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高齢者虐待の事例 | 通報の義務・原因・防止の取り組みまとめ

社会問題
高齢者虐待とは、高齢者が家族や施設スタッフから受ける虐待のことで、児童虐待と同じように言葉の暴力や世話をしないといったネグレクトなどを含みます。高齢化が進み、介護の需要が高まる一方で、高齢者虐待の事件も増えています。この記事では、高齢者虐待について、事例や原因、防止の取り組みなどについて解説します。
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(1)高齢者虐待とは

少子高齢化が進み、高齢者の数が増えるにつれ、近年「高齢者虐待」の件数が増加していることが問題となっています。

具体的には、高齢者や要介護者に向け物理的・精神的な苦痛を与えてしまったり、金銭管理を勝手に行ってしまったり、といった、「相手が高齢者であることをいいことに、相手に様々なダメージを及ぼすこと」を一般艇に高齢者虐待と呼びます。

この、高齢者虐待という悲劇は、どのような形で、またどのような理由で行われてしまうのでしょうか。さらに、いかにしてこの高齢者虐待をなくすことができるのでしょうか。

本記事では、この高齢者虐待という社会問題について詳細に説明していきます。

(2)高齢者虐待の事例

高齢化の進行に伴い、介護の需要が急速に伸びている中で、高齢者虐待の報告件数も年々増加しています。特別養護老人ホームなどの介護施設で平成29年度に確認された、高齢者虐待の件数は510件にも上り、過去最高を記録しました。

また、相談・通報件数も1898件と、非常に多くなっています。

高齢者虐待として特に大きく取り上げられた事例として、入所者3人が転落死した川崎市の介護付き有料老人ホームで起きた事件があります。

入所者の家族が当施設に設置した隠しカメラには、入所者が職員に頭を叩かれたり、暴言を吐かれたりなどする様子が収められており、大きな衝撃が広がりました。

他にも、品川区の介護付き有料老人ホームで入所者の男性が暴行を受けて殺害された事件では、入所者が職員から継続的に暴行を受けていた事実が明らかになりました。

高齢者虐待の相談・通報件数を見ても、こうしたテレビや新聞などで大きく取り上げられる事件以外にも多くの高齢者虐待に関する事件が起こっていることがわかるだけでなく、相談・通報されることなく見過ごされているケースも多くあると考えられます。

(3)高齢者虐待の種類

高齢者虐待には、以下の5種類のいずれか1種類・もしくは複合的に起こってしまいます。

介護虐待の5つの形態

①身体的虐待

身体的虐待は、介護者からの暴力によって支配されることで、5つの虐待の中で最も件数が多い虐待です。ここでは介護のシーン別に例を挙げます。

家庭

家庭で多いのは、トイレや食事を失敗したときに介護者や家族から叩かれたり蹴られたり等の暴力を受けてしまうパターンです。また、認知症を患った被介護者が徘徊してしまうことを防ぐために、部屋に鍵をかけて出かけられないように拘束することも、身体的虐待となっています。

施設

施設で多いのは、夜、徘徊しないようにベッドに拘束することです。命に係わるような特別な状況でない限り、施設での拘束は当然ながら虐待となります。また、トイレや食事の失敗したときの罰や、入浴を嫌がる際に叩いて従わせるケースもあります。

②介護等放棄

介護者が必要な介護や治療を受けさせず放置してしまうことです。ここでは、介護する方と介護される方の視点でご説明します。

ネグレクト

介護する側が、本来必要と分かっている介護を一切せず放置してしまうことです。例えば、オムツを1日中替えない、十分な食事を与えない、けがや病気をしているのに病院に連れて行かない、などがあります。

セルフネグレクト

介護される側が、自身の精神的なストレスや喪失感・無気力、うつ病などで自分のことを投げやりになり必要な行動をとらないことです。例えば、介護を受けない、通院を止めるなどがあります。

③心理的虐待

心理的虐待とは、罵声や怒鳴り声、物を投げる、大きな物音をたてる、無視する、といった行動で高齢者を威圧し、支配することです。例としては、何か失敗したときに、家族や施設のスタッフから怒声や罵声を浴びせたり、机やいすを叩いて大きな音を出して威圧したりしてしまうことで、高齢者を委縮させるといったケースが挙げられます。

④性的虐待

性的虐待とは、人前でオムツ交換や着替えを行うなど恥ずかしい思いをさせることです。これは多くの入所者を抱える施設などで、人手不足やプライバシーの希薄化などの安易な考えから起こってしまう虐待です。また、配偶者から性行為を強要されることも性的虐待となります。性的虐待はデリケートな問題なので、相談する側も、相談される側も対応が非常に難しい虐待です。

