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【著名人コラム】「顧客に選ばれる」時代となった介護業界。その時活躍できる介護士は?

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世間のイメージとは裏腹に、介護業界における顧客獲得はこれから激化していきます。 これまでは、潤沢な保険給付により顧客が国の財源からサービスを利用できていましたが、今後は保険給付が制限されることが予想され、その結果、介護サービスの顧客数が減少するためです。 そのような「顧客に選ばれる」時代となった時、活躍できる介護士とは一体どのような人材でしょうか?今回は「人を語らずして介護を語るな」の著者である菊地 雅洋氏に「10年後も活躍できる介護士像」について聞きました。
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(1)介護保険事業者の顧客数減少

我が国の高齢者介護は、団塊の世代の人々が75歳に達する2025年から15年ほどが、サービスの量や人の確保の面で正念場を迎えることになる。 それはサービス事業者側からすれば顧客確保に困らない売り手市場となるという意味にもとれるが、現実にはそうならない。

後期高齢者の数が増え、介護を必要とする人の数も増える時期に、国は骨太の方針として、プライマリーバランスゼロ政策を掲げ、社会保障費の伸びを、 現行の1兆円から五千億円に抑制するとしているのだから、保険給付が制限され、介護保険事業者の顧客数は確実に減らされるからだ。

(2)既に始まる顧客獲得競争の動き

2015年の制度改正では、特養の入所要件が厳格化され、特例入所を除いて要介護3以上の人しか入所できなくなった。

さらにサービス付き高齢者住宅を全国各地に創り、 そこへの積極的な住み替え策を進める国の政策と相まって、特養の待機者は大幅に減っている。さらに特養の待機者が減る状況は、老健で特養入所待ちをしていた要介護者の、 待機サイクルが短期化されるという現象を生み、介護施設全体での待機者数が減り、新規の入所相談も減っているという現象を生んでいる。

その中で、介護施設は新規オープンしても、利用者がなかなか集まらずに、空きベッドが埋まらず、相談援助職員のルーチンワークに、地域への営業周りが加えられるということも起こっているのである。

次期報酬改定の際には、特養で入所要件を厳格化したという先例を楯に、他サービスにも要件厳格化の名のもとに、給付制限が広げられることは間違いない。

国の思惑は、将来的に介護給付は要介護3以上の重度者のみにしようということであり、徐々にそうした方向に向かってレールが敷かれていくだろう。 その中で介護事業者は、減る顧客に選ばれる戦略が求められるし、当然そこではその戦略に沿ったサービスを実現できる人材が求められることになる。  

(3)顧客に「タメ語」で接しても生き残れた「ぬるま湯時代」

利用者は介護事業者に、「よりましなケア」を求めているのではなく、自分の尊厳が最大限に護られるケアを求めている。

職員が利用者に接する際にも、尊厳を護る最低限のマナーが求められ、それは顧客対応としてふさわしい態度を守ることでしか実現しない。

介護サービス事業に関わる職員が、顧客に対して馴れ馴れしい無礼な言葉で接する事業者は生き残っていけないだろう。 顧客に対してタメ口で接することは異常だという正常な感覚を失わず、丁寧語で接することができる職員であることが最低限求められる。

そもそも職員が「タメ口」で話しかけている姿が、親しげな関係を表しているとして、利用者自身やその家族に喜ばれていると思っているのだろうか。

勘違いするなと言いたい。その場面を自分自身に置き換えたらどうだろう。 専門学校を出たばかりと見受けられる若い職員が、自分の親に「タメ口」で話しかけている姿を思い浮かべてほしい。

時にその口調は、命令口調と取られても仕方がないし、荒々しい口調にしか聞こえないことも多い。 それを見て誰が喜ぶというのだろうか。家族は哀しんでいるのだ。家族は悔しがっているのだ。 それでも何も言えない人が多いのだ。人質をとられているようなものだから・・・。

暮らしの場とか、生活施設という言葉の本来の意味は、個人の尊厳が保障され、一人ひとりの思いを尊重して、個性に対応したケアサービスを提供するという意味なのに、 「暮らしの場だから、丁寧語を使うと固苦しい」というふうに、意味の分からない理屈に置き換えられている。

馬鹿を言うなと言いたい。世間一般の日常の場面でも、親しき中にも礼儀ありは生きているし、自分が生活の糧を得ている職業場面で、そのサービスを利用する顧客に対して、 タメ口が通用するなんてことはない。

介護サービス事業に携わる多くの人々が、こんな簡単な理屈に気がつかないのはなぜなんだろうか。

おそらくそれは、なんだかんだ言っても介護サービスがぬるま湯に浸かっていて、特段の努力をしなくとも事業経営が可能だったからだと思う。 事業さえ立ち上げれば、顧客確保に頭を使わなくても運営できる状態が長く続いた結果であろうと思う。  

(4)最低ラインの「マナー」。さらに「ホスピタリティ」が求められる時代

しかしそいう時代は過去のものとなり、顧客に選択肢が広がっていくなかで、選ばれる事業者しか生き残ることはできない。 そのような情勢下で、団塊の世代の人達が、後期高齢者となり介護サービス利用が増えてくる。

その意味は、それらの人々に選ばれるサービスだけが生き残っていくという意味であり、 それらの人々に選択されるためのサービス提供者のスキルが求められるという意味である。

団塊の世代の人々は、日本の高度経済成長期を支えてきた人で、我々の世代より上下関係に厳しく、サービス業の言葉遣いに敏感な世代である。 そうであるがゆえに我々が言葉を崩すことで不快になる人は多く、同時に崩した言葉に傷つく人も多いはずである。

その中で求められる介護サービス事業の質とは、顧客に対して適切なサービスマナーをもって対応する事業者であり、 これからの介護には、「ホスピタリティ」の視点が求められてくる。

今後の介護職員に求められるスキルとは、ポスピタリティということを普通に考えられるスキルである。

「ホスピタリティ」とは、「思いやり」「心からのおもてなし」という意味であり、「マナー」は相手に不快感を与えないための最低限のルールを守ったうえで、そこに「心」が加わると、 「ホスピタリティ」になる。

目に見えない心が大切な介護という仕事であるがゆえに、マナーは当たり前、そこに心を加えてホスピタリティ意識を高めようというのは、至極当然の帰結である。  

菊地 雅洋

菊地 雅洋プロフィール

北海道介護福祉道場・あかい花 代表、医療法人資生会・介護老人保健施設クリアコート千歳 事務次長など歴任 運営サイト:masaの介護福祉情報裏板 著書:「人を語らずして介護を語るな〜masaの介護福祉情報裏板」「介護の詩(うた)〜明日へつなぐ言葉」など
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