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介護現場「虐待」の事例 | 家族はどうする?種類や原因も解説

社会問題
介護現場における高齢者虐待は、自宅で家族から、介護施設で介護スタッフから、受ける可能性があります。また、虐待の種類も身体的な暴力だけでなく、心理的なものから経済的なものまでさまざまです。この記事では介護現場で起こる高齢者虐待の種類や原因、対策を解説します。
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(1)介護現場で起こる、高齢者虐待とは

出典:https://www.photo-ac.com/main/detail/2475077

最近、子どもの虐待に関するニュースが飛び交っていますが、じつは高齢者への虐待も増えているのです。

厚生労働省の平成27年度の発表によると、自宅で介護者である家族からの高齢者虐待が年間15,976件、介護施設などで介護スタッフからの高齢者虐待が年間1,640件となっており、高齢者虐待は年々増え続けています。

(参考:厚生労働省「平成 27 年度 高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等 に関する法律に基づく対応状況等に関する調査結果」

なぜ、家族から虐待を受けてしまうのでしょう、どうして介護のプロがいる介護施設で虐待が起きてしまうのでしょう。

この記事では、高齢者虐待について、虐待の種類、虐待が起きてしまう原因、どうすれば虐待を予防できるのかその対策についてご説明します。

高齢者が幸せに生活するための介護現場で、どんな高齢者虐待が起きているのかについて、介護現場である自宅と介護施設に分けてご説明します。

自宅

自宅での高齢者虐待は、介護者である家族からの虐待を受けてしまいます。

虐待というと、叩く、蹴るといった暴力(身体的虐待)のイメージがありますが、暴力以外にも家族が介護を行なわず放置する介護等放棄、家族からの言葉の暴力や恐怖心を与える心理的虐待、他の人の前で恥ずかしい思いをさせられる性的虐待、年金や預貯金を高齢者の意に反して使われる経済的虐待があります。

介護施設

介護施設での高齢者虐待は、介護スタッフから虐待を受けてしまいます。

介護スタッフから叩かれる、蹴られるといった身体的暴力や手足を縛る拘束、介護スタッフからの暴言や無視といった心理的虐待、人前でオムツ交換をするなどの性的虐待などがあります。

(2)介護現場での虐待の事例・ニュースが増加してきている

高齢者虐待の件数は介護施設と自宅を合わせて、約18,000件弱で年々増えてきています。

最近の新聞報道をみると、2018年12月に、鹿児島県の有料老人ホームで相次いで入居者7人が死亡し、その他にも4人の入居者に対して介護放棄や身体拘束といった虐待がありました。

2019年4月には、東京都品川区の介護施設で介護スタッフが入居者に暴力を奮い、ショック死させた事件、2019年7月には、熊本の住宅型有料老人ホームで高熱の高齢者に必要な措置をせず放置する、入居者に威圧的な態度をとるといった虐待、宮崎市では有料老人ホームで歩けない90代の女性入居者に介護スタッフが馬乗りになるという虐待がありました。

これらの虐待は介護施設での虐待ですが、新聞やテレビでは報道されることがあまりない自宅での虐待なども多数起きています。

(3)要介護高齢者への虐待の種類① 身体的虐待

出典:https://www.photo-ac.com/main/detail/1025466

これより、虐待の具体的な事例を虐待の種類別にご説明します。

まずは、暴力や身体拘束などの身体的虐待についてです。身体的虐待は10,939件、高齢者虐待の66.6%で、最も多い高齢者虐待となっています。

子供からの虐待

一番安心して過ごせる自宅で、一番信頼している家族からの力による虐待を受けます。高齢者虐待で一番多いのが自宅での身体的虐待です。

事例としては大きく分けて2種類あります。

ひとつは息子からの暴力で、虐待件数は7,099件、40.3%もあり、家族の中でも最も多くなっています。具体的には、トイレや食事などの際に同じ失敗を繰り返す、洗濯や買い物など言ったことをやってないということから、いら立ちが募り暴力を奮ってしまう事例です。

もうひとつは娘からの暴力で、虐待件数は2,906件、16.5%と夫に次いで3番目に多くなっています。娘の場合、親の介護に熱心になりすぎるあまり、リハビリなどがうまくいかないときに「なんでできないの?」と叩くなどの事例がみられます。