⑤経済的虐待

経済的虐待とは、高齢者の預貯金や年金などを本人の同意なしに、または無理やり同意させ、介護者のためにお金を使うことです。

例えば、子どもが親の年金を自分の趣味などの使ってしまうため、本来受ける必要がある介護や医療が受けられなくなることです。最近、社会問題にもなった「8050問題(80歳代の高齢者と50歳代の無職の子どもが同居し、年金だけで生活している世帯が増えている)」も、経済的虐待と密接に関係しています。

(4)介護施設で「高齢者虐待」がおこる原因

出典:https://www.photo-ac.com/main/detail/2239437

厚生労働省の調査によると、高齢者虐待の件数は毎年減ることがなく、年々増加傾向にあることが示されています。2015年から2016年にも、10%以上の件数増加がみられてしまっている状況になっており、対策は急を要します。

参考:厚生労働省『平成 28 年度「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」 に基づく対応状況等に関する調査結果

介護のプロがいる介護施設で、なぜ、高齢者虐待が起きてしまうのでしょうか。ここでは、介護施設で高齢者虐待が起きてしまう理由3点についてご説明します。

①イメージのズレ

福祉の仕事の募集チラシをみると「社会貢献」、「人に感謝される仕事」といったフレーズをよく目にします。

実際に働いてみると、食事やトイレ、オムツなどのケアや後始末、重労働な入浴の介助など、イメージしていた大変さと実際に体感する大変さのズレを感じるスタッフは少なくありません。このようなズレがストレスになり、高齢者への虐待に至ってしまいます。

②指導者がいない実践

本来は、施設の管理者やサービス提供責任者、先輩などから介護技術や、仕事の順序、高齢者との接し方、事故防止などについて指導をしっかり受けるべきところですが、慢性的な人手不足で後輩への指導もままならず、何がいけないのか、何が危険なのかを教わらずに仕事をするので、知らず知らずのうちに虐待をしていることがあります。

③たまり続けるストレス

施設に入所されている方は、要介護3以上の方が多く、介護する内容も多岐にわたります。また、要介護度が低くても認知症を患っていると、同じことを聞く、すぐ忘れる、同じ失敗を繰り返すなど、介護スタッフの仕事量が増えストレスが溜まります。

このように介護に関する仕事が多いことも当然ストレスになりうるのですが、それより重要なことは、介護職として働くスタッフだからこそ、それらの仕事を「当たり前に」「高い質で」行うことを求められてしまうため、常にプレッシャーと戦わなければならないことが、そのストレスに拍車をかけることになっている側面も大いにあります。

(5)在宅介護で高齢者虐待がおこる理由

先ほどは、施設における高齢者虐待について説明してきました。もちろん施設におけるケースも大いに重要なのですが、在宅介護における高齢者虐待は、とにかく件数が多いことが憂慮されるべき点です。

平成27年度に発生した高齢者虐待16,384件のうち、98%が家族からによるものでした。なぜ、一番安心して暮らせる自宅で虐待が起きてしまうのでしょうか。ここでは、在宅介護で高齢者虐待が起きてしまう理由3点をご説明します。

参考:厚生労働省『平成 28 年度「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」 に基づく対応状況等に関する調査結果

①介護者の介護疲れ

身体的虐待の発生要因で最も多いのが、介護者の介護疲れです。

これは、介護の長期化や介護者の高齢化(老老介護)、介護保険サービスに頼らず介護者自身で頑張りすぎてしまうといったことから、疲れ果て、追い詰められてしまい、虐待に至ってしまうのです。意外かもしれませんが、まじめな人、親思いの人ほど介護疲れから虐待を起こす危険性が高いのです。

②ストレス

介護によるストレスが溜まり、虐待に至るケースも非常に多く見られます。高齢者の介護は、昼だけでなく、介護者が寝る夜も必要な時もあり、それが毎日続きます。また、日々続く介護のために、介護者自身の自由な時間(友達との時間、趣味、運動など)が取れなくなり、ストレスを発散できにくくなります。さらに、介護は家族の問題ということもあり、なかなか相談や不満を吐露しにくいため不安や不満が募り、ものすごいストレスが溜まってしまいます。このストレスが一気に爆発すると、「ストレスの原因=介護」の構図から虐待に至ってしまうのです。

③障害

介護者自身に何かしらの課題を抱えていて、そのために自覚のないまま虐待を起こしていることがあります。ここでいう課題とは、介護者が精神的な病気をしている、または発達障害や引きこもり、コミュニケーション障害などを指します。特に介護者が何かしらの障害がある場合、しっかりした判断ができにくく、他人との接触を極度に嫌がる傾向があるため、介護等放棄や支援拒否に至ることがあります。

その他

上記の3つ以外にも、介護される方が認知症のため、昼夜逆転、同じものばかり買ってくる、物とられも妄想による犯人捜しに対する怒り、介護者である子どもが幼少期に介護を受ける親から虐待を受けていたり、嫁と姑の関係が悪かった場合、力関係が逆転した時に子や嫁が虐待をする(虐待の連鎖)といったことも要因としてあります。

(6)高齢者虐待につながる介護うつとは?

