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(1)理念がサービスをつくる
まず合掌苑がケアを提供する上で大切にしていることを教えて下さい
神尾: 合掌苑では創業者の思いと理念を何よりも大切にしています。「自分が入りたいと思える施設をつくる」「お客様を最後までお世話する」「お客様に幸せになっていただく」。
この強い思いを胸に理念である「人は尊厳を持ち、権利として生きる」が掲げられ、合掌苑の採用や社内教育、評価制度は、「合掌苑に関わる全ての人を幸せにする」ためにあります。
例えば合掌苑では理念を職員に徹底するために「合掌苑フィロソフィー」という創業の理念や行動規範が書かれた手帳を全ての職員に配布しています。ただ手帳を配布するだけでなく、毎朝の朝礼で合掌苑フィロソフィーについて職員に質問し、職員が自分たちの言葉で理念とケアについて考え、発言する機会を作り、理念の浸透に取り組んでいます。
合掌苑の理念に心から共感していただける方を採用し、人材育成を行い、長く働ける環境を作っていく。これが合掌苑の基本的な考えです。
(2)チームケアでケアの品質を高める
そのようなケアを提供するために、職員の働きやすさを追求していると聞いています。特に長く働ける環境という点でどういう取り組みを行っていますか?
加藤: 介護は女性が多い業界です。そのため「いかに女性が働きやすい環境をつくるか?」が非常に重要なテーマになります。
合掌苑では女性が働きやすい施策の一つとして、施設内に託児所を開設しています。これは認可保育園の開園時間外 ー 日曜祝日と、平日だと16時以降に、小さなお子さんがいる職員が無料で使える託児施設です。
お子さんのお迎えも契約しているチャイルドシッターが代行するので、職員は保育園の時間を気にせずに働くことができ、仕事と子育ての両立に取り組んでいます。
加藤:次に休暇制度。まず看護休暇に関しては、法定休暇は5日ですが、合掌苑では10日間に増やし、全て有給で取得できます。
休暇の取り方も1日単位でなく、時間単位で取得できます。これはお子さんの発熱で保育園から呼び出しがあり、急遽退勤するときなどにも取得できるなど、柔軟な時間の使い方ができるように配慮しています。
他にもリフレッシュ休暇がありますが、これは年に2回、10日前後の休暇をとることを推奨していて、取得率は100%です。
年に2回、10日の長期休暇ですか?
神尾:ええ、もともと介護職員は心優しい方が多いので、休暇中でもお客様に気をかけて電話をかけてきていたんですよ。「●●さんの体調はお変わりないですか?」と。
これでは落ち着いて休めませんし、3年4年と続けていては燃え尽きてしまいます。 良いケアを提供するためには、長く働ける環境をつくることが必要です。
その一環として、年に2回、10日前後の連続休暇をとっていただき、オン・オフの切り替えをしっかり行える制度として導入しました。
お客様よりも職員の入れ替わりのほうが早い施設では、ケアの質を保てるとは思えません。
年に2回、10日も休暇をとって、シフトは回りますか?
神尾:そこはチームケアを徹底することで解決しました。 年に2回、10日も長期休みを取るとなると、その間の仕事は他の職員に引き継ぐ必要があります。
そのため個人に属人化したケアではなく、チームとしてお客様の状況を知り、ケアを提供していくことで、職員の急な休みや長期休暇にも対応できる組織づくりを行ってきました。
加藤:他の取り組みとして、夜勤専従スタッフを導入し、成果をあげています。子育て中の職員に夜勤は負担ですし、そうでなくても日勤と夜勤どちらも行うと生活のリズムが崩れてしまいます。
職員のワークライフバランスという視点から、夜勤だけを行う採用枠を作り、合掌苑では正職員が夜勤につくことはありません。
神尾:夜勤スタッフも月の半分 ー 14日稼働で33万円の給与という設定なので、応募は非常に多いですね。それに条件面だけでなく、負担軽減の工夫も行っています。
従来の夜勤だと、夕食介助から始まって、排泄・就寝介助を行い、ようやく夜勤業務に入ります。その後、起床介助、朝食介助を行い、朝の排泄介助を行って、夜勤終了となりますが、これでは夜勤スタッフの負担が大きいのでシフトを変えました。
合掌苑の夜勤は21時から朝7時のシフトで、夕食介助や朝食介助をなくし、夜勤業務に集中できるシフトにしています。
夜勤スタッフには50~60歳のベテランの方が多いので、負担なく働ける環境として、合掌苑流のシフトに変えました。
(3)シングルマザー支援に取り組む
最近シングルマザー用のシェアハウスをつくりました
加藤:ええ、合掌苑として何か地域に貢献できないかと考えた時に、シングルマザーの貧困問題に取り組もうという話になりました。
話を進めるうちにシングルマザー専用のシェアハウスを運営しているペアレンティングホーム様と知り合い、提携して合掌苑でも今年の7月からオープンしました。
家賃光熱費が安いほかに、シェアハウスという形式をとることで、子育てを一人で抱え込むのではなく、シングルマザー同士で状況を共有し、力づけることを狙いとしています。
他にも週1回チャイルドケアを雇い、シングルマザーが自分の時間を確保できるようにしています。
加藤:シェアハウスを単に運営するだけでなく、「合掌苑ならではの貢献は?」ということを考えた時に、やはり雇用だという結論になりまして。
なので入居者は全て合掌苑で働く方を対象としています。合掌苑では子育てと仕事を両立できる環境が整っていますので、シングルマザーの生活・子育てに大きく貢献できると考えています。
(4)本当にいい取り組みには数字がついてくる
本当に数多くの取り組みを行っていますが、こういった取り組みのアイディアはどこから生まれるのですか?