介護スタッフの経験不足と人数不足

本来、しっかりとした介護を受けて安心して生活できるはずの介護施設で、介護のプロである介護スタッフからの暴力による高齢者虐待が増えています。

特に、事件としてニュースで報道されるのがこの介護施設における身体的虐待です。

実際にニュースになっている事件では、入居者が「食事をこぼしたから、また机を拭かないと!」、「お漏らしをしたから、またシーツをかえないと!」といったことで介護施設のスタッフが「忙しいのにまた同じ失敗して!」と感情的になり、叩く、蹴る、殴るといった虐待が起きています。

また、「夜徘徊すると大変だから」とベッドに括り付けたり、部屋に鍵をかけて外出できなくするといった身体拘束を行っている事例もあります。

(4)要介護高齢者への虐待の種類② 介護等放棄

出典:https://www.photo-ac.com/

最近、増えてきている高齢者虐待のひとつが、家族が必要な介護をしない「ネグレクト」や、自暴自棄や無気力などから高齢者自ら介護を受けようとしない「セルフネグレクト」といった「介護等放棄」です。

高齢者虐待のなかでも、3,420件(平成27年度)、20.8%で高齢者虐待のなかで3番目に多くなっています。

日常の世話をしない

親が介護サービスを必要な状態にもかかわらず、介護サービスを使わずそのまま放置してしまう事例が増えています。

寝たきり状態の親の洋服を何日も着替えさせない、入浴させない、おむつを交換しない、食事をあげないなどにより、体力的にも精神的にも衰弱してしまいます。この結果、背中に褥瘡ができたり、高齢者自身も無気力となりセルフネグレクトに陥ってしまいます。

「忙しいから」で死亡するケース

介護施設の場合、入居者である高齢者の世話をするのが仕事のはずですが、「忙しいから」、「どうしていいのか分からないから」と病気になってもそのまま放置してしまい、その結果、病状が悪化し死亡してしまったケースもあります。

(5)要介護高齢者への虐待の種類③ 心理的虐待

出典:https://www.photo-ac.com/main/detail/1889668

心理的虐待とは、無視や威圧的な態度などがあたります。虐待件数は6,746件(平成27年度)、高齢者虐待の41.%で、高齢者虐待で2番目に多い虐待となっています。

高齢になると、どうしても動きが緩慢になったり、物忘れが進行してしまいます。しかし、介護をしている家族は、「デイサービスのバスのお迎えが来ちゃうから、サッサと準備してよ!」、「その話、さっきも聞いた!」、「洋服をたたんでおいて、ってさっき言ったじゃん!」と腹を立て、暴言を吐いたり、大きな声で威嚇したりしてしまうことがあります。

ときには、家の壁やドアを叩くなどし大きな音を出して高齢者を委縮させたりすることもあります。そうした行動は心理的虐待と呼ばれています。

また、高齢者が挨拶をしても、話しかけても返答をせず無視をするといった行動も挙げられます。

入居者である高齢者が介護施設のスタッフに挨拶をしたり、何かを聞いたりしても無視をするといった行動や、高齢者の介護者の意のままにするために威嚇的な態度をとったり、高齢者自身やその家族を侮辱するような発言をしたりするのも心理的虐待です。

(6)要介護高齢者への虐待の種類④ 性的虐待

高齢者虐待のなかで最も対応が難しいのが性的虐待です。

件数は年間で84件と少ないものの、性的虐待は被害者の心身に傷を残す可能性が高く、対応は容易ではありません。

性的虐待の例として挙げられるのが、配偶者に対する性行為の強要です。このケースは内容がデリケートなだけに、被害者側が相談をためらったり、相談を受けたスタッフが若いと対応に苦慮することもあり、非常に対応が難しいケースです。

また、食堂や活動室など他の入居者がいる場所でオムツ交換をしたり、男性スタッフが女性入居者の入浴を手伝うというケースもあります。

(7)要介護高齢者への虐待の種類⑤ 経済的虐待

高齢者虐待のひとつに経済的虐待がります。件数は3,378件で介護等放任とほぼ同数となっています。経済的虐待とは、高齢者の財産や権利を所有者である高齢者本人の同意を得ずに、または意に反して子どもや孫といった家族が使ってしまい、高齢者が不利益を被るものです。

