(1)高齢者が食にこだわる重要性
3大欲求
人は誰でも「食欲」、「睡眠欲求」、「性欲」の3大欲求を持っています。このうち「睡眠欲求」と「性欲」は加齢に伴い衰えていく人が多いのですが、「食欲」は高齢になっても持ち続けている欲求です。そもそも「食欲」は生きていくうえでとても重要な欲求でもあるので、「食べたい」という欲求を充たせてあげることが必要です。
QOLの維持
高齢になるとできないことが増えていくのはやむを得ないことですが、楽しみの一つである食事はできるだけ自分の口で食べたいと思っています。食事が思うようにできなくなると、生きていくうえで必要な栄養や意欲を失いQOLが下がってしまいます。
また、口の運動が減ることは口腔機能の低下や脳への刺激が減るため認知症のリスクが高くなってします。おいしいものや好物を“自分の口で”食べられるようにするために食事にこだわるのは、高齢者にとって意欲や満足感などQOLを維持していくために重要なのです。
認知症予防の効果もある
食事をとることは認知症予防にもつながります。健康的な食事をとることが大切です。栄養バランスが整っていたり、1日3食食べる健康的な食習慣を意識することで、認知症の予防にもつながり、長続きすることができます。
(2)介護食の種類は様々
介護が必要な高齢者向けの食事は、残っている歯の状況や飲み込む力の状況、体内の消化機能の状況によって、8種類の介護食があります。
ここでは、7種類の介護食について、それぞれ下記の項目について説明します。
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食事の特徴
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提供する対象者
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介護食の作り方
(3)介護食の種類|①刻み食
特徴
料理を細かく刻んで食べやすくした食事です。メリットは、噛む力が弱くなっても食べやすいこと、そして、食事の際の大事な料理の見た目、彩り、香りがあることです。
対象者
対象は、飲み込む力はあるものの、噛む力が弱くなっている人です。具体的には、歯が悪い人や歯が少ない人、病気の後遺症などで口が開きづらい人などに最適です。
ただし、唾液の量が少ない人や飲み込む力も衰え始めた人は誤飲の危険性があるので、刻み食からソフト食に変更することを検討したほうがいでしょう。
作り方
基本的には、食材が1㎝から2㎝程度であれば、5㎜以下に刻むと食べやすくなります。もちろん、歯の状態や口の開き方の状態によって刻み方は調整します。
刻んだ食材をそのまま食べると、口の中で食べた物がまとまりづらく、飲み込みにくくなります。食材によっては、片栗粉やとろみ剤を使って料理にとろみをつけて、飲み込みやすくする工夫が必要です。
(4)介護食の種類|②ペースト食
料理を一度ミキサーにかけてペースト状にしたものにし、食べやすいように加工した介護食です。
ペースト食には、ミキサー食、ソフト食、ムース食の3種類があり、高齢者の歯の状態や飲み込む力などに応じて使い分けます。それでは、ミキサー食、ソフト食、ムース食について、それぞれご説明します。
ペースト食|①ミキサー食
特徴
料理をミキサーにかけてペースト状にしたものです。このため、食べる際に噛む必要はなく、歯がなくても栄養が摂れます。また、消化しやすので胃腸に負担をかけないのも特徴です。
ただし、見栄えが悪いので食事を楽しむことは難しいという点と、水分量が増えるため摂取できる栄養が少なくなってしまうこと、水分のバランスによっては誤飲のリスクが高くなるというデメリットがあるので注意が必要です。
対象者
歯がない人や残されている歯が悪くて噛むことが難しい人、飲み込む力が弱い人に向いている介護食です。また、内臓の消化機能が低下して食べた物を消化するのが難しい人にも向いています。