加藤:一つは現場からです。例えば産前産後休暇という取り組みを行っていますが、法定では通常6週間のところを、合掌苑では2週間多く計8週の休暇を、1日単位で取ることができます。
これは職員と面談する中で「急なつわりの時、休めると助かる」という意見が出て、制度に取り入れました。
もう一つは他業種への視察です。有名なところではホテルのリッツカールトン様や日本一のカーディーラーのネッツトヨタ南国様を視察して、先進的な取り組みを教えていただき、合掌苑でも試せるものは積極的に導入しています。
神尾:いいアイディアは現場からでも異業種からでも、どんどん取り入れますね。それも独りよがりではなく、ちゃんと施策の結果も見ていく。 そして継続的に取り組んでいけば、必ず数字がついてきます。
合掌苑では前年の離職率が正社員7.9%でした。その離職もネガティブな理由ではなく、結婚退社や介護職から看護師に職種を変えたというものです。いい取り組みは高いES(従業員満足度)として結果にでます。
(5)採用に妥協をしない
職員の働きやすい環境づくりに加えて、採用にも力を入れていると
加藤:ええ、採用と職員が定着できる環境づくりは両輪だと考えています。職員の定着率が高いと、採用にも時間やお金をかけることができます。エンゲージメントを高い人を採用できれば、チームの活性化につながり、定着率も上がる。
例えば合掌苑では新卒の採用に10ヶ月かけています。会社説明から始まって、一次面接、職場見学及び面談、2次面接と続き、3次面接と最終プレゼンがあります。
2次面接ではグループワークを行い、同期となるメンバーと課題を通して、合掌苑について知ってもらいます。
3次面接は理事長と面接し、最終プレゼンでは管理職を集めて、自分紹介のプレゼンを行ってもらいます。
加藤:時間をかけることで内定辞退率はほぼ0です。また新卒の1年以内の離職は過去8年で2人だけ、過去4年だと0人です。
時間をかけて採用を行っているので、合掌苑のことをちゃんと理解してくれた学生が来てくれ、結果的にミスマッチが生じないのだと思います。
そこまで徹底した採用だと、人材不足になりませんか?
加藤:今のところは毎年、目標人数を採用できています。理由の一つは北は北海道から南は沖縄まで全国で採用活動を行っているためです。
都内に社員寮をつくり、全国の学校から採用できる取り組みを20年以上続けています。
神尾:とは言え、今後ますます少子化が進むので、新卒の採用環境は難しくなっていくと想定しています。それに対応していく必要はあります。
それは状況に応じて、採用基準を緩めるということですか?
神尾:それはあり得ません。採用を妥協したら、ケアの質が低下します。そうではなく、今後も働きやすさやキャリアアップの取り組みを続けていき、「合掌苑は職員のことを真剣に考えている」「ここで働きたい」と思える環境をつくり、発信していくことだと思っています。
これは中途採用でも同じで、合掌苑では中途採用を3次面接まで行います。
1次面接で即内定という事業所も多いですが、合掌苑では時間をかけて、合掌苑の理念に心から共感し、お客様の幸せに寄与できる人材だけを採用します。
合掌苑の基本的な考え方は「ESがCSをつくる」です。理念経営を柱とし、採用や教育に時間をかけ、職員を大切にしていくことが、合掌苑の目指すケアの土台になると考えています。
ライターからヒトコト
「職員を大切にすることが、利用者を大切にすることにつながる」という明確なロジックのもと、介護職員の育成や採用、働く環境に真剣に取り組む合掌苑。新しい取り組みを導入するにあたって、「できない理由」を探すのではなく、「できる方法」を探すスタイルが印象的でした。社会福祉法人 合掌苑
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