親の年金を無職の息子が自分の趣味の物を買ったり、遊ぶためのお金に使ってしまい、親が受けられるはずのデイサービスやヘルパーサービスが受けられなくケースや、病気をしているにもかかわらず年金が使われてしまったために病院に行けないというケースもあります。

また、親が入所している介護施設の施設費に充てるはずの年金を無職の息子が自分の生活費に使い込んでしまい、介護施設の施設費が未納となり、施設から退去を求められるケースがあります。

これらは、80代の親と無職または低収入の50代の子どもが一緒に暮らし、親の年金で生活している“8050問題”としてもクローズアップされている問題です。

8050問題についてくわしく解説した記事はこちら

高齢化×引きこもり「8050年問題」とは|原因や対策など

高齢者が介護施設に入所する時には、自分の洋服や下着、オムツ、ちょっとしたお菓子などを買うためや、施設でかかる必要なお金を払うために、自身の通帳や印鑑などを持って入所します。

しかし、体力が衰え、交通手段がない高齢者が一人で銀行に行ってお金をおろすことが難しいので、施設のスタッフは本人または家族の同意のもとで通帳と印鑑を預かり、必要な分だけのお金を使うことがありますが、この際に、「どうせ分からないから」と、必要以上にお金をおろし使い込んでしまうケースもあります。

(8)介護現場で起きる高齢者虐待を引き起こす原因とは

なぜ、介護現場で高齢者虐待が起きてしますのでしょう。

これより高齢者虐待を引き起こす原因6つをご説明します。

介護者の知識不足

家族が介護する場合は、高齢者が病気や怪我などにより急に介護が必要になることがよくあります。

このため、介護保険サービスや地域包括支援センターの存在を知らず、どう介護すればいいのか分からないという、介護者の知識不足が原因となることがあります。

また、緊急性がない身体拘束や鍵をかけて家から出れなくすることなどが高齢者虐待になることを知らず、結果的に高齢者虐待になっているということもあります。

介護施設での要因は、介護者の知識不足が原因で、入居者が同じ失敗を繰り返すことにいら立って叩いたり、どうしていいか分からないからと放置するケースがあります。

厚生労働省が発表した資料(平成27年度)でも、介護施設における高齢者虐待の原因の1位が介護スタッフの知識・経験不足で、246件(65.6%)で断トツのトップとなっています。

介護者不足

介護施設では多くの入居者を限られた介護スタッフで介護をしていますが、夜間帯などは人員体制が少なくなります。さらに、当番のスタッフが体調不良や退職などにより欠員状態の人員体制により介護スタッフが疲弊してしまうことが原因で、入居者の対応が十分に対応できなかったり、入居者への暴力や暴言、放置に至ってしまうことがあります。

自宅においても介護する家族が一人しかいないことが原因で、介護を一人で背負い込んでしまい、介護者が疲弊し、社会から孤立したり、介護ストレスや介護うつを発症してしまうことで虐待に繋がってしまいます。

熱心になりすぎる

一生懸命に介護をすることは大事ですが、「頑張りが足りないからリハビリの効果が出ない」と介護に熱心になりすぎてしまったり、「私がやらせなきゃ!」と一人で介護を背負い込んでしまい、気持ちに余裕がなくなり高齢者虐待に至ってしまうことがあります。また、介護を熱心にしすぎた結果、介護疲れを起こしてしまい虐待を起こしてしまうこともあります。

自宅での高齢者虐待の原因の1位が介護疲れ・介護ストレスで、年間で1,320件となっています。一生懸命さが高齢者虐待の原因になることもあるのです。

介護疲れの対策についてくわしくはこちら

介護疲れの3つの原因と4つの対処法

認知症

高齢者虐待の多くは、高齢者が認知症を患っているケースが非常に多いのが特徴です。高齢者虐待を受けた高齢者で認知症を患っていた割合は、介護施設の場合で78.4%、自宅の場合で69%と非常に高くなっています。