作り方
柔らかい食材をミキサーやブレンダーにかけて原型が無くなるようにペースト状にします。ペースト状の加減は、ポタージュスープのようなとろみがあるのが飲み込みやすいので、必要に応じて片栗粉や増粘剤を加えて、とろみをつけましょう。
また、見栄えを良くするために、料理をまとめてミキサーにかけるのではなく、料理一品ごとにミキサー食を作って、料理ごとに分けて盛り付けしましょう。
ペースト食|②ソフト食(やわらか食)
特徴
ソフト食は、別名「やわらか食」や「軟菜食」とも呼ばれていて、口に入れた料理が歯茎や舌でもつぶせるくらい柔らかくした食事です。ソフト食も刻み食同様に、食べやすくするために手を加えただけなので、料理の形としては残っています。(ペースト食と分けて分類されることもあります。)
対象者
対象は、噛む力、口の中で食べた物をまとめる力、飲み込む力が弱くなった人で、具体的には次の項目に当てはまる人です。
- 食事中にむせたり、せき込んだりする
- 食べ物を飲み込んだ後に、口の中やのどに、食べ物が残っている感じがする
- 以前よりも食事の時間が長くなった
- 普段のよだれが増えた
- 食後に声がかすれる
作り方
食材は、柔らかいものを選びます。例えば、野菜は繊維が少ないもの、肉や魚は脂肪が多いものをえらびましょう。食材の切り方は、繊維と直角に切ります。こうすると加熱したときに柔らかい食感になります。また調理方法は、食材を蒸す、すりつぶしてつみれにする、煮込むなどの方法があります。
ペースト食|③ムース食
特徴
料理を細かく刻んだ後、とろみ剤など成形し、舌でつぶせる程度の固さの介護食です。料理としての見栄えがあるので、色彩があり料理の味もあります。また、食べやすいので誤飲防止のもなります。(ペースト食と分けて分類されることもあります。)
対象者
ふつう食を食べるのが難しく、噛んだり、飲み込む力が弱い人で、流動食にする必要がない人が対象です。
作り方
作り方は、料理をミキサーにかけて、コーンスターチや片栗粉などのとろみ剤などで固めます。ポイントは、水分にはとろみをつけること、固さはプリンくらいを目安にすることの2点です。
(5)介護食の種類|③嚥下食
特徴
噛む力や飲み込む力が低下した人でも食べられるように、とろみを加えたり、食材の形を変えて食べやすくした食事です。
対象者
対象は、歯がない、または歯が少なくてうまく噛めないなど噛む力や飲み込む力が低下した人です。また、口腔機能のリハビリを目的に嚥下訓練として使用する嚥下訓練食もあります。嚥下食は、食べられるレベルに応じて次の4種類に区分けされています。
レベル0:嚥下訓練食:重力でスムーズにのどを通過する食事:お茶ゼリー、りんごゼリーなど
レベル1:嚥下訓練食:粘膜にくっつきにくい食事:豆腐いり味噌汁ゼリー、具のない茶碗蒸しなど
レベル2:嚥下訓練食:レベル1よりも付着性の高い食事:絹ごし豆腐など
レベル3:嚥下食:水分にとろみがある食事:水ようかん、スクランブルエッグなど
作り方
嚥下食の作り方のポイントは4つです。
- 嚥下食は水分の比率が高いので、不足しがちな栄養素(タンパク質、カルシウム、食物繊維、ビタミン)を取り入れること。
- 種やすい食材を選ぶことです。例えば肉なら赤身よりも脂身のあるもの、魚であれば骨が少ない小魚などを選びましょう。逆に弾力性があるコンニャクや、口の中に付着しやすい海苔などは避けましょう。
- 調理方法です。固形の食材はミキサーにかけて、ゲル化剤などで固めます。また、果物などはコンポートにします。ごはんなどは粥にします。
- 見た目を工夫することです。ミキサーにかけた食材は、色彩や盛り付けなど見た目があまりよくありません。また嚥下食は水分が多いので味が薄く感じます。このため食欲をなくしてしまうことがあります。そこで嚥下食には食欲をそそるように、塩分を足したり、盛り付ける食器の色を明るくしたり、香りが出るように調味料を足すなどの工夫が必要です。
