅰ】 課税所得145万円以上 |
80,100円+(10割分の医療費-267,000円)×1% 〈多数回44,400円〉 |
平成30年8月診療からの1か月の自己負担限度額(1割)
所得区分 |
外来(個人ごと) | 外来+入院(世帯ごと) |
---|---|---|
一般 |
18,000円 (年間上限144,000円) |
57,600円 〈多数回44,400円〉 |
住民税非課税等で 区分Ⅱ |
8,000円 | 24,600円 |
住民税非課税等で 区分Ⅰ |
8,000円 | 15,000円 |
(出典:東京いきいきネット「高額療養費」)
高額療養費の注意点
この制度の利用について、以下の点に注意が必要です。
- 申請できる期間は、原則として診療月の翌月1日から2年間
- 入院時の食事や保険の対象とならない差額ベッド代などは、この制度の対象とならないため、払い戻しを受けられない。
- 月の途中で75歳の誕生日を迎えた月(1日生まれの人を除く)の自己負担額は、それまで加入していた医療保険と、新たに加入した後期高齢者医療制度の両方の限度額がそれぞれ半額になる。
- 同保険制度を運営するのは、都道府県ごとに設立されている広域連合であるため、都道府県ごとに事務手続きなどが違う点があること。
(3)高額療養費の計算方法
東京都後期高齢者医療広域連合のホームページによると、東京都の広域連合は次の方法で被保険者の高額療養費を計算しています。
計算方法
1.個人ごとに外来の1か月分すべての自己負担額を合算し、「外来(個人ごと)」の限度額を差し引き、外来分の高額療養費を計算します。
2.同じ月に外来と入院の両方を受診している場合や、同じ世帯に被保険者が複数いる場合は、外来の自己負担額(限度額まで達している場合は限度額と同額)と入院の自己負額を世帯で合算し、「外来+入院(世帯ごと)」の限度額を差し引き、世帯での高額療養費を計算します。世帯に複数の被保険者がいる場合は、世帯員ごとの自己負担額に応じて高額療養費を按分します。
3.上記1+2を支給します。
<平成30年8月診療からの負担割合3割の方の高額療養費計算について>
1.同じ月に受診した外来、入院の自己負担額を世帯で合算し、「外来+入院(世帯ごと)」の限度額を差し引き、高額療養費を計算します。世帯に複数の被保険者がいる場合は、世帯員ごとの自己負担額に応じて高額療養費を按分します。
2.上記1を支給します。
上記は東京都後期高齢者医療広域連合が設定している高額療養費制度の計算方法です。詳しくはお住まいの都道府県広域連合のホームページなどをご覧ください。
(4)高額療養費支給手続きの方法
東京都後期高齢者医療広域連合のホームページによると、東京都の広域連合では、高額療養費の支給について次の方法で手続きを進めることができます。
高額療養費の計算は毎月行っており、事前の申請は不要です。
計算を行った結果、高額療養費の支給対象となった方には、診療月から最短で4か月後に広域連合から申請書をお送りします。お手元に届きましたら、申請書に記載してある提出先(東京都内の区市町村の後期高齢者医療制度担当窓口)にご提出ください。
なお、一度申請していただくと、振込先に指定された口座情報を登録しますので、次回以降は申請をされなくても診療月から最短で4か月後を目処に高額療養費をお振込みします。
高額療養費の手続きは広域連合ごとに異なる場合がありますので注意してください。
(5)75歳の誕生日を迎える月の場合
高額療養費は、保険者ごとに月単位で計算することになっています。
月の途中で75歳の誕生日を迎え、これまで加入していた医療保険を抜けて、後期高齢者医療保険の被保険者になった場合、自己負担額はどのようになるのでしょうか。
結論をいえば、両制度のいずれも本来額の2分の1の額が適用されます。
(6)後期高齢者医療制度のしくみ
後期高齢者医療制度とは、75歳以上の人と、65歳以74歳以下の人で、一定の障害があると認められた人を被保険者とする医療制度です。
制度化の狙い
後期高齢者医療制度は、次のことを狙いとして制度化されました。
- 現役世代と高齢者世代の負担を明確にする
- 保険者間の不公平感を解消する
安心して医療を受けることができるように、高齢者の医療費を、高齢者世代も現役世代も負担をし合い、社会全体で支え合うために創設されました。
75歳になるとこの制度に加入しなければならない
75歳以上の人はすべて後期高齢者医療制度の被保険者として、加入しなければなりません。誕生日から後期高齢者医療保険に切り替わります。被保険者証は前月下旬頃に簡易書留で郵送されます。
加入の手続き
都道府県ごとに設置されている広域連合によって手続き方法が若干異なりますが、原則として加入の手続きは不要です。
75歳の誕生日から自動的に被保険者となります。被保険者証は、誕生日の前月下旬頃に郵送で交付されます。
被保険者証の提示と、旧健康保険からの脱退
75歳の誕生日以降、医療機関などで診療を受ける場合は、必ず後期高齢者医療保険被保険者証を提示する必要があります。
ただし、74歳まで被用者保険などに加入していた場合は、これまで加入していた健康保険から抜ける手続きを取る必要があります。詳細は加入していた保険者へ問い合わせてください。
(7)後期高齢者医療制度の対象者
後期高齢者医療制度の対象は、75歳以上の人と、65歳以上74歳以下で、一定の障害がある人です。
65歳以上で一定の障害がある人
一定の障害がある65歳から74歳以下の人は、75歳になる前に後期高齢者医療制度に加入することができます。
一定の障害とは、以下の基準に該当する状態です。
【一定の障害がある人の条件】
- 国民年金証書(障害年金1・2級)
- 身体障害者手帳1~3級と4級の一部
- 精神障害者保健福祉手帳1・2級
- 東京都愛の手帳1・2度
- 国家公務員共済組合法等の法令による障害年金等に該当する者
(8)後期高齢者医療制度で受けられる給付
被保険者が病気やケガによって病院で診察を受けることや、現金の給付を受けることができます。基本的な給付内容は、他の医療保険(健康保険や国民健康保険)と変わりはありません。
次に、給付内容の代表的なものを記します。
療養の給付
病気やケガで病院にかかるとき、窓口で後期高齢者医療被保険者証を提示することで、医療費の一部を負担するだけで、診療を受けられます。
入院時食事療養費
被保険者が入院したとき、食費にかかる費用のうち、標準負担額を除いた額を広域連合が負担してくれます。
移送費
負傷、疾病などにより、移動が困難な患者が医師の指示により一時的、緊急的な必要性があって移送された場合に、移送費が支給されます。
ただし、広域連合が「緊急その他やむを得なかった」と認めた場合に限ります。
葬祭費
被保険者が亡くなったとき、その葬儀を行った人へ葬祭費が支給されます。
(9)支払い金額と支給金額に差がある場合
入院時の食事や保険の対象とならない差額ベッド代などは、この制度の対象とならないため、払い戻しを受けられなません。支払い金額と支給された金額に差が生じる場合は、医療機関の発行する領収明細書を確認するようにしましょう。
(10)自己負担額を超えたら申請書が届くのを待とう
前述のとおり、自己負担限度額を超えて支払いをした場合、のちに高額療養費として払い戻しがなされます。
対象となる人には、初めて該当する場合のみ、診療月の約4ヶ月後に広域連合から申請書が送られてきます。申請書に必要事項を記入して高額療養費の払い戻しを申請しましょう。