認知症を患うと、物忘れにより同じことを繰り返し聞く、同じ物を買ってくる、トイレの失敗などで介護者がイライラし、叩くなど身体的虐待が起きやすくなります。

また、徘徊のたびに警察などで保護されていると、介護者は徘徊予防策として高齢者の部屋に鍵をかけて外出できないようにしたり、身体拘束をすることがありますが、これも高齢者の自由を奪う虐待となります。

介護者の病気

介護者である家族自体が何かしらの疾患があるというケースがあります。介護者自身が統合失調症やうつ病を患っているために感情の起伏が激しい、または発達障害やパニック障害の影響で介護者としての判断ができないというケースがあります。

介護者が何かしらの疾患を抱えるケースは、1,217件、23.1%と2番目に多い原因となっています。

その他

その他には、子どもが無職で経済的に困窮していて金銭的にも、気持ちの上でも介護の余裕がないといったケースや、高齢者のみの世帯で高齢者が高齢者を介護するといった“老老介護”、介護者が子どものときに親から叩かれた、無視された、暴言を受けた、何もしてくれなかったなどの虐待(身体的、心理的、放置など)を受けていたその反動、いわゆる”虐待の連鎖“などが原因のケースもあります。

老老介護についてくわしくはこちら

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(9)介護現場で起きる高齢者虐待への対策

年々増加する高齢者虐待の対策として、厚生労働省は、平成17年に「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律(通称:高齢者虐待防止法)」が制定されました。

主な内容は、65歳以上の高齢者を対象とし、高齢者虐待を発見した場合は市区町村の窓口に通報義務があること、虐待の対応は市区町村の職員の責務であること、虐待を行っている養護者の要因を解消するための支援をすることなどです。

具体的な高齢者虐待の対応については、原則として通報から48時間以内に地域包括支援センターの職員や介護関係者と協力して、情報を集め、事実確認をします。虐待の要因を突き止め、その要因(介護知識不足、介護疲れ、生活困窮など)を解消するための支援を行います。また、生死にかかわる事態であれば一時保護や分離をすることも厚生労働省のガイドラインで示されています。

都道府県のバックアップ

都道府県は、市区町村の高齢者虐待のスキルをあげるために虐待防止のための機関(虐待防止センターなど)を設置し、虐待対応に関する相談やアドバイス、研修といった後方支援を行っています。

広報活動

市区町村の職員は、介護関係者への虐待対応の研修を行ったり、高齢者と関わる病院や民生委員、自治会などへ高齢者虐待の内容や通報義務などについての広報活動、警察や自治会、社会福祉協議会などとの高齢者虐待の予防や早期発見のためのネットワークづくりなどを行っており、地域をあげて高齢者虐待の早期発見、早期対応の基盤づくりを行っています。

(10)介護現場での虐待を防ごう

介護を行っている介護施設や自宅で高齢者虐待が起きており、高齢者虐待の件数は年々増え続けています。

高齢者虐待は、介護者から暴力などの身体的虐待、介護や日常の世話をしない介護等放棄、無視や威圧的態度をとる心理的虐待、無理な性行為や恥ずかしい思いをさせる性的虐待、高齢者の財産や権利を介護者等が自身のために使ってしまう経済的虐待があります。

高齢者虐待のうち身体的虐待が最も多く、全体の約66.6%を占めています。

高齢者虐待が起きてしまう要因としては、介護者の知識不足や、介護者不足、過剰な介護、高齢者の認知症、介護する側の病気や家族間の問題、経済的な問題などがあります。

こういった高齢者虐待を防止するために国では高齢者虐待防止法を制定し、市区町村の職員を中心に高齢者虐待の対応や予防活動に取り組んでいます。

親の介護が必要になったときに、公的サービスや民間サービス、家族の役割NGなどを知らないと気づかないうちに自分が高齢者虐待をしているということもあります。高齢者虐待は誰でも起こりうる問題で、決して他人事ではありません。

介護は24時間、365日行うものなので、1人で行うには限界があります。介護をするは、介護保険サービスやお住いの市役所の高齢者サービスの窓口、地域包括支援センター、社会福祉協議会といった公的機関、民生委員や自治会など地域の力、民間サービスなどいろいろな機関を利用して、チームで対応することを知っておきましょう。

正しい知識と、チームワークこそが一番の高齢者虐待予防といえるでしょう。

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