(1)世帯分離とは
世帯の経済効率を上げる目的で、世帯メンバーを調整すること
一つ屋根の下で生活していれば、通常、住民票には家族全員の名前が記載されます。
「世帯分離」とは、その住民票の中から特定の人を抜き出して、別の世帯を作り出すことをいいます。
「世帯を分離する」つまり、「分ける」と、当然その世帯の合計収入も分散されます。そのため、税金や保険などから起こり得る損得計算において、所得レベルによる違いがある場合、もしくは大きい場合、世帯をあえて分離し、金額負担を軽くする、ということが理論上考えられるのです。
生活保護の場合、受給するための条件として所得(年収)に具体的な基準額が設定されていないものの、「最低限の生活を維持するための所得があるかどうか」ということが重要視されます。
そこで、年収の低い家族の一人をあえて世帯分離して生活保護の受給をしてもらうことで、家族全体の経済負担を軽減する、という「生活保護のための世帯分離」という概念が生まれるのです。
(2)生活保護を受給するために世帯分離をすることは可能なのか
生活保護を受給するための世帯分離は、一定の条件に当てはまるのであれば可能ですが、結論から言うと、実際には難しいといえます。
例えば、病気で働くことができない20歳の子がいても、同一世帯の両親の所得が安定していれば、両親が子供に支援をする必要があるということになります。
そのため、住民票という書面上で世帯分離しても、「その人の年収が低く、かつこれから働くことも難しい」と理由だけでは、20歳の子は生活保護受給の対象にはならないのです。
ただ、ここまで生活保護受給の対象にならないパターンを紹介しましたが、そもそも生活保護を受ける際は、メリットばかりではなく、様々なデメリットも生じます。
生活保護受給に関する6つのデメリットについて詳しく解説した記事はこちら |
(3)生活保護を受給するために世帯分離をすることが難しい理由
世帯分離の目的に反するから
仮に、生活保護を受給することを目的に世帯分離し、それが自治体の担当に知られた場合、自治体(福祉事務所)はまずほとんどのケースで世帯分離をすることを認めないでしょう。
これは、生活保護受給を目的とした世帯分離のみのケースに限らず、介護費用の費用軽減を目的とした世帯分離全般の手続きのほとんどにもいえることなのですが、「生計を別にすることになったから」という理由以外では、基本的に世帯分離は認められないのです。
理由はシンプルで、世帯分離はそのような目的で成立した制度ではないからです。
そのため、正式な形で世帯分離をするためには、実際に生計も居所も別々にしなくてはいけないということです。住民票上や健康保険上のみで世帯分離を行っても、生活保護制度における世帯では「生計を同一とし同一居所に住む者」とされているからです。それが現実的でないことは火を見るより明らかでしょう。
(4)世帯分離の煩雑な手続き
世帯分離をするためには、市町村の住民課に世帯分離届を提出する必要があります。世帯分離の申出が可能なのは、世帯分離をする世帯主か世帯員あるいは委任状を受けた代理人となります。
そして、世帯分離には、世帯から分離する人の異動届、運転免許証やパスポートなどの届出をする人の本人確認書類、届出をする人の印鑑、分離される全員分の国民健康保険証、申出を代理人に委任する場合には委任状が必要です。
この世帯分離の手続き自体、かなり手間と時間を要するものであるだけでなく、いざ世帯分離をしてしまうと、世帯分離をした家族とは一緒に住んでいても世帯は別になるため、分離した家族の住民票などを取得する場合には、委任状を用意しなければならないなどのデメリットも発生します。
(5)生活保護受給のための世帯分離が可能なパターン例① 別居をし、生計・住居を分ける
生活保護を受給するための申請の時点で、生活保護受給の要件を満たしていなければ受理がされません。受理されてはじめて、福祉事務所が生活保護受給の対象になるかどうかを判断されるのです。
生活保護受給の場合の世帯分離では、完全に住む場所(家)が別々で、さらに生活にかかるお金の出所も別である必要があります。
例えば、A町とB町で住民票上でも世帯分離し、完全に生活する家を切り離して、生活にかかるお金の出所である口座が全く別であれば対象にはなります。
(6)生活保護受給のための世帯分離が可能なパターン例② 介護老人保健施設以外の介護保険施設に入居してもらう