出典:https://www.photo-ac.com/main/detail/1889668

高齢者虐待を起こしてしまう危険性がある“介護うつ”をご存知でしょうか。ここでは知らないうちに陥ってしまう“介護うつ”についてご説明します。

介護者は要注意

介護をしている人が、介護の悩みや不安、自分の時間がなかなか持てないためによるストレス、心身の疲れが溜まり、うつ病を発症してしまうものです。介護をしている人は、介護うつの危険性があるので注意が必要です。

介護うつの症状

“介護うつ”の症状は、食欲不振や不眠、疲労感や倦怠感で体が重い、不安や焦りなどからイライラする、憂鬱になり何も考えられなくなる、といった“うつ“特有の症状がでます。

介護うつになりやすい人は

“介護うつ”は、どんな人がなりやすいのでしょうか。それは、責任感が強い、几帳面、完璧主義といったまじめな人です。これは、「自分の親だから」、「しっかり介護をすれば元の通りになる」、「昔の元気だった親に戻してみせる」と自分の力で頑張りすぎてしまうためです。

(7)介護うつが周囲に気づかれない理由

“介護うつ”は、うつ特有の症状が出ますが意外と周囲の人は気づきにくいため、介護うつの症状は悪化してしまい虐待に至ってしまいます。なぜ、“介護うつ”は気づかれにくいのでしょうか。

弱さを見せない

“介護うつ”を発症している人は、責任感が強く完璧主義のために他の人に困っている部分を見せないように繕ってしまいます。また家族というプライベートの部分を外に出さないようにする傾向があります。

孤立

「自分の親だから」と、家族に協力を求めなかったり、または、家族に協力を求めても理解が得られず、自分一人で介護を背負い込むことで、どんどん孤立していきます。このため、周囲に“介護うつ”が気づかれないまま症状が悪化していきます。

(8)介護うつにならないためにはどうすればいいのか

では、“介護うつ”にならないためには、どのようにすればいいのでしょうか。ここでは、“介護うつ”の予防に大切なポイントを3つ説明します。

①チームでのケアを心掛ける

介護は、24時間を、そしていつまで続くかわからない期間を行うものです。どんなに優れた人でもひとりで行うのは不可能です。介護は、自分の力だけでなく、家族の力を借りましょう。介護だけでなく家事なども分担することで負担が軽減でき、心に余裕ができます。

②サービスを使う

介護保険サービスや市の補助制度といったサービスは、介護による身体的な負担や経済的な負担を軽減できます。また、最近では民間サービスも充実してきているので、いろいろなサービスを使って介護負担を減らしましょう。介護サービスや民間のサービス、自宅で介護をするうえでの相談などは、地域包括支援センターを活用しましょう。地域包括支援センターは、いろいろな情報をもっています。

③同じような状況にいる人とつながる

介護をしていると「自分だけが大変」と思い込んでしまう傾向がありますが、実際には同じ思いで介護をしている人が大勢います。こんな時はぜひ、身近な場所で行っている“サロン”に参加してみましょう。

介護をしている人、介護をしていた人、介護を受けている人などが集まり、いろいろな思いや経験を話し合っています。サロンに参加することで同じ境遇の人との出会いや、介護経験者からのアドバイスなどをもらえることで気が楽になります。決して自分ひとりだけじゃないということを理解しましょう。

(9)高齢者虐待を防止するために施行された高齢者虐待防止法とは?