(6)介護食の種類|④流動食
特徴
主に柔らかく調理した料理を濾して作った食事です。流動食は水分が多いのが特徴で、食事と同時に水分補給もできます。流動食には、普通流動食、濃厚流動食、特殊流動食があり、用途によって使い分けます。
- 普通流動食:病院での術後や絶食後に食べます。
- 濃厚流動食:少量でも高エネルギー、バランスの取れた栄養素が摂取できるので、経管栄養に使われます。
- 特殊流動食:腎臓病患者など向けの低脂肪食、循環器疾患者向けのナトリウム制限食など特別な流動食です。
対象者
流動食の対象者は、次のとおりです。
- 成人の重体疾患者
- 消化器等の疾患者に治療用
- 固形の食事が食べられない人
- 嚥下障害で飲み込むことが出来ないひと
- 咀嚼障害で噛むことが出来ない人
- 病気で食欲が落ちた人
- 低栄養状態で食事の改善が必要な人
作り方
柔らかくなるまで煮込んだ料理を完全に濾します。流動食は「美味しくない」というイメージがあるので、卵や豆腐などを加えて、栄養のバランスや味、見た目にも気をつけましょう。家で作るのが大変という場合は、レトルトの流動食が売られているので、それを利用する方法もあります。
(7)介護食の種類|⑤とろみ食(ゼリー食)
特徴
噛む力や飲み込む力が弱く、嚥下障害がある人でも食べられるように、片栗粉やとろみ剤でとろみをつけたり、ゼラチンを使ってゼリー状にした食事です。とろみ食には3つの種類があります。
- 薄いとろみ:スプーンを傾けるだけで、スーッと落ちる程度のとろみ加減で、簡単に飲み込むことができます。
- 中間とろみ:スプーンを傾けたときに、トロトロと落ちる程度のとろみ加減で、口の中でまとめやすく、食事感が得られます。
- 濃いとろみ:スプーンを傾けても、落ちにくい程度のとろみで、飲み込むときに力が必要になります。
対象者
口内炎や扁桃炎など喉が腫れている人、舌ガンで嚥下が困難な人、運動障害を持つ人、脳卒中の後遺症で摂食嚥下障害を起こしている人など、うまく食べたり、飲み込んだりできない人です。
作り方
- 液状の食品をコップに入れて、とろみ剤を入れます。
- 泡だて器で、しっかり混ぜます。最低でも30秒以上はしっかり混ぜます。
- 混ぜた後、約2~3分すると、全体にとろみがついてきます。
- とろみの状態を確認して完成です。
(8)ユニバーサルデザインフードとは?
いろいろなタイプの介護食がありますが、最近では手軽に使えるレトルトタイプの介護食品のバリエーションも増え、在宅での介護負担の軽減に一役買っています。しかし、種類が増えることで介護経験が少ない人から、どれを買えばいいのか分かりづらいという声が増えました。
そこで、食品メーカーが中心となって設立した「日本介護食品協議会」が、商品の固さを4段階で示したUDF(Universal Design Food)を定め、商品に表示をしています。
- 容易に噛める
- 歯茎でつぶせる
- 舌でつぶせる
- かまなくてもよい
UDFの登録数は、平成27年時点で1,784品目となっています。
UDFの4段階を上記で示しましたが、それぞれの特徴の食品が存在します。以下の記事より、その食品を見ることができます。
UDFについて詳しく知りたい人はこちらをご覧ください。
日本介護食品協議会(https://www.udf.jp/statistics/registed.html)
(9)介護者の状態に合った介護食を選ぼう
洋服も、体の大きさや気候に合った生地、麻痺の状況など、その人、その時に合ったものを着ます。食事も同じです。口やのど、消化器系の状況によって介護食も変わってきます。その人の状況に応じて7種類を使い分けます。
・刻み食
・ペースト食(ミキサー食、ソフト食、ムース食)
・嚥下食
・流動食
・とろみ食
食事は、健康面だけでなく、QOLにも影響します。介護食の違いを知って、介護者の状態に合った介護食を選びましょう。