介護保険制度を利用するようになり、特別養護老人ホームなどの介護保険施設に入居する場合なら、生活保護受給のための世帯分離として申請を受理されることになります。
世帯分離し場合、入居者自身の口座を分けておいて、入居者自身の利用料金を本人が出していることを証明できれば可能です。
(7)法律に関する疑問があった際に相談ができる場所
お金の悩みが続いて、最終的に生活保護制度を視野に入れるようになると、まず市役所などにある福祉事務所に申請に行くことになります。
しかし、巷では生活保護受給の不正受給や、本当に必要な人が対象にならないなどといった問題が表面化しており、福祉事務所の職員も慎重になっている部分があります。
生活保護の受給を考えて、断られたり、納得ができないなどのことがあれば、まずは相談窓口を利用しましょう。
生活保護に関する代表的な相談窓口の紹介
- 弁護士事務所
- 司法書士事務所
- 行政書士事務所
- 法テラス
- 自治体が設置する無料の市民向け法律相談
弁護士等の個人事務所で相談を受ける場合は、料金が発生する場合もありますが、確実に相談ができます。
自治体が設置する無料の相談窓口では、無料で行なってくれますが、曜日や時間が決まっている場合があります。
(8)経済的負担が重いと感じるときは
自分自身が生活が苦しくて、経済的支援を必要としても生活保護を受給できないケースはあると思います。
そんなときに、役に立つ制度をご説明致します。
世帯分離の代わりとなる、金銭負担を軽減するための主な4制度
①生活困窮者自立支援制度
仕事に関することや、お金に関すること、子育てなど、生活に悩み・苦しみを抱える人の相談窓口を提供してくれる制度です。平成27年より、厚生労働省により開始されました。地域ごとに相談窓口が設置されているので、お気軽に相談できます。
下記の記事は、生活困窮者自立支援制度についてより詳しく解説しています。併せてご覧ください。
②特別障害者手当
重度の障害を持ち、かつ在宅での介護を受けている人を対象に支給される手当です。要件に当てはまるかどうかについては、お住いの市町村の役所・役場まで確認してみましょう。
この手当を受給するための要件としては、おおむね、
- 身体障害者手帳1級・2級程度
- 愛の手帳1度・2度程度の障害の重複
- これらと同等の疾病・精神の障害
(参考:厚生労働省『特別障害者手当について』)を持っていることが挙げられています。
下記の記事は、特別障害者手当の要件にもなる、身体障害者手帳についてより詳しい記事となっています。併せてご覧ください。
③介護保険の負担限度額認定証の取得
介護保険の負担限度額認定とは、所得や預貯金などの要件を満たしている世帯を対象に、介護施設での介護において、居住費と食費の負担軽減をすることができる制度になります。お住まいの市町村に、必要書類を提出することで申請ができます。負担限度額認定に関する詳しい説明については、こちらの記事もぜひ参考にしてください。
下記の記事は、負担限度額認定に関するより詳しい記事となっています。併せてご覧ください。
④社会福祉法人等による低所得利用者負担軽減制度
低所得利用者負担軽減制度とは、所得が低い人を対象に、各種介護サービスの負担額を軽減するための様々な制度を包括していう言葉です。中には、本人の申請が必要な制度もあるので、条件などに関して確認が必要な場合は、お近くの市町村に相談してみましょう。
(9)精神的負担が重いと感じるときは
介護には、精神的にも、身体的にもストレスがつきものです。
終わりの見えない介護に対して、精神的にも肉体的にもかなりの負担を強いられます。
特に精神的な負担に関するストレスに関しては、目に見えて状態が分かりませんので、周囲から気がつきにくくなります。
精神的負担が大きくなる前に、そのストレスに早目に対処することをおすすめします。
世帯分離を検討するまえに是非検討してみて下さい。
ストレスに対して普段から心がけること
- 一人で介護を抱え込まず、気心の知れた人と話す機会を増やす
- 主介護者が全てのことをすると思わない。複数で協力して介護をする
- 介護保険サービスをフル活用して精神的に落ちく時間をつくる
- 担当のケアマネジャーさんを信用して、身近な相談相手にする
精神的負担が重たいと感じた場合の相談窓口
- 街の身近な介護相談所の地域包括支援センター(地域包括支援センターとは?)
