介護に関わるすべての人を応援します

嚥下障害とは | 症状・原因・リハビリ・食事介助の注意点など

病気
年齢を重ねると、食べ物を飲み込む機能がおとろえ、嚥下障害になりやすくなります。嚥下障害では、食事以外にもさまざまなデメリットがあります。本記事では、この嚥下障害に関して、原因や対策、嚥下訓練の方法などを説明していきます。
公開日
更新日

(1)嚥下(えんげ)障害とは

出典:https://www.photo-ac.com/main/detail/2564864

食べ物や飲み物を、口から胃まで送り込む動作のことを「嚥下」といいます。嚥下がうまくできないと、食べ物がのどや胸につかえる、気管に入る、口やのどのなかに残る、口からこぼれる、といった状態になります。これを、「嚥下障害」といいます。

嚥下障害は栄養不足や脱水症状を引き起こし、場合によっては窒息、肺炎など、命にかかわるケースも出てきます。高齢者にとっては、もっとも気をつけなければいけない症状のひとつです。

食べたり飲んだりすることが困難になると、次第に食事そのものを敬遠しがちになります。食べる楽しみがうばわれ、生活の張り合いを失うこともまた、嚥下障害の大きな問題となっています。

(2)嚥下障害の症状

嚥下障害になると、おもに次のような症状が見られるようになります。

食事中によくむせる

嚥下障害では、汁気の多い食品や水分を摂る際に、特にむせやすくなります。また食事以外でも、自分の唾液をうまく飲み込むことができずむせることもあります。

栄養が偏る

嚥下障害になると、固いものや乾燥したものが飲み込みにくくなります。そのため、軟らかいものや麺類など、噛む必要のない食べ物ばかりを好むようになります。結果的に栄養バランスが崩れ、体調を崩したり、水分不足にもなりがちです。

最後まで食べきらない

嚥下障害になると、食べ物をこぼしたり口のなかにいつまでも残ったりして、食事に長い時間がかかるようになります。そのため疲労や苦痛を感じて、最後まで食べきらなくなることが多くなります。

声がかれる

嚥下障害では、のどの異常によって声質にも変化があらわれます。特に、食後は声がかれやすくなるので注意が必要です。また水を飲んだり、口腔に残った食べ物に痰がからんだりすると、ガラガラ声になります。

体重が減る

嚥下障害になると、無意識に食事を敬遠するようになります。そのため栄養が不足し、体重が徐々に減っていきます。ほかに病気などの原因が思い当たらない場合は、嚥下障害を疑ってみましょう。

(3)嚥下障害が起きる主な原因

出典:https://www.photo-ac.com/main/detail/2089733

嚥下障害を引き起こす原因は、次の3つに分類されます。体の問題だけではないことに注意してください。

器質的原因

口からのどまでの器官の、いずれかに異常があるパターンです。

たとえば、口内炎で口の中に痛みが生じると嚥下障害を引き起こしやすくなります。のどでは、扁桃炎や食道炎などの腫れも嚥下障害を引き起こします。咽頭がんや喉頭がん、その治療による器官の変形も影響します。

ほかにも、唇顎口蓋裂などの先天的障害が原因となる場合もあります。

機能的原因

嚥下にかかわる機能がうまくはたらかないことで、嚥下障害になるパターンです。

高齢になると老化で筋力がおとろえ、のどぼとけが下がって気道を閉じにくくなり、嚥下障害になりやすくなります。義歯が合わない、唾液が少ない、舌でうまく食べ物をまとめられないといったことも原因となります。

また脳血管疾患やパーキンソン病などの神経筋疾患も、嚥下反射の機能をさまたげます。嚥下障害のじつに半数近くが、脳卒中が原因ともいわれています。

認知症による注意力や集中力の低下、向精神薬や鎮静剤などの影響も、機能的原因のひとつです。

心理的原因

体には何も問題がないにもかかわらず、心因性の疾患で嚥下障害を引き起こすことがあります。

たとえば、神経性食欲不振症や異食症では食事自体を避けるようになり、それが嚥下障害のきっかけとなります。また心気神経症では咽頭の異常を感じ、ストレス性の胃潰瘍や神経性胃炎などの心身症では胸焼けや吐き気によって、やはり食欲を失ってしまいます。

ほかにも、うつ病なども嚥下障害の原因のひとつとなります。

(4)嚥下障害により起こりうる誤嚥性肺炎とは

ものを飲み込むときには、自然にのどぼとけがせり上がり、気道を閉じるようになっています。しかし、何らかの原因でその仕組みがうまくはたらかないと、気道や肺に入り込んでしまうことがあります。これを「誤嚥」といいます。