厚生労働省では、相次ぐ高齢者虐待による事件からその対策のために、平成18年に「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援に関する法律(俗称:高齢者虐待防止法)」を制定しました。

この法律は、高齢者の尊厳を保持し、高齢者の権利を守るために必要な措置をとることが謳われています。ここではこの法律の特徴を3つご説明します。

行政の責任

この法律の1つ目の特徴は、高齢者虐待について必要な措置を行う義務を、各種行政組織に課している点です。高齢者虐待の疑いの通報があれば、お住いの市町村が中心となって対応することとなります。

通報義務

2つ目の特徴は、行政を含め虐待の疑いを知った場合に、その情報を行政に通報しなければいけないという通報義務についても謳われています。虐待は地域の目、関係者の目も必要とされています。

虐待者の支援

3つ目の特徴は、虐待者を罰する為のものではなく、虐待が起きている状況や原因を分析し、虐待が起きないように虐待をしている養護者(家族や施設のスタッフなど)を支援することも行うことです。

これは、虐待の起きる原因が介護する人の介護疲れやストレス、知識不足が原因の場合が多いので、一時的な措置ではなく、今後は虐待が起きない状況に修正することが目的だからです。

高齢者虐待防止法については以下の記事でくわしく解説しています。あわせてお読みください。

高齢者虐待防止法とは | 通報窓口・種類・実態などを解説

(10)「高齢者虐待」を防ぐ具体的な取り組みについて

決して他人ごとではない高齢者虐待をどうすれば防ぐことができるでしょう。ここでは高齢者を預かる介護業者、虐待対応を行う市町村職員、虐待の芽を摘む地域住民、それぞれの高齢者虐待を防ぐ具体的な取り組みについてご説明します。

介護事業所

介護事業所の高齢者虐待防止への取り組みは次の3つになります。

①スタッフの研修

介護事業所は、スタッフに対して定期的に研修を実施しています。この研修の中で虐待行為の内容についても行われています。また、最近では同じ市内の事業所が集まる連絡会や行政や民生委員との連絡会、地域ケア会議などで、虐待行為についてや、利用者に不審なアザや言動があれば市に通報する義務があることを徹底しています。

②地域住民との連携

地域連携型のデイサービスやグループホームなどでは、地域の住人などを交えた運営委員会を定期的に行い、意見交換や情報交換をしています。また、最近では、施設スタッフと地域住人とで認知症による徘徊の方への対応の勉強会として“徘徊模擬訓練”などを行う地域が増えています。こういった場などで高齢者虐待の対応についての連携を行っています。

③介護相談員派遣事業

平成12年の介護保険制度がスタートした時から実施されている介護相談員派遣事業を取り入れて虐待の問題に取り組んでいる決して他人ごとではない高齢者虐待をどうすれば防ぐことができるでしょう。ここでは高齢者を預かる介護業者、虐待対応を行う市町村職員、虐待の芽を摘む地域住民、それぞれの高齢者虐待を防ぐ具体的な取り組みについてご説明します。

市町村職員

市町村の職員は、高齢者虐待を中心となって対応するため、様々な取り組みを行っています。

①法制度の研修

市町村の職員は、都道府県の職員や外郭団体を講師とした高齢者虐待防止法や関連する法律や条例等の研修を行っています。また、他市の虐待対応事例や先行都市の対応マニュアルなどについても研修を受け、虐待対応に備えています。

②関係機関との連携

市町村の職員だけでは対応に限りがあるので、最近では、地域包括支援センターの他に警察や消防(救急部署)、民生委員、社会福祉協議会、公営団地の管理機関、配食弁当サービスなどの民間事業者などとの連携会議を行うところが増えています。これは、虐待対応のときに個人の情報の収集がネックとなることがあるためです。

しかし、定期的に連携会議を行うことで法制度の理解、顔の見える関係が作れ、虐待対応時のスムーズな協力体制の構築を図ることできます。

地域住民

市区町村の高齢福祉に関する担当部署では、地域住民に対して広報やホームページ、チラシなどで高齢者虐待の通報先の周知を図ったり、地域との連携会議や市民向けの講座などで高齢者虐待の実態や虐待を見かけたときの通報先を伝えています。

また、介護者自身が介護疲れから虐待を起こさないように、介護の相談や介護者ケアの事業についても周知を図っています。

(11)社会問題となっている高齢者虐待を深く理解しよう

高齢者虐待が発生する要因は、絡み合った糸のようにいくつかの問題が重なり合っていることが多々あります。例えば、夫婦間の問題、子どもとの関係、収入の問題、介護者の仕事や病気、障害などの問題などがあります。

虐待対応は、絡み合った糸をほどくように問題点をひとつひとつ解決していかなければいけません。このため、介護関係者の協力と地域の力が必要となります。

厚生労働省の調査によると、高齢者虐待をしている側は、「虐待している」という自覚がない方がほとんどのようです。つまり、普通に介護しているつもりが知らず知らずのうちに虐待に至ってしまっているのです。「私は大丈夫!」と思っていると思わぬ落とし穴に落ちてしまうかもしれません。

介護は毎日のことで大変なことです。だからこそ1人で背負い込まずに、家族の協力や地域の力、市町村の制度、民間企業のサービス、介護関係者の協力を上手に使っていきましょう。

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