- 地域の民生委員さん
- 心療内科や精神科の受診
- 行政機関(介護保険の担当窓口)
診療内科などの受診には抵抗を感じる人もまだまだ多いようです。
もちろん、必ず薬が処方されるわけではありませんが、担当医師に話を聞いてもらうだけで、悩みが軽くなる場合もあります。
金銭面の問題以外でも、自分がどのようなことがストレスに感じるのか話すと、違った角度で物事を見つめる方法などをアドバイスしてもらってみるのも、いかがでしょうか。
(10)生活保護受給のための世帯分離だけでなく、負担を減らす別の方法も考えてみよう
在宅介護においては、介護のプランに添って介護保険サービスが提供される仕組みになっています。
介護を受ける本人の身体状況や、要介護度と家族の負担の状態を配慮して介護のプランは立てられますが、介護負担の軽減を意識したものに仕上がるようにケアマネジャーさんに相談しましょう。
介護負担を軽減できる介護保険サービス3選
ショートステイ
特別養護老人ホームなどに併設されている場合があります。
食事、入浴、排泄、レクリエーション、リハビリなどを受け、3泊4日など短期間の宿泊を伴い施設で預かってくれるサービスです。
要介護度によって利用日数が変わってきますが、要介護5であれば連続30日間の利用も可能です。
下記の記事は、ショートステイに関するより詳しい記事になっています。
デイサービス
午前中、送迎により自宅を出発し午後には自宅に戻ります。
デイサービスでは、入浴、昼食提供、レクリエーションが主な活動になります。
最近では『お泊りデイサービス』というものもあり、夜間も預かってくれるサービスがあります。
下記の記事は、デイサービスに関するより詳しい記事になっています。
訪問介護
ヘルパーさんが自宅に来て介護を手伝ってくれます。
短時間ではありますが、確実に介護者の負担軽減になるでしょう。
下記の記事は、訪問介護に関するより詳しい説明になっています。
生活保護を受給する前に在宅介護を継続するには
生活が苦しくて親の介護が十分にできないと思っても、生活保護を簡単に受けることはできません。
「介護が出来ないほどお金がない」
「介護に不安がある」
「世帯分離をした方がいいのかも」
など自分の気持ちのなかに、考えるものがあればまずは誰かに相談することが大切です。
もし、困窮に対する悩みが大きいのなら、生活保護を視野に入れる前に、先述した「生活困窮者自立支援制度」を考えてみましょう。
生活困窮者支援制度とは
この制度は、生活保護を受ける程ではないけれど、生活が非常に厳しい状態にある方が対象となります。
相談窓口は各自治体に設置されているため、電話口で「生活困窮者自立支援制度について教えて下さい」と言えば、ほとんどの場合で担当窓口につないでもらえます。この制度の一番の特徴は、自分が生活全般において抱える悩みを解消するための支援プランを作成してくれることです。自分の生活のなかで具体的にどのようなことに困り、どのような不安があるのか具体的に話すことにより自分専用のプランを作成してくれるのです。
そして、そのプランの達成に向けて自治体の職員と二人三脚で取組むことができるのです。
経済的に生活が厳しいときに、一番最初に思いつくのが生活保護の受給という方も多いでしょう。
しかし、先ほど説明した「生活困窮者自立支援制度」をはじめとして、生活保護以外にも生活に関する負担を減らす方法は様々にあります。
分からないことは専門機関の窓口などに相談し、自分に合った制度を活用しましょう。