健康な人であれば、たとえ誤嚥をしたとしても、せき込むことで異物を排出することができます。しかし、高齢になると筋力や神経のおとろえによって、その反射もうまく機能しません。この残った異物に細菌が繁殖することで引き起こされるのが、「誤嚥性肺炎」です。肺炎では、激しいせき、高熱、濃い粘り気のある痰、肺雑音、などの症状があらわれます。

しかし、高齢者の場合は反射機能がおとろえているため、このようなはっきりした症状はあまり見られません。代わりに、食事が長引く、食後に疲れを見せる、普段からぼんやりして元気がない、体重が減少するなどといった兆候が目立つようになります。

食事だけではなく、食後の胃からの逆流や、睡眠時の唾液の誤嚥なども、誤嚥性肺炎の原因となりえます。生活習慣や環境が遠因となっているケースが多く、何度も再発しやすいのも特徴です。

肺炎は、死因のなかでは三番目に多い病気です。そのうちの8割近くが、誤嚥性肺炎だと考えられています。高齢者の介護では、特に先ほど挙げたような兆候に気をつけるようにしましょう。

(5)嚥下障害の診断・検査方法

出典:https://www.photo-ac.com/main/detail/344888

嚥下障害の疑いがあるときは、かかりつけ医に相談します。歯科や口腔外科、耳鼻咽喉科、リハビリテーション科などには、嚥下障害の専門外来もあります。ほかにも、神経内科や外科、自宅訪問のサービスなども利用するとよいでしょう。

医療機関では、次のような診断および検査が行われます。

問診

本人や家族に対して、食事の際の様子、嚥下障害の程度、原因となりうる出来事などをたずねます。ほかにも、脳血管疾患や神経筋疾患、肺炎などの病歴、薬の使用についての情報も収集します。

視診および触診

嚥下にかかわる、口唇、舌、軟口蓋、のどぼとけ、などの状態や動きを見ていきます。また、口腔内や舌の感覚、咽頭反射なども確認します。

スクリーニング検査

テストによって、実際に嚥下障害があるかどうかを調べます。おもな検査には、次のようなものがあります。

  • 喉頭挙上検査…ものを飲み込んだときに、のどぼとけがどれぐらい動くかを見ます。1〜2cmが正常な動きとされています。
  • 改定水飲みテスト…3mlの冷水を飲んで、スムーズさ、むせ、呼吸、の変化などで嚥下障害を判定します。

  • 反復唾液嚥下テスト…30秒間で、唾液を飲み込む回数を胃はかります。3回以上が正常な回数となります。

  • 頚部聴診法…聴診器で、唾液を飲み込むときの音や呼吸から嚥下障害を判定します。

精密検査

嚥下運動は、外からの動きだけではしっかり把握することができません。そこで、嚥下障害の疑いがあると判定されたときには、以下のような専門機器による精密検査が行われます。

  • 嚥下内視鏡検査…喉頭ファイバーなどを鼻孔から挿入して行います。外からでは分からない口腔の奥まで、器官の動きや食べ物の流れを見ることができます。

  • 嚥下造影検査…バリウムなどの造影剤を飲み、それをX線透視によって検査します。ものを飲み込むときの詳細な様子が、はっきりと確認することができます。

(6)嚥下障害の治療法① 間接的訓練(リハビリテーション)

嚥下障害の治療では、おもにリハビリテーションによる回復をはかります。そのうち、食事以外の方法で行うものを関節訓練といいます。

特に重要となるのが、口や舌、頬などの運動です。舌を出す、頬をふくらませるなどの動きで、嚥下にかかわる器官の筋肉をきたえることができます。ほかにも「パ・タ・カ・ラ」行の発声トレーニングなども有効です。首や肩の周りの筋肉が硬いことも嚥下障害の原因のひとつとなります。首や腕をゆっくり動かすストレッチで筋肉をほぐし、リラクゼーションをはかりましょう。

また、腹式呼吸で横隔膜などをきたえ、咳をする練習をすると。誤嚥したときにも異物を排出しやすくなります。このような関節訓練は、食事前に行うとさらに効果的になります。

ほかにも、顎から下の筋肉のマッサージや、凍らせた綿棒に水をつけて口腔内や喉を刺激するアイスマッサージなどは、反射や感覚をきたえることができます。

食事中は、食べ物が通りやすい姿勢を保つことも大切です。背筋を伸ばし、首を前にかたむける。このような姿勢を数十分間保てるように訓練しましょう。

咽頭に障害がある場合は、カテーテルの先にバルーンを取り付け、喉や食道を広げるバルーン法なども用いられます。

(7)嚥下障害の治療法② 直接的訓練

直接的訓練では、実際の食事を行いながら嚥下機能をきたえていきます。まず基本としては、ゼリーやゼラチン、とろみ、ミキサーなどを用いて、飲み込みやすい食事を用意します。そこから段階的に、少しずつ通常の食事に近づけていく調整も行います。

口腔や咽頭に食べ物が残るのを防ぐには、固形物とゼリーなどを順番に食べる「交互嚥下」や、一口で何回か嚥下を繰り返す「複数回嚥下」などが役立ちます。

ほかにも、横を向いて食道を開きやすくする「横向き嚥下」、呼吸を止めることで気道への誤嚥を防ぐ「声門越え嚥下」、食事中に咳をして異物を吐き出す訓練などもあります。

また、普段は無意識で行っている嚥下を、しっかり意識して行うことも大切です。そのための声がけや、食事に集中できる環境づくりも欠かさないようにしましょう。

(8)嚥下障害の治療法③ 手術

嚥下障害が進んで重度になると、リハビリテーションだけでは改善が難しくなります。そのような場合に、手術が治療方法として用いられるケースもあります。

「嚥下機能改善手術」では、障害に合わせてさまざまな方法が適用されます。たとえば食道を広がりやすくする、のどぼとけを上がりやすくする、声門を閉じやすくする、といった手術が主な例として挙げられます。

それでも回復が見込めない場合には、「誤嚥防止術」を行います。これは、気道と食道を切り離してしまうことで、誤嚥を起こらないようにする方法です。ただし、発声機能が失われ、のどに気管孔を開けることが必要となります。

ほかにも食べ物や飲み物がまったく飲み込めない場合には、鼻から胃に管を通す「経鼻栄養」や、胃に穴を開ける「胃ろう」で、流動食や栄養剤を直接摂取する処置を行います。

(9)介護者が食事介助の際に注意すべきポイント4つ

出典:https://www.photo-ac.com/main/detail/2197688

嚥下障害では、本人だけではなく、食べさせる介護者が気をつけるべきポイントもいくつかあります。

食べにくい食品に注意する

嚥下障害になると、硬いものや乾燥したもの、水分と固形物が一緒になっているものはとても飲み込みにくくなります。

嚥下障害の程度に合わせて、もっとも食べやすいものを用意するようにしましょう。飲み込みやすい順に、ゼリー食、ムース食、ペースト食、ソフト食、軟菜食などがあります。噛む力がおとろえている場合は、あらかじめ食品を小さく切るなどの工夫も必要です。

ゆっくり食べさせる

嚥下障害では、食事に30〜45分ぐらいの時間をかけると、もっとも誤嚥を起こしにくく、かつ疲れもにくいとされています。その時間を目安に、一口ずつ、食べ物を飲み込むのを確認してからゆっくりあたえるようにしましょう。

よく噛んで味わい、食事に集中してもらうことも大切です。

一口を少なくする

一口の量が多くなると、誤嚥や窒息の危険性が高くなるので注意してください。ただし、あまり少なくしてしまうと、今度は逆に飲み込みにくくなってしまいます。

本人がもっとも飲み込みやすい量を、スプーンの大きさなどで工夫してはかるようにしましょう。

むせたときにもあせらない

むせている姿は苦しそうで、気の毒に感じるかもしれません。しかし、これはあくまで誤嚥を防ぐための正常な反射です。

焦っておさえようとせず、まずはゆっくり浅い呼吸をさせて、落ち着くまで待ちましょう。もし、せきこんでもうまく異物が出ないときは、下を向いて口を開かせ、背中をさすったり、軽くたたいたりして手伝ってあげてください。

深呼吸やうがいをすると、かえって気管に入り込みやすくなるので注意が必要です。

(10)嚥下障害の予防・治療を目指そう

嚥下障害は、年齢を重ねると誰にでも起こりうる症状です。筋力や神経は意識しないとおとろえるばかりなので、日頃からトレーニングなどで予防を心がけるようにしましょう。

そのためには、何より嚥下障害をよく理解することが大切です。特に、誤嚥性肺炎は高齢者になると本人も周囲も気づきにくい病気です。いち早く兆候を見抜き、できるだけ早い治療を行うようにしてください。

食事は、ただ単に栄養を摂ることだけが目的ではありません。日々の生活を豊かで充実したものにするために、いつまでも健康な食事を楽しめるようにしたいものです。

この記事が気に入ったら
いいねしよう!